連作ミステリ長編☆第3話「絆の言い訳」Vol.4‐⑤ | ☆えすぎ・あみ~ごのつづりもの☆

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~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~

 

Vol.4‐⑤

 

 左京区の、修学院近くに在る麻衣子の戸建てを訪問して、今日は二人で遅いランチを作っている。

 

 検察官麻衣子は一応土日祝日は公休だし、オレはいつでも自由に動けるから「おうちデート」で「カフェごはん」を、二人で作る。よくあるパターン。

 

 といってもオレは殆ど喋ってばかりで手が動いていないし、麻衣子は、クッキングする傍らでおしゃべりをしていて欲しいだけだ。ジャガイモや人参の皮むきくらいはオレにも出来る。

 

 オレもロバート・B・パーカーの小説みたいに、私立探偵らしい緻密な料理を作ってみたいが、スペンサー探偵のレシピで全然違うひと皿が出来てしまうオレ。カレーライスや焼きそばあたりでチャレンジは止めにして、麻衣子の相棒らしく出来上がりを楽しみにしよう。

 ここはニューヨークやロスではなく、京都の古民家リフォームの和モダン戸建ての、ダイニングキッチンだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーここからが、本題。

【河隅美咲から観た黒田玲苑】を語っておくよ。

 

 

 黒田玲苑の噂や疑惑は殆ど知らなかった美咲さんだが、噂やエピソードを共有して、自分だけ感じていた訳じゃない事、別人だと証明できる事に、安堵したそうだ。

 

 勝手に勘違いして騒ぐのも、逆にもっと被害を被る。

 出逢ったデビュー数年後から今日までの間に、どうも別人だと途中で気づいた事項を、例を挙げて語ってくれた。

 

 顔立ちや背格好はもちろん、感受性の強そうな気性も似ているが、ホテルウーマンとして接していたデビュー初期と、常宿が替わられて頻繁にアプローチされた時とは、さして変わりない。

 

 が、ごく最近スノボのシーズンが始まる前に呼び出されて、美咲さんからもう会わない事を告げた時に、眼の前の黒田は全く違う反応。

 行く先々に居る地方の女の一人に振られただけ、くらいのあっさりした対応で、しかも過去の出来事も記憶喪失みたいに覚えていなかった。

 それはごまかしてる風では全然なくって、ほんとに知らないらしく、つまり経緯をシェアしていないからトンチンカンなのだ。

 

 美咲さんの知っている黒田は、ストーカー気味なくらいに唯一の女性に執着するタイプだ。

「本気じゃない付き合いなんて、音楽のネタにもならないし、第一そんな暇なんかない。仕事ぎっしりで」

とも言って安心させようとさえしていた。

 その黒田は、最初に出会った日の『海鮮バラ寿司』の件さえ覚えていたのだ。ホテルのベルガールとして当たり前のスキルなのだが、数年後、常宿が替わる時期に告げた。

「他の地方にもなかなか居ないよ。差しチョコを付けない理由や板前さんの料理人としての姿勢まで語れる、配膳の人は」

と、感心した記憶を語ったのだ。

 

 

 多少押しが強いけど、素直で、TV画面での笑顔のおおらかさより、神経質でストイックさが目立つ人だった。

 

 何より、部屋に持ち込んだ楽器(アコースティックギターかキーボード)は、絶対第三者に触らせない。

 のどの調子のために、極力しゃべらない。夜12時を過ぎると、全ての人間と連絡をシャットアウトして、睡眠時間を確保する。もちろん飲み歩いたりできない。

 

 朝は8時きっかりにルームサービスで朝食を取って、仕事とコンビニ以外の外出はしない。

 食事はほぼ外食だが、部屋で呑むのは缶ビール350㎖1本か中ビン1本のみ。

そしてシンデレラの時間には”Don’t Distab”なのだった。

 

 

 そんな人間が、地方へ行く度に浮気したり、飲み明かして路上で暴れたり、TV番組制作会社に評判が悪いほどルーズだったり、、、するだろうか。。。❔

 

 美咲さんは、彼女として付き合う気はないが、ネットや報道で騒がれている内容は、半信半疑だし見たくも思ってない。

 

 確かめられはしないが、曲を作っている人と、TVのバラエティー番組に出演している黒田の印象は、全然違うのだ。

 どうも変だ。。。と思い始めたのは、ここ2年程。

 

 数年前には、何本か黒田玲苑のLIVE、だいたい5000人くらいのホールからアリーナクラスのツアーに見に行った事が有る。

 ホテルウーマンとして出会って以後に、ラジオのパーソナリティ番組も聴いてみた。

 ステージ上の黒田、ラジオの黒田、宿泊中のプライベート時間の黒田。どれもさして違和感なく特に飾り気なく、クリエイターらしいナイーブさの一致があった。

 

 だが、ここ最近はTVではとても好感度高い売れっ子HEROらしき貫禄はある。けど、職場の身近なの彼のファンのいう黒田は『妄想の中の白馬の王子』的持ち上げ方だし、その割には黒い疑惑の付いて回る週刊誌報道。

 すべてトンチンカンみたいだし、すべて知ってる黒田と別人に感じる。

 

 最後に違和感なく黒田玲苑と接した時に、とても印象深い言葉を残していた。

『望まれるのは大切な事だよ。望まれる姿で唄うことも。

 だけど、スタイリストさんに衣装着せられて、眉も太く描いて笑顔作って、、、何かイヤな事あってもね、そこまで作り上げて初めてみんなの望む黒田玲苑なんだ。

 ジャージ着て缶ビール1本でプハーーっとかやってるボクは、ファンの横にいる旦那となんら変わらん。そのボクは、彼女にも成ってくれない女性にこうして愚痴ってるわけ。

 八重歯まで抜いて、活舌直したのに』

 

 

『八重歯抜いたら、発音まで変わりますよね❓

 黒田玲苑さんに、素直に聞いたんです。えくぼが無くなったし、貌の輪郭も変わりませんか❓って。そしたら何か言いたそうにするんだけど、黙り込んで遠くを見る眼をしたんです。

 多分、その時には決まってたんですね、入れ替わる事。出来る限り似せようとしていた。それで、、、最近やっと黒田さんの言ってた【セミリタイヤ】の意味が飲み込めたんです』

 

 

 

 

 

 

 

ーーーというのが、美咲さんが語ってくれた詳細。

 オレの話を聴きながら〈筑前煮〉と〈きんぴらごぼう〉を完成させて、次に取り掛かる〈豚バラ大根〉の下準備を始めている、麻衣子。

 

 

「そういうことね。。。

 でも。さすがホテルウーマンやねぇ。バトラーやベルボーイは身近に接するからこそ、別人のようだと嗅ぎ取るのね。。。

 すごいスキルやわ、それ。マンションのコンシェルジュとかもそうなのかしら❓」

「ホンマ。彼女や親子やなくっちゃ分からんゾ」

「たしかに」

 

 丸太の切り株みたいな形の大根を一つ一つ、麻衣子は角を〈面取り〉という作業を始めた。

 両目が多少依り眼気味に集中してるのが可笑しくて、つい、

「そこまで集中するのは好いんだけどさ、〈豚バラ大根〉の煮つけの段取りの方が、キンピラや筑前煮より早くね❓」

と、からかった。

「そうかもやけどさ、迷ったんやけどさ。

〈豚バラ大根〉の方が温かいまま食べたいし、キンピラや筑前煮は冷めても食べるやん❓そやから、先に2品作ったし、大根の丸太切りと皮むきをしといてもらったの」

「、、、なるほど。やっぱり麻衣子は結論が先に来る【外国語脳】や。オレ、出来上がって冷めた料理見て『しまったビックリマーク順番まちごうたビックリマークって気づいて〈割れ鍋に綴じ蓋〉の後手後手でレンジでチンビックリマークするタイプや』

 

 麻衣子はクスッと肩すくめて笑ってから、包丁を置いてひと呼吸置いて、得意げに告げる。

「そやから料理の時も、頼んだ作業でフォローしてもらうだけの方が、上手く行ってるんやんかいさーぁ❓」

「どこで覚えたん❔〈やんかいさー〉を」

「。。。吉本の劇場かな❓知らんけど」

「もうええてっビックリマーク

 

 

 

 

 

 

ーーー to be continued.