心地よいカシオペアのフュージョン・サウンドを1曲。
 
この「A Place in the Sun 」は
 
1981年の「Eyes Of Mind」のアルバムの中の曲である。
 
カシオペアの中では、ほとんど話題にならない曲だが、
 
野呂一生のギターが小粋で、
 
なにげに隠れた名曲だと個人的には思っている。
 
1981年3月に、私は大学を卒業したが、
 
卒業式が終わっても就職は決まっていなかった。
 
というのも、在学中にちょっとしたバンド活動をしていて、
 
ミュージシャンになりたいなどと、おこがましいことを考えていたために
 
就職活動を一切しなかったからである。
 
しかし食っていけるだけのシロモノでは到底なく、
 
仕方がないので、
 
とある100円の求人雑誌を買い、その求人雑誌を発行している会社でバイトを始めた。
 
そこで、私を面接し採用してくれた男が私よりも1つ年下だった。
 
要するに彼は高卒だったのだ。
 
彼はかなり自信過剰な男で、言葉の端々に出るビッグマウスが鼻につくので、
 
けっこうまわりからは嫌われていた。
 
でも、よくよく話してみるとギターを弾くという。
 
話がはずんで、彼の家に遊びに行くと
 
自宅は茅場町の雑居ビルの1室で、6歳年上の彼女が同居していた。
 
オフィスしか見当たらないこんな場所に、
 
人が住んでいたのかというのが、まず驚きであった。
 
そればかりではない。
 
彼がギターを弾いて見せようかというから、どうぞというと、
 
ストラトをアンプにつなぎ、
 
夜だというのに、ステレオのボリュームを最大にして
 
音楽に合わせてがんがん弾き始めた。
 
おいおい、ちょっとまてや。
 
なんちゅうやっちゃと思った。
 
こんな夜に、こんなデカイ音出して近所迷惑じゃなないのかときいたら、
 
全然大丈夫だという。
 
さすが茅場町。恐るべし。
 
オフィス街というのは、夜は野中の一軒家とほぼ同じなんである。
 
まさしく目からウロコであった。
 
今でも、こんなことが可能かどうか知らないが。
 
そんな彼が、「これ、いいぞ」と言って、私に貸してくれたレコードが
 
この「Eyes Of Mind」だったのだ。
 
それを聴いていて、この「A Place in the Sun 」が心に引っかかったというワケ。
 
 
その後、
 
彼は数ヶ月で退職し、その後任に私が採用され正社員となった。
 
妙な因縁である。
 
退職した後の彼の足取りはわからない。
 
結局私も3年そこに勤めて、25歳で退職した。
 
その数年後、あの求人雑誌見ないなあと思ったら、
 
その会社もいつの間にか消えていた。
 
大学卒業後に初めて就職した会社の思い出は、完全に幻となってしまった。