~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~
Vol.5‐①
黒田玲苑の、事件当事者としてのシロクロに関して、未だ独自に捜査調査を続けているのは、被害者河隅美咲が依頼した周辺だけではない。
警視庁捜査一課の谷警部は、再度、黒田のアリバイを崩してやろうと、躍起になっている。
粘着気質なのか、納得行かない捜査中止なので、こだわって個人的に答えを見つけるまで、〈公的捜査〉ではない〈個人的調査〉を続けているのだ。
ただし〈事故処理〉でなく〈傷害事件〉に切り替われば、時効はまだ約10年後。警察手帳を使って独自に調査しているのは、『示談』で抑え込んだのが許せないのらしい。
いったい、誰のための正義なのだ❔
と、京都府警の佐藤警部は感じてしまうそうだ。
佐藤警部に協力してもらえない警視庁の谷警部は、『たちき』の女将神山真澄さんを通して探偵社のオレに依頼して来たのだが、それもあしらわれると今度は客室接待課長のヒカルくんに頼んで伝達して来た。
それがこの件に関わるキッカケだったのだから、会って話を聴く約束はしたのだ。
そして、面会する部屋はあえて、『3階コンクリート打ちっぱなしモテ部屋』を選んだ。
『2階和モダン部屋』には、まだ知られてはいけない資料が散らばっているし、3階常勤の菅原道兼くんは、まだ九州出張から戻ってはいない。
そう云えば谷警部は、黒田玲苑の出生については調べがついてるのだろうか❔
とても重要な情報ではあるのに、足で稼ぐタイプである筈の谷警部なのに、そういう面倒くさい調査はオレらに依頼するつもりなのか❔
それとも隠したまま別情報を引き出すつもりか❔
『踊る大捜査線』の青島刑事のようなモスグリーンのコートを着て来た警視庁の谷警部は、コートやジャケットを脱がずに即本題に入ろうとした。
オレは側に居たもう助手ではない神田くんに目配せして、コーヒーを3つ頼んだ。
今日は経理の真希ちゃんが公休なので、3階では神田君が重要事項の記録をしてくれる。オレはもっぱら谷警部とのコミュニケーション担当だ。
「ご依頼内容を伺う前に。
最初に言っておきます。うちの探偵社も、京都府警や警視庁には情報を隠せませんが、検察庁の方から、被害者としての河隅美咲さんが訴訟を起こせる事実を知って、河隅さん側の依頼を受ける事にしています。
ですので、情報開示及び共有はいたしますが、谷警部からの依頼は受ける事ができません。ポケットマネーからであっても、です。ご了承ください」
「、、、わかったよ。『たちき』の女将にも佐藤警部にも協力を断られたよ。
ヒカルちゃんから伝達がきたんだね」
「はい。公的に明細開示出来ない報酬は、事務所としては出来る限り避けたいのです。
ヒカルくんは、仕事上の知人であり河隅さんと友人の絆が出来てます。宜しいですか❔」
「、、、しかたねぇな。でも情報はおくれよ」
「はい。無償で開示します」
「わかった。それで行く」
「ただし、訴訟までストックするリークは、明かしませんよ❔
公的には捜査を打ち切ってるんですから」
「、、、それでいい」
「じゃあ、お互いに今開示出来る情報を共有しましょう❕❔」
「お願いするよ」
「わざわざ京都まで来ていただいたんだから、それは約束します」
「俺は、どうしてもこの件の真実を突き止めなくちゃいけないと思うんだ」
「誰のために❔」
「、、、」
そこで初めて谷警部は押し黙った。
「それは、あなたの正義のためですよね❔
佐藤警部は、佐藤警部の正義であるが故、この件には関わらないのです。
そして、この私立探偵事務所は、公明正大な正義で在りたいのです。個人でなく、真実を知った上での大人の解決で最善の形への報酬を得ようとしているのです。
この事務所の共同経営者は、かつて裁判所所長であり、私の相棒は検事なのです。
どうかご理解ください」
「遅くなりました警部さん。
どうぞコーヒー召し上がってください。
新入りの神田と言います。よろしくです。どうか、じっくりお話しになってください」
やっぱり神田君はあいかわらず、タイミングが絶妙だ。
ーーー to be continued.