~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~
Vol.6‐①
JR「のぞみ」を新横浜駅で降車し、私立探偵菅原道兼は、在来東横線に乗り換えて、武蔵小杉に辿り着いた。
探し廻るまでもなく、空を見上げれば黒田紫苑の住んでいるタワーマンションは、すぐに見つかった。
〈タナベ・カンパニー〉の担当マネージャーは、佐々木ではなく20代後半の滝田という男に連絡を入れる。
「申し訳ないですが、タワマンのロビーで待ってやって下さい。
僕から下に降りて来るように伝えます。
今10時過ぎですから、半頃には到着できますか❔」
「大丈夫です。ぁ、オートロックはどうしますか❔」
「僕が玄関ホール前の植え込みんとこで、待ってます」
「かしこまりました」
「レオンさんの側でも、相談したいそうです。あなたに」
「ぁ、レオンさんで通すんですね❔」
「〈芸名レオン〉で行きます」
「了解です」
節分が過ぎ、大した降雪もなく、春へと向かう陽気らしく、空は澄み切っている。
このビル群だけで、一つの街のようだ。
並木の街路樹が寄り添う小径をゆっくり歩く。閑静というより、静か過ぎて人気もない。連休には少し早いのだが。
遠くに聴こえる子供達の声は、意外に近くの公園からなのらしい。
武蔵小杉駅からちょうど10分歩いたところで、玄関ホールらしい出入り口の針葉樹の梢の陰に、そのマネージャー滝田が立っていた。
「はじめまして。滝田です。
佐々木さんは来られません。〈本名レオン〉さんの件で今、横浜のKアリーナに居ます」
「そうですか。その方が話し易い。
僕は菅原と言います。〈プライヴェートEYE小嶋〉の社員です。職業柄とは別に、小学生の時にお二人共にお会いしています。祖父が警察に居た時、夏休みに長崎の母の実家でお会いしました」
「そういう縁だったのですか。。。
その経緯は佐々木さんには報告、どうしますか❔」
「とりあえず、黙っててください。
ご本人が会うっておっしゃったんですから」
「わかりました。ご案内します」
大理石風の床が、冷たく響く。
建付け面積がかなり広いビルなのに、1階はほとんどがロビーやゲストルーム、マシンGYMなど、公共/共用スペースとなっている。
ズッシリと四角い石柱の陰の、深く沈み過ぎるソファに、言われるまま座り込んだ。
チン!とエレヴェーターが降りて来た音。
スニーカーのラバーソールのキュキュッという音が響く。
急ぐでもなく黒田紫苑が降りて来て、近づいて来る。
プロ・アーティストに成ってからの黒田紫苑を、菅原はTV以外で観たことが無い。
だが、今眼の前に居るシオンは、NIKEの霜降りグレー・スウェット上下の、ラフな格好。整えられていない長めの前髪を気にしながら、どちらにともなく愛想の笑みを浮かべて片手を上げ、「おまたせ」と、声をかけた。
向かい合った沈み込み過ぎるソファに浅く座り、長い膝下をクロスして、両手を胸の前で組んで、とてもオープンマインドな姿勢を見せる。
「オレが黒田紫苑です。芸名、黒田玲苑。
あっ最初っからオレだよ❓けど途中で〈本名レオン〉に入れ替わってたんだ。
君を覚えているよ。いっしょに朝から素麺を食った仲だ」
「はい。あの時、じいちゃん家に1週間寝泊まりしてた、黒田さんですね❔」
「そうだ。あっとぉ、、、迎えに来た方が作詞作曲してるんだ。
どっちも歌う。オレはデビューは俳優なんだよ」
「、、、伺ってます」
「けど。佐々木さんには、君にバラしちゃった事、内緒だよ❓」
「承知しました」
ーーー to be continued.