連作ミステリ長編☆第3話「絆の言い訳」Vol.6‐② | ☆えすぎ・あみ~ごのつづりもの☆

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~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~

 

Vol.6‐②

 

「君なら、部屋に上げてもいいんだけどさ。散らかしっぱなしだし、表札はちがうんだ。

 あいつは、玲苑はめっちゃ几帳面でさ、毎日出かける前にTVやエアコンのリモコン4つ、全部を川の字に並べておかないと気が済まない奴なんだよ」

「へえぇ。双子でも全然ちがう」

「小学6年まで、別々に全然ちがう家庭で育ったからな」

 

 ひと息つくと〈芸名レオン本名シオン〉は、マシンGYMの前の自販機で、アイスのカフェオレを二つ買って、インフォメーション・カウンターに愛想をふりまいて、戻って来た。

 

 マネージャー滝田に1杯、菅原道兼に1杯渡す。

「今日はもう呼び出さないでくれ、滝田。おつかれさま」

「了解しました」

 滝田がロビーを去る。本日の業務終了のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は今、受付に居るコンシェルジュの一人がさ、めっちゃストーカー並みに知りたがりでさ。ある事ない事放送局して廻られると、困るんだ」

「困るなんてもんじゃ、ないっす」

「だよなっ❓ってかそれ以外は快適な暮らしなんだよ」

 

 〈本名シオン〉はニヤリと笑った。紫苑は八重歯を抜いてはいないようだ。

 菅原がTVで最後に観た印象は『芸能人は歯が命』とばかりに矯正とホワイトニングが施されていた。

 

 

 〈本名レオン〉は、似せようとして八重歯を抜いたわけでは無かったんだ。。。

 歌い続けるため?ホントは紫苑とは見分けてほしい?

 

 

 菅原にまた一つ疑問が沸いたが、察するのが速いのか、話の途中で、話題を切り替えた。TVで好感度高い理由の一つ。

「あっ、オレ【さ・し・す・せ・そ】が発音できなくってさ、歯並びと活舌悪くって、【か・き・く・け・こ】もおかしくってさ、俳優でデビューしたのに【ししすせそ、かちくけく】って聴こえるんだって。

 発音が悪いから使えないって、仕事来なくなってさ、一旦活動辞めてるんだ。

 けどさ、入れ替わりに〈本名レオン〉が歌い手に成ったら矯正したからめっちゃ売れてさ、で、アイツ辞めたいからまた交代しろって。そしたらシンガーソングライターってヤツは、逆に個性的な歌い方でウケるんだって。

 で、アイツが印税の貰える作業して、オレが歌って番宣とか出演して、、、歌手税と肖像権の関わるヤツと出演料はオレに入るんだ。

 

 でさ、ここ2年ほどは、表に出るのはオレで、レオンはアルバム作ってる。作詞作曲、編曲までしてさ。

 でもさ、女って顔が同じイケメンならどっちでもいいのかぁ❓

あいつは人見知りするからTV嫌がるし、しまいに女追っかけるからもう歌わないって。。。

 

 オレもレオンも、スケジュール緩くなった分だけ、彼女できたんだよ。

 オレ、その子スノボの選手の子、知らないんだ。オレは結婚したんだ。アイツ行方不明になるし、ラストの1本横浜のアリーナだけは歌っとけビックリマークってみんなで説得してるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「、、、という事なんですねぇ。。。

 あの、ラストはさいたまスーパーアリーナじゃなかったでしたっけ❓五月の」

「追加公演なんだ。七月の六日七日が獲れたんだ」

「活動を辞める理由を、客席の皆さんに伝えるんですか❔」

「ホントの事を云うかは別として、心情は伝えるんだろうね」

 

 

 

「だから、オレはその件には関わらないんだ。

無関係なとこで起こってるから、ウソ無く答えていいんだけどさ、事務所やレオンはどう解決するんだろうな、ってね」

「被害者のスノボ女子は、結婚するつもりでつきあってる彼氏が居るの、知ってますか❔」

「知ってるよ。オレもレオンも。同業者だろ❓」

「はい。〈フランドル〉のギタリストです。初めての武道館が、頓挫するそうです。4月の連休ですからね」

「、、、ウチの事務所はデカイからな。動いたか。事後処理で。

オレは知らんのだ」

「はい。1人、しつこい警察屋さんが振り回されてるそうです。

 傷害事件なら、時効まで10年もあるし、被害者として美咲さんが訴訟も起こせるんです」

「あいつな、思い込み激しいからな、彼氏に逢いに行ったの知って逆上したのかもな」

 

 

「、、、こんな事云ったらアレですけど、適度に若い頃荒れてた方が、今頃いい塩梅に落ち着いてますね。

 オレの友達も堅物がいきなり韓国女子にハマっちゃって、ひどい恋バカですよ」

「君も、そう思うんだ。

 オレな。あれからしばらく鹿児島で実の両親とアイツと家族で暮らしてたんだけどさ、中卒で、出て来ちゃったんだ。

 折り合い悪くってさ、居づらくって。

 家出少年の中卒じゃ、何にも出来ないから割烹でバイトしながら、俳優養成所に通ったんだよ」

「それが〈緑山塾〉だったんですね❔」

「そうそう。最初は、店の客だったお偉いさんにスカウトされたんだけどな。

『いくつだ?』『15です』『親御さんはここで働いてるの、知ってるのか?』『いえ。鹿児島から勝手に出てきました』『俳優やってみないか?』『チンピラ役ですか?』『いや、養成所に通わせてやるよ。その代わり、ヒゲやTATOOは、消せよ?顔に似合わないから』、、、って。

 おっちゃんに騙されて今が、あるんだ」

 

 

 菅原は 黙って一言も挟めずに聴いていた。

 遠くを見つめる眼をして、黒田紫苑はまだ、語ってしまいたい事が山積みのようで、でも誰にも吐露できなかったせいか、ポツポツと朴訥なくらいにゆっくり続ける。

 

 

「アイツが。レオンが受験に失敗して予備校に通うのに、東京へ出てきてさ、向こうから連絡して来たんだ。

 オレはもうプロには成ってたけど、芽が出なくってね。家賃折半で奇妙な共同生活始めて、、、昼夜逆に生活してるから、だれも二人居ると気づかないわけ。

 お互い、休みたい時替わってやったりしてるうちに、マネージャーの佐々木さんも気づいてさ、、、今に至る。

 結局、アイツは音楽やる方を選んだんだけどな。

 で、オレはさすらいの旅に出たんだ。随分長い間。アジアとか、オーストラリアとか、、、

 帰国したらさ、アイツ、えっらい人気でさ。芸より真面目さの方が大事なんだな、、、どんな仕事もね。

 オレ、アイツにその事教えられたんだ。

 レオンはストイック過ぎて、はじけちゃったけどね。反対に振り切ったんだ。やるだけやって、逃げちゃったんだ。

 辞めさせてもらえないから、ブッチして。オレの真似すんなよ、もうTEENAGERじゃないんだから。。。」

 

 

「オレも、レオンだと思う。追っかけて想い余って。。。

 オレは、この仕事続けるよ。

 実の親は、毒親だ。オレみたいな奴にはな。15で上京してからのオレが、オレは好きなんだ。

 あいつは、、、レオンは抱え込んでしまう自分が好きじゃないみたいだ」

「レオンさんにとっての方が、毒親だったんだと思いますよ」

「まあな。。。葛藤がなかったら、歌なんか作らないよ」

「、、、多分、そうなんですね。。。」

 

 

 

 

ーーー to be continued.