~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~
Vol.1-➂
岡崎公園の手前まで辿り着いた。
幼い頃、何度かこの近辺へ家族でやって来た覚えがある。
動物園の母象ばっかりいつまでも見つめてた、妹の姿。モルモットを実際に抱き上げて、初めて自宅でも動物を飼いたいと感じた、あなた河隅美咲。
当時、母はなぜだかいつも不機嫌で、笑顔が少なかった。
父はまだ、忙しい合間にでも〈家族サービス〉の遠出をしてくれていた。
だけど、、、〈家族サービス〉とわざわざ呼ぶ人は、そんなに『義務』と感じて面倒なのか❓、、、と時々思う。
そりゃあ、、、『義務と演技』ならば夫婦で居る事の意味がそんなに無いかなあ❓と、思ってしまうのは、私だけやろか❓
イヤ。止めよ。こんな考え事。
とにかく今は、独身の間にやり遂げたいライフワークの中の目標が、ある。
今は、今のままで好い。
〈ロームシアター京都〉の付近でも、柳の枝葉が揺れている。この場所から平安神宮の鳥居まで、周辺一帯を巡っておこうとしていた。
けど、今夜はやめとこ。
もろもろ幼い頃からの想い出はあるが、やっぱり〈京都会館〉は格別に思い入れが深かった。
第1ホール:3300名収容
第2ホール:1100名収容
別館:800名収容
海外アーティストやミリオンセラーのバンドから、新人アーティストでメディア露出が急に増え始めたシンガー、別館ならではのビジュアル系やインディーズのLIVEなど、何度も通ったこの岡崎の会館周辺。
今現在は、リニューアルと共に企業名が冠されているが、あの尾崎豊の17歳の姿を第2ホールの最前列で目の当たりにした事や、楽屋入口にアーティストが乗り着けるハイヤーが、いつの間にかヤサカグループからMKグループに取って替わって行った事など。。。
思い起こせばキリがない。
そう。美咲が占い師を相手に『それならば、心のケジメをつけておこう』と口にしたその相手も、今夜五条通りにほど近いホテルに宿泊している。
彼らアーティスト達やスタッフの方々の宿泊しているホテルも、堀川通を中心に点在している。
それが、行き違いの元凶だった。私も、ホテルウーマン。
けれどその事が理由でこのサービス業に就いたわけではない。
常勤の直雇用ではあるけど『二足の草鞋を履く』ライフスタイルだ。WinterSportsの労働者であり、学生時代から住んでいるこの京都の街での生活も、重要なのだ。
『心のケジメ』をつけておきたい男性も、TVメディアに登場する人気歌手。だけど、美咲は彼女でもなければファンでさえない。彼は、3歳年上で鹿児島県出身らしかった。
LIVEコンサートに行くのが好きな美咲は、洋楽邦楽問わず、ライヴハウスからスタジアムやドームまで大小問わず、会場に行ったけど、、、いえだからこそ、その歌手の取った行動を糾弾したかった。いえ、行動というよりその後始末。
これからもLIVEミュージシャンの楽曲を聴きたいから。
だけど、訴訟を起こす資金もなく、冬場やホテルの職場にも迷惑をかけてしまう。
付き合う気持ちはないので、本人謝罪さえあれば問題はなかった。だけど、彼『黒田玲苑』は何も言って来ない事を自分は好かれていると、勘違いした言動ばかりメディアで繰り返している。
よくある『イケメン勘違い野郎』。
ついでに言うと、他のアーティストはそこまで馬鹿な事もしないし、ファンとして見守っている節度を、自粛して保っている。
私もホテルウーマンとしての顔でいるので、守秘義務を厳守している。
付き合うとすれば、それはもう当たり前に男女のコミュニケーションに依るけど、どうやら、彼の当たり前は相当偏見が混じっている。
同じ事務所や同じイベンターさんも利用してくださるので、なおさらそこはハッキリと主張をしておくべきだと、思っていた。
あのイベンターさん主催のLIVEは、大御所アーティストの公演に行くので『裏と表』がある黒田玲苑の妨害だけは、防いでおきたかった。
まさか、私のプライベートに住居近くへ現れるなんて、思いもしない。よくあるBOYmeetsGIRLにしても、彼のアプローチは衝動的すぎて、しょっぱな痴漢に襲われるのと同じ恐怖を、私は味わっていたのだ。
ミュージシャンになった知人はいるけど、まったく関り方が違う。世間で噂されるような荒くれや素行の悪さなど、ごく一部の人間の生活態度で、皆が誤解されるとコボシていた。
その彼は美咲より年若いけど、むしろストイックに喉の調子をかばって生活している。おおっぴらには出歩けないし。
そろそろ帰ろう。なんか、気が済んだ。
あの占い師さんに感謝、かな。。。
夜に溶けない三日月の明かり。クッキリすぎる金色を見上げるあなた美咲を、平安神宮の鳥居の近くで物陰から見つめている、1人の男性。
美咲よりも若い。20歳くらいだろうか。
知ってか知らずか鳥居を一瞥してから、美咲は地下鉄東西線の駅へ向かって歩き出した。
美咲が、河原町御池から地下道へ潜ったのを見届けたその20歳そこそこの男性は、デニムの後ろポケットからスマホを取り出し、誰かに連絡を始める。
ーーーええ。本当に来ました。ありがとう。
今、電車に乗るみたい。多分東西線ってやつ。
今日はこのくらいで戻ります。
申し訳ない。ありがとう。
ーーーえっ❓いえ、独りでした。ハイ。
黒田玲苑さんは居ません。ハイ。
ボクはこれで。じゃ。
ーーー to be continued.