マコと出合ったのは20歳の雪が降る頃だった。
テーブルが10ほど並んだパブ。彼女はそのパブの店員、純の彼女だった。
何度か店で顔をあわせ、同い年と分かってから急速に仲良くなっていった。

背丈は150センチぐらいで小柄、ちょっとぽっちゃりとした顔に大きな目がキラキラ光る。白いニットに黒のタイトスカート、黒のブーツが彼女の定番のスタイルだった。

私達は週に何度か店で会い、どうでもいい話題に花を咲かせてふざけていたが、彼女が純の視線を気にしていることは十分分かった。店が終わる午前3時すぎ、いつものように彼と一緒に帰っていった。

ある日、純が休みの日に店に現れた。
少し酔っているようだった。

隣に座る。いつも言葉は多い方だが、その日はかなりはしゃいでいて、すこし気になった。

彼女は昼間は歯科衛生士の仕事をしていた。毎日いろんな人の口の中に手を入れる。

「私ね、仕事でそうだから、他人の口に指を入れるのは平気なのよ」
と突然言う。そして、
「ほらっ」
私の口の中に右手の人差し指の一つ目の関節までを入れてきた。
舌で触った彼女の指は少し冷たかった。
妙な感覚が走り、細い指先をきっと噛んだ。
彼女はくすっと笑った。

そして、顔を近づけてキスをした。
酔っていたのか、しらふだったのか、それきり彼女とは会っていないから分からない。
ただ、男の人と違う唇の感触はしばらく消えなかった。
たぶん、私が物心ついたときから一緒にいたのはユキだったんだと思う。
彼女は私より2つ年上で、色白、小柄な身体。一重でちょっと古風な顔立ちのかわいい子だった。

彼女が高校1年の時、クラスメートの彼氏が出来た。
毎日学校から帰ってくると、隣の私を呼びに来て、彼氏の話をたくさんしてくれた。私は一度も彼に会ったことがなかったが、いつの間にか彼女の彼氏に対しての甘い気持ちを抱くようになっていた。
彼女の話は、14歳の私には少女マンガの世界のようで、たぶん、マンガの世界の男の子に恋をするような、そんな感じだったんだろう。

その彼とも何ヶ月後に破局。
ユキは高校に入ってから、かなり魅力的になり積極的になったから、彼氏は次から次へと変わっていった。
その度に彼女の彼にアコガレを抱いていたような気がする。
まったくおかしい話だけど・・。

お互いに大人になった今も、たまに話をしたりするが、今は家庭と子供の話が中心になってしまった。

だけど、彼女の顔を見ていると、あの頃の濡れた唇と潤んだ瞳が蘇ってくる。
私は彼女が羨ましかったんだ。



著者: くすもと みちこ, スネル 博子, うえだ いずみ
タイトル: やさしさの木の下で―ぼくとびょうきとファミリーハウス