~私立探偵コジマ&検察官マイコ~
Vol.2‐②
「逃げて来たんです。場所はわかりませんが、どこかの体育館みたいな所から。
大会出走後、ホテルの部屋でくつろいでた時に、急に人が入って来て、そこから先は何も覚えていないです。
記憶に残ってるのは、ビニールテープで口を塞がれ手足を括られていて、広い古ぼけた体育館に自分が転がっていた。
部屋で足の爪を切ったり、外反母趾の手当てをしたりしてて、
『ホテルの従業員です。お届け物持ってきました』ってドア越しに云うから、背中向けたまま『どうぞォ』って。そしたらいきなり後ろから口を布かなんかで塞がれて。。。
あとは覚えてないです」
「ということは、ホテル従業員ではなく連れ去り犯人が入室して来た可能性が高いですね。
それから、片足は裸足だったのは、フットケアを部屋でしていた、と。もし気を失ってたなら、堀田さんを運び出すなら単独では難しそうですね。。。
犯人はどうやって部屋のロックを解いたんでしょう」
「あ、それは簡単です。夜10時に専属トレーナーの男性がマッサージに来るので、ストッパーを挟んでおいたのです」
「えっということは、トレーナーが後ろから口を塞いでもおかしくないし、それ以外の誰かも判ってないんですね」
「はい。でも、連れてかれた体育館にはトレーナーや身近なスタッフはもちろん居ませんでした。
たしかに2人はいました。会ったことない男性2人です」
「監禁か拘束されてるんだと分かって、僕、独りが小用で居なくなった時、もう一人を突き飛ばして逃げて来たんです。
めっちゃ寒い体育館だったから、どこかゲレンデのすぐ近くです。おとなしくしてるフリして両手を縛ったビニールテープをひねって引きちぎりました。分からないように。
んで、黙って様子見ながら一人が出てったスキに、両足縛られたまんまで相手の脛を蹴飛ばして、怯んで屈み込んでる間に足を縛ったビニールテープも引きちぎりました。
んで。外で出て隠れてて、しばらくして走って逃げて来ました。どこか分かりませんが、茅野駅近くまで来たので、ここまで夜中歩いて来ました」
一度の会話セリフに、情報量がたくさん詰まり過ぎている。
麻衣子も聖子も、頭の中を整理しないと混乱して来ていた。
聖子はひと口バナナジュースを飲んで、麻衣子もひと口だけミルクティーを飲んで、ふたり同時に「おちつけ。おちつけ自分」
と自身に言い聞かせていた。
双子のように全く同じトーンで同時に。
仲埜刑事と京極精次は、そっちの方がビックリしていた。
堀田冬馬も、思わず瞬きしないで二人の女性を見比べた。
「あっ、ごめんなさい。
聖子と私は司法試験でロースクールの同期なんです。模擬試験のたびに、2人して「おちつけ。おちつけ自分」って喝入れるクセあったんです。
聖子は福井県出身で、結婚する前は志賀高原でスキーのインストラクターをやっていました。
私はスノボしかできません」
「ボクもスキーができません。スノボは初心者です」
「訊いてませんてば。京極さんのは」
「わかりました。私たちはこれで引き上げます。