新幹線で田舎に帰るため西に向かっているとき、大阪で隣の窓側の席に一人の年配の御婦人が座ってきた。よそ行きかとも思われる小奇麗ないでたちで薄めのカーデガンを羽織っている。
こちらとして何も関心はないのだが、心なしかそわそわとしている。
しばらく時間が経って袋入りのアメをバッグから取り出して開けて一つ口の中に入れた。
「お一ついかがですか?」
(人と話す事に抵抗がない人みたいだな・・。)
「いえ、甘いものはあまり食べないもので・・。」
「そうですか。」
彼女は袋入りのアメをいそいそとバッグの中に納めた。
「とは言っても食べる楽しみも切り札甘味というところ、ありますよね!」
「私そういう風に考えた事ないんですけど、それはそうなんでしょうね。」
「あなたは今から四国に渡って宇和島の同窓会に出られるんでしょう。」
「えっ。どうしてわかるんですか?」
「わたし気功が専門のもので。」
「気功でそんなことがわかるんですか?」
「はい。わかります。同窓会自体には良く出られるんでしょうが、今回は特別な事情があって服装が合ってるかどうかくよくよ気にしていらっしゃる。」
「そんなことまでわかるんですか。」
「はい。あいてが鷲鼻か、鉤鼻か、おちょぼ鼻かなんて行った先の岩石が鷲鼻か、鉤鼻か、おちょぼ鼻かと言うのと同じでわかるわけはありませんよ。旅費も時間も無駄にすることもあるかもしれませんが、それはそれで単純に運が悪かったとあきらめることでしょう。くよくよ気にしてもしょうがないと思いますよ。」
彼女は晴れやかな顔になった。
「それはそうですねー。いやスッキリしました。おっしゃるとおりですね。」
「わたし仕事で人の相談に乗ることがよくあるんですが、多くの場合本人がこうあらねばならないと信じている理想の所と思考回路にこそ問題がある場合がほとんどです。」
「へー。そうなんですか。」
わたしは帳簿の帳尻があったような心地よさを覚えた。
時間が淡々と過ぎて行き彼女は挨拶をして途中で降りた。
(・・・実話です。芥川龍之介の「蜜柑」のプロット変えてみようかと考えてたら実話が丁度良かった。)