何もない田舎を就職で飛び出した私は、家電量販店の魅力に取りつかれた。
ソフトウェアがなければ何もできないということを知る前に衝動的にモノクロのノートパソコンを買ったり、くだらないおもちゃを買って帰る休日が待ち遠しかった。
入社半年、「変な人間」ならではの周囲との軋轢が怒涛のように発生し、当時まだ使われ始めだった「ストレス」を感じるようになった。
ただ、「なんでストレスを感じるのか」に言及することはなく、「仕事をすればストレスがたまる」というお花畑の理屈で片付け、何故怒られるのか、何故注意されるのか、全く考えることはなかった。
言われたこと、されたことを面白おかしく食堂で同期に話す自分を、おそらく「こいつ、相当にやばい奴」と思われていたに違いない。それどころか、外部の友人には話を捻じ曲げ、「そんな会社おかしいよ」と自分が悪くないという話を引き出すようにしていたように思う。
自動車やサーフィンなど趣味に打ち込む土日と、週5日のメインである会社生活との質の違いが日に日に大きくなっていく。土日は思うようにやりたいことをやれるのに、月~金は何も役に立っていない、役に立っていないといわれる暗い毎日を送っていた。
そんな中、当時珍しかった「自律神経を整える」というカセットテープを家電量販店で見つけた。完全な「対処療法」でしかない。
徒歩10分の寮からも遅刻が続くようになり、「早く起きる」ではなく、週末にボロボロの中古スクーターを購入し、試し乗りもせずいきなり翌日の朝エンジンがかからなくて遅刻するという、もう本当にどうしようもないことを繰り返していた。
本来なら、そこらで反省し、改める点を見つけ出し、改善していく方向に家事を取るべきだったのだろう。何度も機会はあったのに、いつも何かに逃げてはその機会を避けてきた。
自分の息子には、そんなことをきちんと教えてやろうと思っていたが、「息子には必要ない」のだ(笑)いつどのようにして身に着けたのか、あるいは本来「普通の人間」はそんなことは自然と生きていくうちに身に着くのか…。
自分の何が悪かったのか?にほんの数年前まで向き合うことはなかった。
周りが私に直接、間接的に指摘してくれなかったのは優しさだと思い込んでいた。裏を返せば、周りに我慢を強いていたことになる。
いや、ただただ指摘するのがめんどくさかった、あるいは指摘するだけの価値がないと思われるほど「変な人間」だったのだ。
小学校の教育実習の先生、高専時代に約束をすっぽかしてひどく怒らせた友人、お前のドラムは下手だとはっきり言った先輩、思いやりのない自己中心な人です、と手紙をくれた中学の同級生の女の子。
特に気にしなかった。「あーはいはい」と完全に他人事モードにしてしまう悪い思考のねじ曲がりがある。
まだ自分自身で答えや確信を得たわけではないが、それが近しい周りの人間をイライラさせたのは間違いない。
仕事にも「成長した」という手ごたえもない。そんな中、3年が過ぎた。
やる気のない毎日、同じ間違いを何度も繰り返す毎日。プライベートと仕事との隔たりはますます大きくなっていった。
ほぼ誰もが2回目には合格する外部の資格試験にも5回目になっても合格できなかった。何を聞いても、何のために何をやっているのか理解できなかった。
まだまだ、「転職は悪」な時代だったからか、仕事を辞めるという選択肢は当時の私には微塵もなかった。このまま勤めていればきっと何とかなる、というこれまた究極の他力本願、人任せ、他人事、で毎日を過ごしていた。
対人関係の軋轢は日に日に周りが不快な感情をため込んでいくので大きくなった。見捨てる人も多くなっていった。先輩からは「芽が出ない」と言われるようになった。「仕事ができない」ことに対して、かっこ悪いとか、恥ずかしいとか、努力しようなどの感情はなかった。
当時の職場に外注の人が数人いた。うち1人は私をほぼ見捨てて匙を投げている社員と同じように私にダメ出しをしてくる人だったが、残りの人は本当に温厚で、私がきつく怒られたあとには決まって手招きして私を呼んで、慰めてくれたりした。
「あなたは大器晩成型なんだから、焦らなくて大丈夫」とも言ってくれた。当然、「変な人間」には「先でいいことがおこるから」にしか解釈できていない。
その証拠に、大器晩成などしていない(笑)
何をやっても責められるこんな毎日がいつまで続くのか見当もつかないまま、幸いなことに、物事を深く考えたり受け付けないおめでたい癖のおかげで、土日は別人のように遊び歩いていた。
そのような状況にあっても、「ものおじせず」「落ち込まず」毎日会社にくる私は、さぞかし話題に(悪い意味で)なっていただろうし、話のタネになっていただろう。Z世代?そんなのは全く比較にもならないほどひどい24歳の自分が間違いなくあの場所にいた。知らない間にやってもいない、言ってもいないことをやったり言ったりしていることにされたり、例の同じ寮にいた先輩からそれを聞かされて、調子にのって人を傷つけるな!と無実の罪で怒られ、本人の家に謝りに行ったこともあった(それがもうおかしい)
怒涛のように起こるトラブルと、表面的にはニコニコと好意的な職場の人間。社会人になるまでにはっきりとは理解できなくてもある程度「社会のしくみ」に触れることをしていれば、何とか周りに溶け込めたのかもしれない。目立たず、謙虚に、協調性、私にないものだらけだ。
そんな中、みんなから大人気だった職場に配属された新人の女性と社内恋愛になってしまい、ご想像の通りますます周りからの風当たりが強くなっていく。
例の自律神経を整えるカセットテープは、2、3回聞いただけで聞かなくなった。
ソフトウェアが入っていないノートパソコンは一回起動しただけで押入れで眠っていた。
