緊張して身体が固まってしまい、いつも失敗するのはなぜですか? | 音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

♪アレクサンダー・テクニークを演奏に生かすレッスン♪
~ココロを自由に、カラダも自由に、自分らしく生き、演奏する~
アレクサンダー・テクニーク教師&フルート奏者の嶋村順子です。
演奏者の心理的・身体的問題を解決する方法を探求しています。

 

趣味でフルートを長年学んでいらっしゃる大人の生徒さん。
今日のご相談は次の2点でした。

① 先生(いつもレッスンを受けているフルートの先生)の前だと緊張してしまい、練習通りに吹けない
② 曲のフレーズ感を出そうと一生懸命吹くのだが、うまくいかない

この曲が柔らかく素敵な旋律なので、大好きなのだそうです。
早速吹いていただきました。

すると、急にカラダに硬さが生まれて、見るからに必死な感じになってしまい、
口が震え、音はかすれ、低音は全く鳴らず、ワンフレーズ息がもちませんでした。


BodyChance
メソッド流アレクサンダー・テクニークでは、「動き」を生み出す「思考」に注目します。


「いつも緊張してしまう」とおっしゃるのですが、実際には「緊張する」のではなく、
「身体を固めて動きにくくしている」 のですよね。 ご本人自身で。
「緊張に襲われる」という表現ありますけど、
それってどんな緊張モンスターがやってくるのでしょうか?(笑)
いや、笑いごとではありません。私だってそうでしたもの。


「緊張してしまう」 を、ひも解いてみようと思います。

では、なぜ身体を固めてしまうのかというと、理由があります。

「ちゃんと吹きたい」「ちゃんと演奏したい」と思うからですね。

「ちゃんと」という考えが、「身を固めて頑張る」という動きとガッチリ組み合わさっているのだと思います。

嶋村「ちゃんと演奏するために、何をするんですか?」 と伺うと、しばらく考えてから
生徒さん「フレーズをちゃんと表現して、いい音で演奏するようにします」 というお答えでした。

嶋村「フレーズを表現するってどんなことですか?」 禅問答みたいでごめんなさい。。。
生徒さん「音楽の流れの行先を考えながらとか、ここまでは一息で吹ききる、などです」

嶋村「では、このメロディーをどんなふうな流れで吹きたいのか、鼻歌でもいいので歌ってみてください」

思い入れのあるすてきなフレーズで歌ってくださいました。大人の音楽性です。

嶋村「フレーズ感、のようなもの、どう表現したいかは、もうしっかりイメージできていますね」
生徒さん「え?そうですか?いつもフレーズが全然ないと。子供じゃないんだから歌いましょうって言われます」
嶋村「それで、フレーズを意識して演奏しなくちゃいけないと考えながら吹いていたんですか?」
生徒さん「はい。フレーズ感を出さなくちゃいけないから」


ここで少し別のことを。

小さな音で最初の音のロングトーンをしばらく吹いてもらいました

「ちゃんとやらなくちゃ」の焦りからクールダウンしていただくことと、

息穴を作ることを意識するのを、改めて思い出してもらうためにです。

嶋村「では、フレーズのことはどうでもいいので、最初から最後まで小さな優しい音で、この一節を吹いてみてください」

すると、全ての音が美しく安定して鳴り、そして一息で吹ききることもできました。
そして、充分フレーズ感や音楽性は出ています。


ご本人はびっくりしています。
生徒さん「何もしないでそうっと吹いた方がうまくいきます!何もしない方がいいってことなんですか?」

嶋村「何もしていないようで、するべきことはやってらっしゃいましたよ。”ちゃんと”(笑)」



ここで確認~フルートの音がでる条件は?

フルートの音が出るための最低限必要な条件は、これです。

① 息を吐く

息圧を生む腹筋群などの仕事。
これは、長年練習してきた人にはたいてい充分備わっています。


② 息の出口を面倒見る

適切なアンブシュアを作り、適切な息のスピードがうまれ、息が適切な角度で楽器にあたる。
おもに唇周辺の仕事。


ここで確認~アンブシュアなどの身体の使い方の問題と、表現力があるかないかの問題を混同していないか?


この生徒さんは、表現することや間違えないで正しく吹くことに気をとられすぎていました。
①は使いすぎ、②はほとんど意識に入っていない様子でした。

その結果、唇がきれいな息穴を作れていないのに、たくさん息を使うことでなんとかしようと無意識に頑張っていたのです。


これはフレーズ感を表現するなどという音楽性の問題ではありません。
音を作り出す技術的な問題です。
この生徒さんの音楽性がまるで無いかのように評価される根拠はなんらありません。

しかし、技術的には何も考えずにやればできていたことを、
別のことに必死になりすぎたためにすっかり忘れてしまうという現象が起きていました。


ここで確認~その「思考」はやりたい「動き」に役だっていますか?


人が動きを選択する時に『思考』が働きます。

「ちゃんとやらなくては」「フレーズを考えて演奏しなくては」という思考から
「とにかく息を使っていっしょうけんめいやる」という動きだけが空回りしていたのです。

「小さな音で優しく吹く」という思考からは、息の無駄のない美しい音が生まれました。
その直前に試した小さい音のロングトーンが唇周辺の動きを思い出すきっかけになったのですね。

そして、「息が続かないことと音色を作ることの関係性」であるはずだった問題が
「フレーズがうまくつながらない」という、あいまいな評価にとって代わり、
大好きな曲が「難しくて自分には上手く吹けない曲」になってしまっていました。

これが実態です。


ここで確認~では、レッスンでの先生の役割は?

レッスンで指導者に必要なスキルは色々ありますが、
やはり、うまくいっていない原因の見立てと、具体的な改善プランの提案が一番大事だと思います。

とくに、身体の使い方を含めた技術的な導きは、
お互いが理解できる言葉を選ぶことや、生徒さん自身に違いを実感できる体験をしてもらうことなどでようやく伝わるのだと思います。

既に熟達している人には「フレーズ感」「表現」などにいきなりとっかかっても大丈夫なことがありますが、
技術を安定的に使える「身体の使い方」の理解がまだ充分でない生徒さんには、丁寧に対応したいものです。


ここで確認~小さな音だけで曲は演奏できないけれど、どうすればいいの?

もちろん、さきほどのような小さい音量ではダイナミクスの変化をつける時に困りますね。
ですから、息圧が増えた時の音のコントロール、つまり息の出口の作り方を明確にしたいのです。
息圧があがった時に、唇周辺の筋肉やアゴの様子をよく観察して、
余分な動きをやめていったり、足りない動きを加えていったりということを探究するとわかってきます。

これも、一見「表現」と思われるものにも、
必ず「技術」を理解すること、自分のカラダを使いこなすことが関係している例ですね。


それと、一息でワンフレーズを吹ききりたい場合には、その中での息の配分を計算することも必要です。
強弱をつけながら、自分の息の量をどのように配分して使い切るか。または持たせるか。
そういう観点を持った練習は、管楽器奏者なら必ず意識的にやらなければならないと思います。


以上のような情報をお伝えし、実際にいろんな吹き方を試してみたりと、
そんなレッスンをしました。

生徒さん「家に帰って、もっといろいろ試してみたいです!」
やる気が出てきた嬉しいお顔を見ると、私も嬉しいです。


アレクサンダー・テクニークは『思考』と『動き』のワークです。

BodyChanceメソッドでは、さらに生徒さんの望みに寄り添って、実現へのお手伝いをするように心がけています。


人間のカラダの構造や動きの事実を知り、思考が動きに及ぼす影響に目を向け、
新しいやり方を安心して試せる場を作ることが大切だと思っています。


指導される先生方にも、このレッスンスキルをぜひお伝えしたいです。
私が担当して開催している『音楽指導者向け3回連続講座』についてご案内しているページはこちらです。

http://ameblo.jp/espressivo1214/entry-12159421133.html

指導者に限らず、演奏に役立つ身体の使い方を短期で深く学びたい方にお勧めいたします