連作ミステリ長編☆第4話「シャーマンは長いお別れのあとに」Vol.2‐② | ☆えすぎ・あみ~ごのつづりもの☆

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~私立探偵コジマ&検察官マイコ~

 

Vol.2‐②

 

「逃げて来たんです。場所はわかりませんが、どこかの体育館みたいな所から。

 大会出走後、ホテルの部屋でくつろいでた時に、急に人が入って来て、そこから先は何も覚えていないです。

 記憶に残ってるのは、ビニールテープで口を塞がれ手足を括られていて、広い古ぼけた体育館に自分が転がっていた。

 部屋で足の爪を切ったり、外反母趾の手当てをしたりしてて、

『ホテルの従業員です。お届け物持ってきました』ってドア越しに云うから、背中向けたまま『どうぞォ』って。そしたらいきなり後ろから口を布かなんかで塞がれて。。。

 あとは覚えてないです」

 

「ということは、ホテル従業員ではなく連れ去り犯人が入室して来た可能性が高いですね。

それから、片足は裸足だったのは、フットケアを部屋でしていた、と。もし気を失ってたなら、堀田さんを運び出すなら単独では難しそうですね。。。

 犯人はどうやって部屋のロックを解いたんでしょうはてなマーク

「あ、それは簡単です。夜10時に専属トレーナーの男性がマッサージに来るので、ストッパーを挟んでおいたのです」

「えっ!?ということは、トレーナーが後ろから口を塞いでもおかしくないし、それ以外の誰かも判ってないんですねはてなマーク

「はい。でも、連れてかれた体育館にはトレーナーや身近なスタッフはもちろん居ませんでした。

 たしかに2人はいました。会ったことない男性2人です」

 

 

 

 

 

 

「監禁か拘束されてるんだと分かって、僕、独りが小用で居なくなった時、もう一人を突き飛ばして逃げて来たんです。

 めっちゃ寒い体育館だったから、どこかゲレンデのすぐ近くです。おとなしくしてるフリして両手を縛ったビニールテープをひねって引きちぎりました。分からないように。

 んで、黙って様子見ながら一人が出てったスキに、両足縛られたまんまで相手の脛を蹴飛ばして、怯んで屈み込んでる間に足を縛ったビニールテープも引きちぎりました。

 んで。外で出て隠れてて、しばらくして走って逃げて来ました。どこか分かりませんが、茅野駅近くまで来たので、ここまで夜中歩いて来ました」

 

 

 一度の会話セリフに、情報量がたくさん詰まり過ぎている。

麻衣子聖子も、頭の中を整理しないと混乱して来ていた。

 聖子はひと口バナナジュースを飲んで、麻衣子もひと口だけミルクティーを飲んで、ふたり同時に「おちつけ。おちつけ自分」

と自身に言い聞かせていた。

 双子のように全く同じトーンで同時に。

 仲埜刑事と京極精次は、そっちの方がビックリしていた。

 堀田冬馬も、思わず瞬きしないで二人の女性を見比べた。

 

 

 

 

 

 

「あっ、ごめんなさい。

 聖子と私は司法試験でロースクールの同期なんです。模擬試験のたびに、2人して「おちつけ。おちつけ自分」って喝入れるクセあったんです。

 聖子は福井県出身で、結婚する前は志賀高原でスキーのインストラクターをやっていました。

 私はスノボしかできません」

「ボクもスキーができません。スノボは初心者です」

「訊いてませんてば。京極さんのは」

 
 京極精次と仲埜刑事は、間の取り方も旧知の仲みたいに、合いの手を入れて来た。
 堀田冬馬は、ホットミルクを口に運びながら、少しだけ表情を緩めた。笑顔になると、八重歯が目立つ。
 
 この鋭い八重歯で、ビニールテープを引きちぎったんかな❓
 
「すみません。たくさんしゃべり過ぎて。
 今シーズン中は、酒も珈琲も絶ってるんです。願掛けで。
禁酒禁カフェのおかげでメダルは取れましたけど、嬉しさもいっぱいから、大どんでん返しでした」
 
 
 
 
 
 笑わせていたはずの仲埜刑事が、今度は神妙な面持ちでポケットから小さなビニール袋を取り出した。
「これは、どこに在ったのか知っていますか❓」
 
 ハッとして口を開いたまま、言葉が出て来ない堀田冬馬
「あなたは逃げ延びた後、夜中に諏訪神社に行ったのは、これが目的ではないですかはてなマーク
 
 遺留品のように、掲げた密封のビニール袋に入っていたのは、スライド式にUSBプラグが出て来るジャックの蓋が一つ。
「これは、諏訪神社の龍神の湯、石造の龍の口の中ですねはてなマーク
「いいえ。龍の口の中ではないのです。口から出て手洗い鉢のお湯の中に沈んでいました。
 USB本体は、どこに在りますかはてなマーク
 
「僕が持っています。自宅に。でもそれ、コピーされてます」
「そこか。。。」
「龍の口の奥に在りませんでしたかはてなマーク
「ないです。探しました。そこら辺じゅう探しました」
「、、、そうでしたか。。。」
「複製は困難ですよね?お湯の中ですから、データが正常に再現できないかもです。知ってましたか❓」
「はい。知っていました。
無くしてしまおうと。情報を消してしまおうと。とっさに諏訪神社の隠し場所に、取りに来ました。でも力尽きて倒れてしまったのです」
 
 
「いつ、隠しに来たのでしょうかはてなマーク
「5日前。直近の大会出場で前泊前乗り込みしてました。お参りに来て、ゲン担ぎに辰年だから龍神に隠そうって」
「ありがとう。今日はここまでで良いです。
そのUSB本体に大変な情報が納まってるのですねはてなマーク
「はい。日本代表の未来に関わります」

「わかりました。私たちはこれで引き上げます。
 貴重な面会時間にすみませんでした」
「いえこちらこそ。助けて頂いたしお礼を言いたいくらいです」
「退院される日に、また伺います」
 堀田冬馬は頭を深く下げると、カフェテリアを出て病室へと帰って行った。
 
 
 
 
 
 
 諏訪中央病院病院から離れて、北アルプスの高原地帯を遠くに見つめる、麻衣子聖子精次
 長野県警の仲埜陽一刑事だけが、険しい顔つきで考え事をしている。同じパトロールカーに乗り込んだ3名の有給休暇は、終日本件の事情徴収と捜査協力に費やす事と成った。
 
 考え事の答えが出たのか、仲埜刑事が顔をあげて、呟くように
3名に告げる。
「堀田冬馬は、グレーかもな。。。
 あれは何か隠してるよ、、、誰かをかばっているんだ。。。
 違いない。他にも知っている人がいるはずで、その人の隠した場所が、諏訪神社だったんだ。。。きっと」
 
「どうやったら、そんな詳細な結論が出て来るんですかぁはてなマーク
「いやいやいやいや。【仮説】という名の結論を先に出しておくから、動き出せるんだよ。それが証明問題ってやつだよ。解決への道だよ」
「、、、納得」
 
 
 
 
ーーー to be continued.