◆不倫されて、今、苦しい状態にある方は
フラッシュバックなど
不快に感じる可能性のある表現があります。
お読みになる際には、
その点に十分気をつけてください。
彼女の第一印象は、弱々しかった。
セミロングで痩せ型。
会うのはもちろん初めてだったが
彼女だとすぐに分かった。
というのも、
前に出張帰りの夫を迎えに行った時、
私の前を俯きながら横切り
私がもしかして…とピンときていた
あの時の女性はやはり彼女だったのだ。
その空気感は
寂しさや切なさを何となく感じ、
後を追った時の彼女の後ろ姿は
どこか儚げだったのを覚えていた。
ほとんど俯いて、
私の目を見ようとはしなかった。
「はじめまして…
由香さん…ですよね…」
私も恐る恐る訊ねた。
「…はい、紗夜子さんですか…
はじめまして、由香です…」
「お仕事もあるのに、
時間を作ってもらってごめんなさい」
「…いえ、こちらこそ…すみません」
彼女はとても低姿勢だった。
「…で…夫が色々とすみません
何かとご迷惑をおかけしたと思います」
「…いえ、そんな事ありません…」
夫から聞いていた雰囲気とは
全くかけ離れていた控えめな彼女。
なので、
伝えるべき事を伝えれば
話しは早く終わるだろうと感じた。
「…それで夫から聞いているとは
思いますが…
私も夫も離婚するつもりはありません。
こんな事になって
ショックじゃ無いと言えば嘘になるし
これから先、仲良く出来るかも
正直…分かりません。
でも、
結婚して10年の重みと言うか…
卓也の良いところも悪いところも、
もう全部分かっていますし…
そういう事もひっくるめて今でも
夫のことを多分、まだ愛しているんです。
だから不倫されたからすぐ離婚…という
決断には、どうしてもなれないんです。」
「…分かります。
私も離婚を経験してるので…」
離婚しないという事を伝えた。
不倫の事実を知って以来
心は引き裂かれていたが、
やはり卓也に愛情が残っていることを
素直に話した。
そして、
彼女も少しずつ口を開いた。
「…でも…
私達、本当に愛し合っていたんです」
一番聞きたくない言葉だった。
想定はしていたけど、
やはりショックだった。
「…そうだと思います。
夫の態度を見ていたら分かりました。
しかし……」
私は冷静さを装っていたが、
やはり心の中では
とても複雑になっていた。
「…子ども、デキたんですよね?」
「…はい…」
そう言うと彼女は泣き出した。
慌てて私は、
「辛いことを思い出させてごめんなさい。
私も流産の経験があるから
子どもを失う悲しさは分かります…」
そう言いながら私は、
泣いている彼女の腕を撫で、慰めていた。
しかし次の言葉で…
私は更に苦しくなった。
「…子どもを堕ろした時に、
本当なら別れるべきだっだです…
でも、卓也さんが
私との子どもが欲しかったって…」
え……(違う、話しが違う)
「…そうなんですか…」
その子どもは
夫との子どもじゃないかも知れない
ですよね?
と言いたかったが、
ここで逆上されても進まないと思い
グッと我慢した。
その後、彼女は
とにかく
自分と卓也は心から愛し合っていて、
(卓也が)私とは仕方なく結婚したと。
離婚出来ないのは子どもがいるという理由
妻である私には愛情はもう無い。
と聞かされていたと
泣きながら話して来た。
想定はしていたけど…
何度も何度も、
強烈なパンチを次々と浴びているような
気持ちになった。
私だって……
卓也から愛されてきた事実を
伝えたくなっていた。
卓也の不貞を知る、ほんの数ヶ月前まで
普通に仲の良い夫婦であった自覚が
しっかりあったからだ。
妻としての意地もあったかも知れない。
しかし…
元々の私の性格からなのか、
どうしても
彼女を責めることが出来なかった。
卓也からの
彼女を怒らせるなというストッパーも
思った以上に私を警戒させていた。
気付けば1時間経っていた。
そろそろ帰らないと…
子ども達のことも心配だった私は
辛い気持ちの中でも、やはり気丈だった。
「…由香さんの気持ちは分かりました。
でも、こうなった以上
もう2人で会って欲しくないですし、
連絡も取って欲しくないんです」
一番、伝えたかった事を言った。
「…えっ…もう
少しも会ってはダメですか?」
「…そうですね…ごめんなさい。
これからは私達夫婦が
向き合って行かなければならないので
これ以上、
夫を動揺させないで欲しいんです」
「…分かりました。もう…会いません。
約束します…」
「ありがとうございます。」
ふと外を見ると、
驚いたことに卓也が窓の外にいた。
「あ…卓也…
迎えに来てくれたんだ…」
一瞬、彼女の顔が曇った。
すると彼女は、
急いで会計を済ませ
私達から逃げるように帰って行った。
これで終わった
やっと彼女が諦めてくれた。
これで夫も
私と向き合ってくれるだろうと
夫の不倫を知って以来、
ずっとモヤモヤしていたものが
スーッとなくなるような気がした。
次は卓也としっかり…
しっかり向き合わなきゃ
しかし、この時の安堵感も
すぐに打ち砕かれてしまいます。
私が彼女と会った翌日、
彼女が病院に運ばれたと
連絡があったのです。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
不倫されてツライな気持ちに
なっている方は
どうか一人で悩まないでください。