こんばんは。赤澤です。
今日はフランスで起きた事件についてのお話です。
パリ市内で私に突如襲いかかった盗難のお話。
私にとって初めての渡仏。
まさか、パリコレに参加できる日がくるなんて。
これについてはまた別途で記事を書きたいくらいなのだけれども、とにかく、パリコレに招待していただき出張というかたちで行けるという、素敵なチャンスをいただいた。招待してくださったのは「 THOM BROWNE 」。素晴らしいショーを観終わって、一緒に行った石川康晴さんが先に日本に戻り、中村里砂ちゃんと私は二人きりでパリに残った。
自由時間は何をしようか。二人でどこに行こうか。
私たちは「折角だからパリらしい景色を観にいってみよう」と合致し、パリで一番高い丘を目指すことにした。
パリで一番高い丘。モンマルトル。
現地にはタクシーで向かう予定だったのだけれど、タクシーがストライキを起こしていて一台もおらず、私たちは電車に乗ってみることにした。
海外で公共の乗り物に乗る時、私は例外なく「日本って素晴らしい国だなぁ」と再確認する。今回も、快適とは言い難い切符売場でその考えに改めて確信を得た。
海外に来ているのだから、そこは絶対に日本ではない。こんな最も当たり前なことを私は随所で確認する。文化の違いを目の当たりにしたくてあちこちに目をやる。
途中の停車駅で突然電車が混み、人に押されて里砂ちゃんと少し離れてしまった。次の駅で、今度は人が吐き出されるように次々下りていき、突然空いた。
里砂ちゃんに再び近づくと、「鞄を開けられそうになった」と衝撃の一言。レース素材のポーチがジップに引っかかってかんでしまい、それで開けられずに済んだのだと言う。
へぇ、でも無事で良かった!
こわいですね。パリですもんねここ。
日本だったらそんなことされたことないのになぁ、
なんて言いながら自分の鞄を見ると。
あれ。
開いてる。 ?
開
い
て
る
! ! !
開いてる開いてる開いてる!!!!!!
簡単に施錠された鞄はだらしなく口を開け、私の右肩にぶら下がっていた。
うそだ、どこで?
私が開けたんだったっけ?
中に手を入れてみると…
あれ?
あ、財布だ。
財布が無いぞこれは。
ここからは不思議と冷静だった。
私は、失った財布のことよりも、財布を失ったということについて考えたい。
泣いて騒げば財布が戻ってくるならいくらでも狂ったようにそうするけれど、残念ながらそうではない。きっともう、誰かのmiumiuになりくさったことでしょう。
昨日現地人に「君は15歳くらいに見えるよ。日本人はただでさえ幼く見えるんだから、こんなキノコみたいな髪型のうちはお酒を飲ませられないよ。」とかなんとか言われた私だ。そんな、子供のように見える私からでも奪わなければいけないほど貧しい人に盗られてしまったのだとしたら。
それなら、そんな端た金、くれてやる。
そんなのは募金のようなものだ。
でも待て、いくら入ってたっけ?
うーん。たしか4万円くらい入れてたな。
良かった、クレジットカードはスマホケースと一緒になってたからここにある。せめてもの救いだ。
でも、4万か。結構大きいな。
日本円しか入れてなかったからな、犯人は両替に行かないといけないのか。せっかく盗った日本円、無事に両替しておいしいものでも食べてくれ。悪いことには使うなよ。
こうして私の財布はパリのどこかに消え去った。そして、初めてパリを訪れた記念として何を買おうかあれこれ迷っていた日々の悩みも消え去った。すぐに買ったよ。大好きな赤色の、サンローランの素敵な財布。
繰り返すけれど、私は失った財布のことよりも、財布を失ったということについて考えたい。
その瞬間少しばかり軽くなった私の右肩には、理由がある。
落としたのではない。しまい忘れたのではない。
誰かの手によって、奪われたのだ。
素敵な街並みを眺めるより、パリという場所にいる自分を楽しむより、目をぎらつかせてターゲットを探している人。ばれないように奪い去る。そんなことに慣れてしまうほど、長けてしまうほど、毎日毎日手を染める人。そういうことをせずにはいられない人が私の右側にいたんだ。そういう寂しくて悲しくてたまらない人が確かにそこにいた証拠だよなこれは。
いたずらだったのか。
生きるためだったのか。
考えてもわからないし、知ろうとしても無理だと思うのだけれど。
でも、私のそれを自分のものにした誰かがいつの日にかそんなことをしなくても生きられるようになるといいな。パリってさ、素敵なんだからさ!
そして私も私で、もっと用心深い人間になろう。
平和ボケしてる空気が出ているから狙われたんだろう。
現地に40年ほど住んでいる方が私に言った。
「急に電車が混んだのは、きっとただの混雑じゃありませんよ。ほぼ全員グルです。そうそう、スリ集団。友人同士でやることが多いのかもしれませんが、家族や兄弟で協力することも珍しくありません。そういう国なんです。残念ですが、あなたが落ち込んでなくて本当に良かった。せっかくなのだからパリを楽しまないとね!」
なんてこと。寂しい話。
家族はもっと違うよ。そういうことで団結するものじゃないよな。そんなの寂しすぎる。
そうだ。
あの財布には結構貯まったTポイントカードがあったな。
この前もファミマのレジで無意識に探してしまった。
さっきもTSUTAYAのレジでやってしまった。
こうしていちいち思い出すんだ。
なんで無いんだっけ、って。
自分で稼いだお金で買うパンはおいしいし、自分で稼いだお金でプレゼントしたものには気持ちがこもる。自分で稼いだお金でする親孝行も、そうやって買う新しい小説もCDも、映画やライブのチケットも。
盗ったものじゃ味わえないよ。
彼らが知る日はくるのかな。
一人でも、二人でも、くるといいな。