今年始まったドラマについて☆ 宮藤官九郎脚本の「不適切にもほどがある」には今のところ違和感ばかり | 書物と音盤 批評耽奇漫録

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今年になって始まったドラマを色々見てます。


とは言え、ハナから観たいとは思わないドラマも多くて、そんな中でセレクトして観てるだけなんですが、それが全部面白いかというとそうでもないというまぁそんなとこですかね。


「相棒」シーズン22は昨年から継続して観てるドラマですが、まぁまぁといったところですかね。


https://www.tv-asahi.co.jp/aibou/


今季は過去に登場したキャラクターが復活するパターンが多いですが、その点は嬉しい特典みたいなものですね。




昨夜から始まったNHKの「お別れホスピタル」は、傑作「透明なゆりかご」の原作者、音楽、演出が再集結して、療養病棟を描いた医療ドラマですが、死の一番近くにある病院の療養病棟のお話ですから、第1話からかなりヘヴィー。


https://www.nhk.jp/p/ts/1ZN13MQ53W/


特に最初3人のお婆さんたちが入院していた病室で、その3人ともが、一番明るくて元気な人から順番に一斉に亡くなってしまうところなどは、ドラマで観てるだけでもちょっと辛いですね。


なんかリアルにそんなことってありそうなんで。


現場にいる看護師さんはもっと辛いと思いますが、それに追い打ちをかけるように、ヒロインの岸井ゆきのが入院する前から仲良くしていた患者が、明るく楽しそうにしていたのに急遽自殺してしまうところなんか、やっぱり看護師といえども人間ですから、あんなの普通立ち直れないですよね。


その上で岸井には自分の家族の方にもいろいろ問題があって


まあ中々に壮絶な状況が描かれてますけど、そういう状況に対して優しく寄り添うようなタッチで描かれている上、やはり清水靖晃氏の音楽がかなり良いので今回もちょっとした秀作ドラマという感じですね。


今後も観ていこうと思います。





さっき観た「離婚しない男ーサレ夫と悪嫁の騙し愛ー」は放送作家の鈴木おさむの引退作らしいですが、まぁ正直、ドラマ自体は大して面白くありませんな。 


https://www.tv-asahi.co.jp/rikonshinai-otoko/


ただ不倫をする悪嫁役が、実際にプライベートの不倫問題でさんざん揉めて、夫婦がお互い暴露合戦のようなバトルを繰り広げた挙句離婚した篠田麻里子が演じているので、その「リアルであんなことがあったのにこんな役のオファーをよく受けたな」という大英断だけで勝負してるようなドラマですかね。


実際、篠田麻里子はかなり生々しいし、深夜ドラマらしい絡みの場面も頑張ってるし、まぁ確実に篠田麻里子ありきで作られてるものとして見ればそれなりに面白いと言えば面白いです。


なんかでも、毎週同じことばっかやってるような、ちょっと洋ピンみたいなマンネリ感がすでに第3話で漂ってしまってますけどね。



https://www.tv-tokyo.co.jp/chasergamew/


「チェイサーゲームパワハラ上司は私の元カノ」は、前作同様ゲーム業界を描いたドラマですが、今回はサブタイトルにあるように"パワハラ上司は私の元カノ"という設定がそこに加わっています。


かってのレズカップルが上司と部下に分かれてゲーム業界の職場で再会し、裏切られた方の上司の女性からのパワハラが毎週繰り返される展開の中、同時に二人の同性愛が再燃してしまうという、前作から随分変わったものになっていますが、これは予想以上に面白いですね。


深夜の2時台の放送で、しかも全国放送ではないにもかかわらず中々に大人気で、その上世界配信なので、XTLを見ると、海外の視聴者もかなりつぶやいてるし、深夜2時台のドラマにしては世界的に盛り上がってる感じで大したもんだと思いますね。


まぁ察するに、世界中にいる腐女子的な人たちがメインで盛り上がってるのかもしれませんけど、腐女子では全くない自分が観ても、ドラマ自体にかなり生々しさが毎回出ているところが良くて、ちょっと増村保造映画を彷仏とさせるところすらあります。


またウェディングドレス姿の2人なんて、昔の新東宝の「汚れた肉体聖女」の同性愛尼僧カップルの高倉みゆきと大空真弓を想起させるほどで、ビジュアル面にも面白さがありますね。


これは前作が面白かったので元々期待していましたけど、期待以上の出来で、今後も楽しみです。




https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/


宮藤官九郎脚本の「不適切にもほどがある」はバカリズム脚本の「ブラッシュアップライフ」のタイムスリップ設定に挑戦したようなコメディですが、「ブラッシュアップライフ」は、いかにも今のコンプライアンス時代の繊細さによく呼応した面白さがあり、そこにバカリズムらしいお笑いの面白さがプラスされてすごい傑作になりましたけど、こちらは今のコンプライアンス時代に対するアンチテーゼのような主人公が1986年からタイムスリップしてくるドラマになっています。


まあクドカンの作ですから一応それなりには面白いです。


しかし個人的には世間の大評判ほど面白いとはちょっと思えませんね、今のところ。


今後面白くなるのかもしれないですけど、何か悪い予感もします。


だいたいね、今のコンプライアンス時代に過去の時代の人間がアンチテーゼとしてタイムスリップしてきて今の時代を問題視するという、不適切という名の反体制ヒーローのドラマって基本的にやりやすいし、共感を得やすいと思うんですよね。


だって年配者になればなるほど今の時代の新しい風潮には馴染めず、若い頃の時代の風潮の方を無条件で評価する人が多いに決まってますからね。


ただコンプライアンスが厳しいことをひたすら管理社会的な悪のように描いてますけど、ではコンプライアンスが何故厳しくなったかというと、そのコンプライアンスの厳格化がないと非常に迷惑していた人たちがいっぱいいたからですよ。


例えば仕事が終わった後の飲み会なんてね、自分の若い頃なんて、とんねるずが極めて体育会系的な「イッキ」なんてものを流行らせやがったおかげで大変迷惑しました。


だからあんなクソみたいなもの、絶対出たくなかったですよ。


だけど昔は、飲み会を断ると、ほとんど会社内のコミニケーション全部敵に回す雰囲気があったんですね。


私個人は会社内のコミニケーションなんてクソみたいなもんだと思ってたので、新卒の頃ある程度は付き合いましたけど、途中からはほとんど付き合わなくなったし、それで弊害が出ても、その分つまらないことに付き合わなくても良い楽しさや自由も生まれたので、あれはあれで良かったと思ってるんですけど、このドラマはあのクソつまらない会社の無理な飲み会がないことが悪いみたいな風に描かれていて、たぶんクドカンの価値観がそういうアナクロなものなんでしょう。


もしこの調子で最終回まで行くなら、個人的にはあまり面白いドラマとは言えないですね。


やはりどこかで一見管理社会の弊害のようなコンプライアンスが必要な人間もいるからこそ、厳しくなってきたんだという部分もちゃんと描かないと、これでは前に団塊の世代が"俺らの時代は"と調子に乗ってやってた一昔前のドラマと変わらないですよ。


下手したら、まるで悪夢のような民主党政権時代を後でヒーロー化したようなドラマみたいな、非常に質の悪いものになる可能性もあります。


後半にミュージカル的なシーンが入りますけど、あれは「昔は良かった」的な昭和の理屈を台詞で言わせると年寄りの説教みたいに聞こえて印象悪いのを避けるために、わざとミュージカルにして可愛く見せようとしてるのが見え見えですよね。


ああいう白々しい誤魔化し方も何か違和感あるんですよね。


そりゃ私だって、いい年だし、クドカンより年上ですからね、1986年の時代の方が今の時代より馴染むというか愛着があるのは間違いないですよ。


経済政策も今の緊縮財政の時代なんかより、80年代の方が完全に良かったしね。


でもあの時代にはあの時代で非常に問題があって、それが今の時代にセクハラとかパワハラだとかという点で改善されてきたのは個人的にはとても良いことだと思っています。


そういう風に風潮として騒がれなかったがために、1986年の頃は全部個人で戦わなきゃいけなかった苦闘を今はやらなくていいなんてとても良いことだと思うんですけど、なんかクドカンは私より年上の男みたいな価値観に思えますね。


例えば80年代を描いたドラマには「今日から俺は!!」もあって、それなりに人気がありましたけど、こっちの方が個人的にはしっくりくるのは、あれは80年代をちゃんと馬鹿にしているし、馬鹿にした上で愛着あるパロディにしてるわけだから。


それに80年代っていうのは70年代とはちょっと違ってて、70年代ほどむき出しのワイルドの時代では無いことも「今日から俺は!!」にはちょっと描かれているけど、こっちは70年代と80年代の区別があんまりついてないですよね。


まずあの主役の阿部サダヲのキャラクターは80年代にもああいう人いたけど、70年代にもいた人ですよ。


その辺の描き方が、何か"昭和的"という括り方で大雑把だなと思うんですよね。


それに、このクドカンドラマの1986年は、ほとんど今のコンプライアンス時代に対抗する、不適切という名の反体制的な正義という位置づけですよね。


この図式がどうも気に食わないんですよね。


この図式が好きで見てる奴がいることも気に食わないんです。


それはコンプライアンスのないパワハラ、セクハラが横行した時代を謳歌したことを正当化する図式に思えるからです。


だいたい、"かってはセクハラ、パワハラをやっても文句を言われなかったからおおらかな時代でよかった"なんて言ってる奴にロクな奴はいませんよ。


だいたい人間のクズですよ。


昔そういう人間のクズのパワハラと喧嘩ばっかりやってた自分からしたら、ちょっとこのセクハラ、パワハラに対するコンプライアンスが、何故今強化されてきたかのプロセスを全然描こうとしないこのドラマの態度は今のところ、正直気に食わないです。


ドラマの中で1986年は拳に対して拳でぶつかると友達になるなどと描かれていますが、そんなものは昔のヤンキー漫画の虚構世界がそうだっただけで、現実には私はパワハラをやってくる奴の拳に対して拳でぶつかって、その後友達になった奴なんて1人もいませんよ。


未だにあんな奴らは人間のクズだと思ってますよ。


昔のヤンキー漫画の中にあった虚構を、1986年の現実として描いてしまう、こういうインチキなドラマをみんなで褒めてていいんですかね。


ここから、コンプライアンスというものがどうして今の時代必要になったかという、そっち側の視点でも描くようになるんだったら、このドラマも少しはマシになると思いますけど、今の調子で突っ走って最終回まで行くんだったら、まぁ個人的にはくだらねぇドラマだなと批判して終わりになりかねませんね。


一応クドカンのドラマなんで面白くは見られるし、昔の時代を対比させて、今の時代の問題を描こうとしているところはあるんですけどね。


でもまぁ今んところはちょっと懐疑的なドラマですね。