「惑星ハニューにようこそ!」のNympheaさんが、紹介翻訳して下さっている、マルティーナ・フランマルティーノさんによる採点分析シリーズ7「開催国のオフィシャル達:アメリカ」の中に、ルール以外のものを指針としてしまうジャッジたちの気持ちを推測した記述がありました。

 

最初の例は、2019SCで男子シングルを採点したオーストラリアジャッジ、リサ・ジェリネク。

羽生さんのショートのGOE、PCSともあまりに渋い点をつけたために、ネット上でその採点を批判する声が直ちに数多く上がったそうです。すると、フリーではGOEもPCSも大判振る舞いしたという話。特にPCSは、ショートでオール9.00(Inだけ9.50)から、フリーでオール9.75に上昇。

「オール9.75にしたわよ。文句ないでしょっ!」という心の声が聞こえてきそうです。

これは、ネットの声に左右された例。

 

もう一つの例はおなじみアメリカのローリー・パーカー。

2019全米選手権の男子シングル、ショートのネイサン・チェンに対して、4人のジャッジが彼女より高い得点を与えたそうです。

すると彼女はフリーにおいて見事に、ネイサンへの2番目に高い採点者に返り咲きました。

トップのジェシカ・バスガングはGOEオール5(CCSp4のみ3)、PCSはオール10.00(真面目に採点する気がなさそう)。

ローリー・パーカーはGOEではバスガングに負けてしまい2番目に高い点でしたが、PCSはオール10.00。

どっちがネイサンに高い点数をつけるか選手権をやっているようです。

 

このときのショートの後のローリー・パーカーの心の声を、マルティーナ・フランマルティーノさんはこう、推測しています。

「どうしよう。このままでは米スケ連は、来月のワールドに私でなく他の審査員を派遣してしまう。フリーで挽回しなくては」

 

なんだか、とても納得してしまいます。

 

 

次に、アメリカに限らず、世界のジャッジについてです。

 

マルティーナさんは、ネイサン・チェンがシニアに上がってからの4シーズン、大会で得点したPCSを分析されています。各シーズンの全米前の平均、全米、全米後の平均をまとめられており、全米で点数がぽんと上がるとそれに連れて以後の国際大会での点数もじわじわと上がっている、というのがはっきり見て取れます。

それをグラフにしてみました(見やすさのため、SPの点は二倍しています)。

 

2017-2018シーズンは、全米後のSPのPCSが全米前より上がっていませんが、これはオリンピックで予想外にひどい演技をしてしまったためだと思われます。

 

米スケ連はこうやって、戦略的にネイサンのPCSの点を上げてきたのだな、と思いました。1月の全米で吊り上げて2月のオリンピックや3月のワールドの点に影響を与えるのです。

2019全米のネイサン・チェンのフリーの得点は228.80。総合342.22。これが2019ワールドの爆盛り採点へと続いたのです。

 

 

 

私は、ローリー・パーカーやかつてのジョー・インマン、あるいは一部の日本のジャッジのような確信犯的ジャッジは、少ないと思っています。

では、何故全米の採点が国際大会にこれほど影響を与えるのかということですが、これは一般の良識はあるけれども気概のないジャッジの心理を突いているのだと思います。ここで「良識がある」とは、連盟からの指示や買収(お金に限らない)によって特定の選手を不自然に採点することをしない、という意味です。

 

既に削除されてしまいましたが、国内大会のジャッジの方が実名ブログで、「本当に相応しい点数を付けたいと思うが、ジャッジの平均から浮いてしまうと、ミーティングで詮議される、ヘタをすると資格を剥奪されてしまう」ということを書いておられました。

「PCSの5つのスキルが一様でない選手は結構いる。INやPEがよくてもSSやTRがお粗末な選手はいる。逆もある。それが実際には採点されると、ほとんど同様な点になってしまう」と。

 

つまり良識はあっても、気概のないジャッジたちは、GOEはともかくPCSで自分の点が浮くことを恐れている。だから、過去の試合の採点を見て「この選手のPCSはこの辺なんだな」と予習し、そこからあまり外れないように採点を行う。その時に全米の採点も参考にするのだと思います。

 

今や、良識はあっても気概のないジャッジたちは、フィギュアスケートの採点をスポーツの採点だと思っていない、「美人投票」だと思っているのだと思います。

 

「美人投票」:「100枚の写真の中から最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える新聞投票」→「投票者は自分自身が美人と思う人へ投票するのではなく、平均的に美人と思われる人へ投票するようになる」Wikipediaより

 

この「美人投票」というのは経済用語だそうですが、自分が良いと思った物件に投資するのではなく、平均的に良いと思われている物件に投資する現象を指すのだそうです。

 

今のフィギュアスケートのPCSの採点にそっくりでしょう? 

 

ルールに基づき自分の判断で採点する気概のあるジャッジは、今やとても少ないということなのでしょう。

他の人たちが出しそうな点数を基準に自分も点を出す。

自分で価値を判断するのではなく、人が決めた株価に従うのです。

だから過去の試合のプロトコルを参考にする。

全米の採点も参考にする。

だって他のジャッジはそれを参考にするかもしれないから。

 

そういう研究の時間がないときは、ジャッジ席に過去プロトコルを持ち込んだり、隣の人の採点を覗き見したりするわけですね。イタリアのトイゴさんのように。

 

全米や全露などで点数が不自然に上がり、それに影響されて国際試合でも点数が上がり、そうやって、PCSの点は、以前とは全く違うレベルまで上がってしまったのでしょう。

どんどんインフレして、パトリックよりずっと下手なスケーターにパトリックより高いPCSのSSが付くようになってしまった。

 

今や誰も、どういう演技が「Outstanding」で、どういう演技が「Exellent」なのか、わからなくなってしまっているのではないでしょうか。

 

 

一方、羽生さんのPCSは2015年のGPFがピークでした。日本スケ連による持ち上げなど一切無い環境の中、彼が彼の演技で勝ち取ったものです。

それ以降、どんどん下がっています。

2020年の4CCのバラード第1番は、珠玉の演技でした。2015年GPFの演技よりすべての技術、表現が円熟していてずっと高く評価されてよいはずだと思うのに、実際は低い。演技がよくなればなるほど、低いPCSを付けるのかと思うほどに。

 

私は、羽生さんのPCSについては、ISUか、あるいは全米スケ連から、抑えるようにという指示があっただろうと思っています。公に全員にではなかっただろうけれども、何人かがそれに従えば平均は下がるのだから。そして、良識はあるが気概のないジャッジたちは、その下がった点数を基準として採点する。そうやって操作されたのだろうと確信しています。

 

一番罪が大きいのは、意図して点数を操作する人たちかもしれないけれど、気概のないジャッジたちと、採点が平均から大きく外れると問題として取り上げるというISUの方針も負けず劣らず、PCS採点を崩壊させたのだと思います。

 

私はもうネイサンのプロトコルは見たくありません。羽生さんのプロトコルも見たくありません。

羽生さんの演技だけが観たいです。