
AIの進化を、いちばん分かりやすく説明する方法を、私はひとつ見つけました。ナポリタンです。
数年前まで、ChatGPTに「ナポリタンください」と言っても、返ってくるのは作り方だけでした。玉ねぎを切って、ウインナーを炒めて、ケチャップは少し焦がすと旨い——レシピを朗読されて、はい終わり。腹は1ミリも膨れません。
でも今は違います。「ナポリタンが食べたいので、作って」と言えば、AIエージェントは本当に作れる。比喩でも夢物語でもなく、実際にあなたの目の前へ、湯気の立つ皿を出せる、という事実の話です。
今なら、エージェントがWebブラウザを開いて、Uber Eats などで勝手に注文できます。やろうと思えば、もう。
そして数年のうちに——テスラをはじめ各社が開発中のヒューマノイドが、家にやってくるかもしれません。価格は、各社が量産時に狙うのが数百万円台(今の製造コストはもっと高いし、ボストンダイナミクスのような産業用は数千万円。あくまでメーカーの“目標”です)。テスラは家庭向けを早くて2027年あたりと言っています——が、マスクの言い分なので話半分で(笑)。頭にAIを積んだ彼らが、キッチンで本当にフライパンを振って、あなたの前に皿を置く。皿洗いも洗濯も、文句ひとつ言わず無限にやる。労働力が、家に1体。そんな未来の話です。
AIを「キッチン」で考えると、全部スッと入る

難しいカタカナが、急にうまそうな話に変わります。
LLM(AIの頭脳)は、シェフ。
ハーネス(環境)は、キッチン。コンロがあって、水道が出て、冷蔵庫がある——シェフが気持ちよく動ける厨房です。
コンテキスト(情報)は、食材。良い食材がなければ、三ツ星シェフでも何も作れません。
ツールユース(道具を使う力)は、フライパンや鍋。シェフが手に取れる道具です。
そしてプロンプトは、注文。「ナポリタンください」の、あの一言です。
良いシェフに、良い厨房と、良い食材と、使える道具を渡して、ちゃんと注文する。これが揃った時に、初めて皿が出てくる。AIが分からない人に説明する時、私はいつもこの厨房の話をします。たいてい「あぁ」という顔をしてくれます(してくれない人も、いました)。
どうやって、ここまで来たのか

経緯を、駆け足で。2023年、ChatGPTが使えるようになった頃は、本当に チャットだけ でした。喋るだけのシェフ。
そこに絵を描けるようになり、次に道具を使えるようになった。AIがフライパンを握った、まさにこの瞬間に、エージェントが生まれます。さらに段階的に試行する力を得て、一発勝負ではなく、手順を踏んで考えるようになった。
そして今、いちばん大きいのが、頭脳そのものの進化です。長い時間、人間のように考え続けられて、情報さえあれば、途中で適切な判断を、自分で下せるようになった。
証拠ですか。ポケモンです。AIが、ポケモンを ほぼ自力でクリア した、というニュースを、最近よく見ます。画面を見て、どこへ行くか分かって、ストーリーを追って、ポケモンを育てて、道具を使って、エンディングまでたどり着いた。これ、とんでもないことなんですよ。途中で何百回も「次どうする?」を、自分で判断し続けた、という証明なので。
次に来るのは、「ループ」
最後に、これからの話を。新しく出てきた言葉に、ループエンジニアリング と フィジカルAI があります。フィジカルは、さっきのロボット——体を持って、注文を最後までやり切る側。
そして ループ。これは、指示を 閉じ込める 概念です。AIが、自分のやったこと・考えたことを、自分で評価する。合っているか確かめて、実行する。実行した後も、また評価して、改善する。一個前に戻って「さっきの手順、どうだった?」と反省する。私たちが横で逐一指示しなくても、できる部下のように、勝手に回り続ける。
これができると——究極のナポリタンを目指せます。毎週、自分で買い物に行って、ナポリタンを作って、私の評価をもらって、それを次に反映する。先週より、ほんの少しだけ、うまくなる。それを延々と繰り返した先に、三ツ星シェフ がいる。ループエンジニアリングって、要は「勝手に上達し続ける仕組み」のことです。

——と、ここまで偉そうに語ってきた私ですが。さっき自分のAIに「いい感じのナポリタン、頼む」と雑に投げたら、ペペロンチーノが出てきました。食材を、ちゃんと渡さないとダメですね(遠い目)。