法学セミナーは有名な法律学習者向け雑誌ですが、法学教室に比べると、定期的に読んでいる人は少ないかも知れません。しかし、今号は法曹を目指す人(要は新司法試験=司法研修所入所試験、予備試験=司法研修所入所試験資格取得試験の合格を目指す人)に有益な記事が多くみられます。
法学セミナー669号
http://nippyo.co.jp/magazine/5398.html
その中の
○憲法 解釈論の応用と展開 30 総合演習(4)……宍戸常寿
答案作成上の注意
○会社法入門――市民・消費者の視点から考える 24……上柳敏郎
法律実務能力とその学修――知識と解釈適用力(個別と全体)
が有益です。
特に宍戸先生の記事は、かなり踏み込んだアドバイスがあり、かなり有益なものだと思います。
宍戸先生の記事から引用。
「事案の解決と関連しない論点を答案で捨てる、『書くかどうか』ではなく『書かないかどうか』を判断することは、答案作成上の重要なスキルの一つです。皆さんには、論点を捨てることは勿体ないどころか、清水の舞台から飛び降りろと宣告された気持ちかもしれません。しかしこのスキルは、事案に即して問題を分析する実力が姿を変えたものでしかなく、逆に論点落ちが怖いからとにかく全部書くというのは、実力不足を自白することにほかなりません。皆さんも日頃の学習で意識的な訓練を重ねていれば、いざという場合に躊躇い(ためらい-ESP補足)なく正しい『見切り』ができるはずです」(宍戸・前掲62頁)
(追記:ESP)
※当初「躊躇いなく」と読んだとき、「躊躇なく(ちゅうちょなく)」の間違いでは?(すなわち、「い」の部分が不要)と思っており、そのことをblog上に書いておりました。しかしその後、コメント欄を含め、数人の方からご指摘をいただき、「躊躇い」は、「ためらい」と読むことができるので、間違いではないとのご指摘を受けました。調べたところ、その通りであります。私のミスについてお詫びすると共に、ご指摘に感謝申し上げ、上記の通り訂正いたします。また宍戸先生や法学セミナー編集部にあらぬ疑いをかけてしまったこともお詫びします。
ただ、法科大学院の先生や弁護士をはじめたとした課外講座の講師の中には、考えられる論点の記述を全て求めたり、論点がいくつ拾えたかで採点基準を設定する方もいるようです。法科大学院生、受験生が「論点落ちが心配だ」と思うのは、ある日突然、受験生が勝手に思うのではなく、どこかでそういう指導をされたからだと思います。私は新司法試験の問題、出題趣旨等を見る限り、宍戸先生の見解の方が妥当だと思います。もちろん、問題文からあり得ない論点を書くことを推奨したり、また、絶対に落としてはならない論点を落としても大丈夫、というわけではありません。
上柳先生の記事から引用。
「事例演習教材も各法科大学院で開発され、公刊されているものもある。本連載もその一端とも言える。ただし、いずれも、設例はそう長いものではなく、事案分析や法律の解釈適用力を本格的に試すという意味では、新司法試験の問題が、まずは手がかりとなると思う」((上柳・前掲99頁))
※強調、アンダーラインはESP。
当たり前のようで、意外に意識されていないことを指摘しています。新司法試験の競争激化から、法科大学院では自主ゼミや、弁護士等による課外ゼミが頻繁に開かれているようですが、そこでの素材は何故か旧試験だったり、市販されている演習書(予備校が出しているものも含む)のようです。しかし、新司法試験を受験する人は、やはり、まずは新司法試験の問題を丹念に分析することが必要のように思います。研究者個人や予備校等がどんなに力を入れても、新司法試験に勝る問題を作るのは至難です。なぜなら、新司法試験は膨大な国家予算をかけられ、日本でトップクラスの研究者、実務家が丹念に練り上げた問題だからです。古くさい言い方をすれば、「国家の威信」をかけた問題であります。また、新司法試験には、法曹になる人に対して、「司法研修所に入ろうというのであれば、これくらいは分かって欲しい」というメッセージも込められています(だから、本試験では、同じことが繰り返し聞かれることがあります。これは、試験委員の怠惰ではなく、重要だから繰り返し出題されているわけです)。また、国家予算がかけられ、トップクラスの研究者・実務家が作っているという点では、旧試験も同じですが、やはり新旧では制度は異なります。新試験を受験する人は、新試験を受験する以上、まずは新試験を先に検討すべきだと思います。
新司法試験の問題をみないまま、受験勉強をするのは、地図をみないまま登山をするようにものだと思います。現に、法科大学院発足数年間、法科大学院や法科大学院生が苦労したのは、新司法試験という(1つの)ゴールが見えにくかったために、どこを目指して良いか分からなかったところにあると思います。
はっきり言えば、新司法試験の受験を考える立場にある人は、初学者を含めて、1日も早く新司法試験をみるべきだと思います。もちろん、初学者レベルの人(具体的には、未修の1年生など)が最初から解ける必要はありません。解く理由は、問題がどんなものなのか見て、これを解けるためには、どういう能力が求められているのか、を自分で考えるためです。登山に例えれば、入山前のガイダンス作業のようなものです。その上で、ゴールに向かってどのようなルートをたどるべきかなどの「戦略」を立てるわけです。やみくもに旧試験や演習書の問題を解くより、新試験をみてから、旧試験や各種演習書の使えるところを使おうと思った方が、吸収の仕方も変わってくるのではないでしょうか。自分もそうだったのですが、初学者の特徴は、何が大事で何が大事でないかが分からないことです。しかも、それぞれの条文を見ても、「ここが大事ですよ」とは書いてくれていません。しかし、新試験の問題を検討すれば、新試験的にどの辺が重要か、メリハリが見えてくると思います(※)。そして極端なことを言えば、新試験の問題をみて、自分には絶対無理だと思えば、とっとと撤退する手がかりになります。
※なお、第5回新司法試験公法系第2問から、「過去問には住民訴訟は出ていないではないか」との指摘はあるかもしれません。しかし、短答問題を含めると、過去に住民訴訟は出ています。現に(比較的多数の)受験生を驚かせた、1回目民事系第2問(大大問)の「動産・債権譲渡特例法」に関する出題についての批判について、試験委員は「サンプル問題の短答で出しているので、予告済みだ」という趣旨の反論をヒアリングでしています。
「新司法試験の検討なんか、すぐに終わってしまう」と思うかも知れません。しかし、よくよく考え見ると、新司法試験の論文だけでも過去5回分、プレテスト、サンプル問題を入れれば、7回分の蓄積があります。選択科目を入れれば8科目で(ただし大大問を1問とすると1回につき7問)、1回につき7問×7回分=49問の素材があります。1日1問としても、49日かかる計算であり、それに出題趣旨、採点実感、ヒアリング等の分析を加えると、軽く1日を越えるのではないでしょうか。それに短答式試験もありますから、新司法試験の分析だけでかなりの時間がかかると思います。
ここ数年の動きを見ていると、新司法試験実施当局が過去に例がない長文の出題趣旨、採点実感、ヒアリングを出しているにも関わらず、それを丹念に分析して、新司法試験実施当局のメッセージを正しく読み取る作業は意外に行われていないように思います。一例を出して申し訳ありませんが、法学セミナーは新司法試験解説の速報性にウエイトを置いてはいるのですが、出題趣旨、採点実感が出た後に、それを分析することはしていません。法科大学院でも、新試験の解説はされていても、出題趣旨、採点実感を丹念に読み、分析する機会はあまりないのではないでしょうか(しているところがあればすいません)。こういう現状である以上、受験生の側が自分たちでしていくことが求められているように思います。