
神保町という街は本当に油断がならないところ。神保町交差点の待ち時間があまりにも暑くて、わずかの待ち時間に飛び込んだ岩波ブックセンターで、こんな本を見つけてしまいました。
佐多稲子「私の長崎地図」(講談社文芸文庫)
私の生まれ育ったのは長崎でも県北の佐世保という街ですが、亡母は長崎市内の出身。浦上天主堂にほど近い場所に住んでいたようなのですが、戦争中に両親の出身地である五島列島の島に疎開し、それから長崎に戻ることはありませんでした。
当時国民学校の5年生だか6年生だかという彼女。戦争に翻弄されたその後の生活の中で、それまで裕福だった生活は暗転。どれほどに生まれ育った長崎の思い出が甘く美しいものだったのか、あまり多くを語ることのなかった母ですが、この年齢になって思いをはせる時、粛然とした気持ちになります。
母が長崎の実家の思い出を語るときによく出てきたのが、庭に吊ったハンモックのお話。暑い夏の日も、ハンモックでの午睡はそれは気持ちが良いものだったと言っていました。
そしてそのことを久しぶりに思い出させてくれたのがこの佐多稲子の本。やはり子ども時代の思い出に、ハンモックの逸話がありました。
家族でキャンプに行くのが流行になったバブル期以降、子育て中の人が買うのはミニバンがデフォルトになり、今はキャンプでハンモックを楽しむ人も多くなったことでしょう。
でも、これは昔むかしのお話。庭に子どもが喜ぶハンモックを吊り下げるお宅が日本全国であちこちにあったとは思えません。
私がハンモックの心地よさを知ったのは、大人になってアメリカで暮らしてから。子どもと一緒の狭いアパート暮らしを楽しいものにしてくれたのがハンモックでした。
久しぶりにハンモックを組み立ててみようかと思ったのですが、今の家では日がカンカンに当たるベランダに置くよりほかは無く、それは秋口のお楽しみに取っておくことになりそうです。
続きます。