呉勝浩『爆弾』。ふざけた犯人と警察の取調べを通した心理戦&両者の深層心理を掘り下げた傑作ミステリ | 書物と音盤 批評耽奇漫録

書物と音盤 批評耽奇漫録

本や音楽他のレビュー中心




呉勝浩『爆弾』、


前にも書いた通り、今年のミステリの傑作の1つです。


https://ameblo.jp/erroy3911/entry-12777491968.html


こちらもレビュー書いてなかったので書いておきます☆


所謂、刑事と犯人の取調べを通しての心理戦をメインに描いたサスペンスノンストップ・ミステリです。



居酒屋での小さな傷害事件で、冴えない見た目の中年男が野方署に連行される。


男は、"ヤマダタゴサク"というふざけた名前を名乗る。


当初、酔っ払いのつまらない揉め事くらいに警察はたかを括っていたが、しかし男は急に「10時に秋葉原で爆発がある」と予言する。


するとその直後、秋葉原の廃ビルが爆発する事件が起こる。


まさか、この男本物の爆弾魔"か?と刑事たちは色めき立つが、さらに男はあっけらかんと「ここから3度、次は1時間後に爆発します」と告げる。


刑事は男の出すふざけたクイズを解いて、なんとか爆発を止めるようとするが、徐々に男がただの酔っ払いじゃないどころか、かなり質の悪い悪意ある犯罪者であることが発覚していく。




爆弾サスペンスというと、やはりかっての「特捜最前線」における長坂秀佳脚本の爆弾ものや、「ダイハード3」を思い出しますが、そのどちらの面白さも兼ね備えている作品です。


ただ途中からは爆弾事件をきっかけにして、犯人と刑事の深層心理が明らかになっていき、最後までそのことが掘り下げて描かれていきます。


刑事も、犯人も、犯罪被害者もが抱える"悪意"というものが、事件を通して明らかになっていき、極めてふざけた態度をとり続ける社会的弱者の犯人の狡猾さや悪意もずっと描かれていきます。


そして犯人は自分と似たような部分を、刑事の心理を見抜いて見つけ出す能力があるようで、その辺りのことが、後半に至ってさらなる異様な刑事ドラマの様相を生みだしています。


爆弾の爆破阻止を賭けた、犯人と刑事の、ふざけたクイズを通しての心理戦の駆け引きで引っ張っていく展開ですが、クイズの解答自体はちょっとダジャレぽかったり、いかにもふざけた犯人の出しそうなクイズという感じです。


しかしそれはそう単純なものではなく、裏には裏があるもので、それにより最終的に事態は東京が炎上し、警察の威信失墜寸前のところまで展開、警察側も個々にかなり暴走し始め、果たして正義は守られるのか?というところまで行きます。


それぞれの刑事のキャラクターがかなり掘り下げて描かれていて、その上で犯人像が徐々にどす黒く発覚していきますので、ヒューマンドラマとしても、ミステリとしても、緊迫のノンストップ心理サスペンスとしても、かなり読み応えがあります。


もし映像化されるとしたらこの犯人役は今年の傑作映画「さがす」でいつもとは違うシリアス演技で大好演した佐藤二朗さんが適役なんじゃないかと思いますけどね。


佐藤さんのいつものふざけた調子が、そのままシリアスな演技に繋がっていくという芝居がこういう役だと実現できるんじゃないかと思いますね。


見事な傑作サスペンスミステリ小説です。