祭りのあと、いちばん疲れた顔をしているのは、いちばん安売りした店長です。

楽天スーパーセール。月に20.1万回も検索される、国内EC最大級のお祭りです(DataForSEO調べ)。ところが検索結果に並ぶのは、ほぼ全部「お得に買う方法」。ポイントの取り方、買いまわりの順路、おすすめ半額商品——買う側の攻略法だけが、これでもかと積まれています。

売る側の攻略法は、誰も書いてくれません。

私は楽天ECコンサル「ラクリップ」を運営していて、セールのたびに 勝つ店 と 溶ける店 を隣どうしで見てきました。両者を分けるのは、才能でも広告予算でもなく——「セールが始まる前に何をしたか」。ほぼ、それだけです。

祭りの主役は、あなたの店ではない

まず、店側の目線でこの祭りの正体を押さえます。

楽天スーパーセールは年4回、3月・6月・9月・12月に開催されます。看板は「半額以下アイテム」と「ショップ買いまわり」。買いまわりは、1店舗1,000円以上の買い物を店舗数ぶん重ねると、ポイント倍率が最大10倍まで上がる仕組みです。

買いまわり、SPU、スーパーセールサーチ。

ちょっと何言ってるか分からない。要は「期間中だけ、お客さんの財布のひもが激ゆるになる仕組み」です。

ここで、目線をひとつ切り替えます。この祭りの主役は 楽天市場という神輿 であって、あなたの店ではありません。店は担ぎ手です。

担ぎ手が主役のつもりで暴れると、肩を砕きます。神輿の進む方向——つまり楽天市場が作る巨大な人の流れに、自分の店をどう沿わせるか。担ぎ方を知っている店だけが、祭りの人出を自分の売上に変えます。

疲弊する店は、当日にがんばる

セール初日の深夜、RMSの売上速報を10分おきにリロード。数字は増えない。増えないったら増えない。……店長、寝てください。

冗談みたいですが、コンサルの現場で本当によく見る光景です。

疲弊する店のムーブは、だいたい3つに集約されます。

1. セール直前に、思いつきで半額商品を作る2. ポイントとクーポンの原資を、利益率から逆算していない3. 売れないのに焦って、セール中に広告を増額する

結果、売上のグラフは跳ねます。跳ねるんです。でもセール後に利益を締めると、ポイント原資と広告費と値引きで きれいに蒸発 している。しかも半額目当てのお客さんは、次の祭りまで戻ってきません。残るのは疲労と、在庫の谷間だけ——。

偉そうに書いていますが、私にも苦い過去があります。EC黎明期、「セールで売れますよ」という営業トークに乗せられて、使えないツールに年間契約を結んだことがあります。祭りの熱に浮かされると、人は財布と判断力を同時に落とすのです(実証済み)。

儲かる店は、始まる前に終わらせている

一方、儲かる店の店長は、セール中わりと暇そうにしています。

フッ、こんなこともあろうかと——仕込みはすべて済ませてあるからです。

先回りして準備を終えた人の顔、というやつです。仕込みは大きく3つ。

1つ目。検索順位は、セール前に作る。

セール期間中、楽天市場内の検索流入は平時と桁が変わります。その洪水を受け取れるのは、検索上位にいる店だけ。そして現場の肌感として、楽天の検索順位は直近の販売実績と転換率がモノを言います。セール中に順位を上げようとしても、もう遅い。セールの2〜4週間前から商品名・画像・レビューを磨き、平時の順位 を1つでも上げておく。ここが本番の陣地になります。

2つ目。導線と申請は、カレンダーで決まる。

買いまわりはエントリー必須です。お客さんがエントリーし忘れたまま買うと倍率が付かず、がっかりの矛先はなぜか店に向きます(理不尽)。だから店内の目立つ場所にエントリーバナーを置く。半額目玉をセールの特設検索(スーパーセールサーチ)に載せたいなら事前の申請と審査があり、締切はセール開始よりずっと前。当日に思い立っても、祭りの屋台の区画はもう埋まっています。

3つ目。値引きは「設計図」で決める。

全品一律の値引きは、いちばん元気よく体力が溶けます。集客用の目玉(赤字覚悟・数量限定)と、利益を取る本命商品をはっきり分けて、目玉から本命への同梱・買い合わせで回収する。ポイント原資は「何倍」という率ではなく、1件あたり何円 という額で見る。ここまで描いて、初めて半額を打つ資格が生まれます。

半額は 値引き ではなく 広告費

勝っている店に共通する頭の切り替えが、これです。

半額は値引きではなく、広告費——。

目玉商品の赤字を「安売りの損」ではなく「新規のお客さんを連れてくる宣伝コスト」として予算化する、という意味です。そう考えると、RPP広告のクリック課金と同じ土俵で費用対効果を比べられます。

そして、祭りで持ち帰るべき本当の戦利品は、当日の利益ではありません。

レビュー。リピーター。そして販売実績です。

セール中に積んだ実績は、セール後の検索順位を押し上げます。順位が上がれば平時の売上が育ち、次のセールでさらに大きな波を受けられる。勝つ店はこの 複利 を知っていて、疲弊する店は当日の売上速報だけを見つめています。

次の祭りまでに、1つだけ

やることを1つだけ置いて、終わります。

自分の店のメイン商品を、お客さんが打ちそうな言葉で楽天市場で検索して、いま何位にいるか確かめてください。

2ページ目にも出てこないなら、半額の設計を考えるのはまだ早い。参道の外れに屋台を出しても、神輿は通りません。まずは、自分の立ち位置を知るところからです。

あきらめたら、そこで試合終了ですよ……? まずは検索窓に1語打つ、そこからです。

セールは、店の実力を増幅する装置です。強い店はより強く、準備のない店はより疲れる。だからこそ、祭りの前の静かな数週間に店を磨いてほしい——これが、神輿の事故を現場で見続けてきた人間の、いちばん青臭い本音です。

かく言う私は、神輿を担がずに担ぎ方を教える笛吹き係です。祭りでいちばん、声だけ大きいやつ。おかげさまで、肩だけは無事です。