「文藝春秋」最新号、2022年8月号は個人的に興味深い内容てんこ盛りの特集だらけで読み応え満点 | 書物と音盤 批評耽奇漫録

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「文藝春秋」最新号、20228月号は、映画に関する記事が多いのもあって、個人的にあまりにも濃い内容てんこ盛りの特集だらけで、読み応え満点ですな。


山下達郎さんのインタビュー坂本君と大瀧さんと…70年安保世代の音楽交遊録」、


蓮實重彥氏の「ジョン・フォードこの20本!」、


小林信彦氏の「わが洋画・邦画 ベスト100」に、


仲代達矢、自作を語る(聞き手・芝山幹郎)


伊藤彰彦氏の「ゴッドファーザー」と「仁義なき戦い」、


筆坂秀世氏の「宮本顕治と不破哲三」、


他などなど、実に興味深いものが多いです。




達郎さんのインタビューはやはり音楽誌のインタビューとは違って、この特集号のメインが「日本左翼100年の総括」ということもあってか、政治の季節に学生時代を送ってドロップアウトした達郎さんと、その後の音楽人生に繋がっていく話がメインのインタビューになっていて、ちょうど自分が一番興味のある70年代の達郎さんと重なるので、特に興味深かったですね。


ミュージシャンに友達はいないというようなことを前に達郎さんは言われていたけど、坂本龍一さんはそんな中でもやっぱり友達だそうで。


確かに初期の達郎さんのアルバムに坂本さんはかなり参加してますし、やはり当時は毎日一緒にいたような関係だったそうです。


政治色がちょっと強い坂本さんとあくまで政治的なことには関わらない達郎さんですけど、自分が特に好きな70年代の初期の達郎さんには、なんとなく坂本さんと近いスタンスが感じられたんですよね。


またそのスタンスが結構好きだったので、読んでいてちょっと自分の昔の達郎さんに対する想像や妄想を思い出したりして、懐かしい気もしましたね。


達郎さんは今や"シティポップのゴッドファーザー"みたいな立ち位置でもある気がしますが、決してそれだけの人ではないと思いますので。


だいたい、かってのライブアルバム「IT'S A POPIN' TIME」のみに収録の曲「エスケイプ」は、自分の音楽がシティポップとカテゴライズされてしまうことに反逆したアンチテーゼのような曲ですし、そういう都会や資本主義というものに対する錯綜的な視点が複雑に入り混じってるところが達郎さんの面白さだと個人的には思っています。


ちなみにこれもあくまで個人的な見解ですが、あの「エスケイプ」の都会や資本主義をどこか客観的に見て批判しているようなシティミュージックは、後の冨田恵一がプロデュースしたキリンジのファーストアルバム収録の名曲「かどわかされて」に引き継がれているような気がするんですけどね。




蓮實重彥氏の「ジョン・フォードこの20本!」は、先頃刊行された蓮實さんの「ジョン・フォード論」のプロモーションのような内容ですが、まぁプロモーションというか肝心なところをわかりやすく、さわりだけ解説したものですかね。


これまで蓮實さんのジョン・フォードに関する論考は、『映像の詩学』(1977)の「ジョン・フォード、または翻える白さの変容」と、『文學界』20052月号の「身振りの雄弁──ジョン・フォードと「投げる」こと」を過去に読んでますが、どちらも世間のジョン・フォードを論じる批評とは全く違います。


こんなジョン・フォード論を書いている人は、世界的にもほぼいないと思いますね。


参考までに、は他誌『GQ JAPAN』の蓮實さんへの「ジョン・フォード論」に関するインタビュー記事です。

https://www.gqjapan.jp/culture/article/20220801-shiguehiko-hasumi-intv-1/amp


https://www.gqjapan.jp/culture/article/20220802-shiguehiko-hasumi-intv-2/amp



ただ意外だったのは蓮實さん、『黄色いリボン』はあまりお好きじゃないそうで、あの有名な主題歌がまず好きじゃない上に、それにふさわしいショットの連鎖に緊迫感がないからダメなんだそうです。


まぁそれは別に蓮實さんの評価なので全然いいんですけど、でも「投げること」という主題論的体系で言うならば、あの映画、劇中何度も投げまくってる映画なんですけどね。


事あるごとにあの主題歌を歌ってはショットグラスを酒場でバンバン投げてブチ割りまくるシーンが頻繁に出てくるんですけど、あれは「投げること」の主題論的体系の論外というか無視していいということなんでしょうかね。


まぁこういう主題論的体系で論じる評論というのは、書いてる人がルールブックみたいなものなので、その人が違うと言うなら違うとしか言いようがないので別にいいんですけどね。


ただ、ちょっと意外と言えば意外でしたな。





小林信彦氏の「わが洋画・邦画 ベスト100」は、かなり昔の映画から現在の映画まで、小林さんお気に入りの映画の短い映画レビューの集積。


小林さんの映画鑑賞人生を子供の頃からふり返り、現在まで辿り直しているようなところが面白かったです。



「仲代達矢 自作を語る(聞き手・芝山幹郎)」は、仲代さんご自身の過去の出演作への回想と、芝山氏のお気に入りの仲代さん出演作の評論がミックスしたもの。


ここで語られている映画や出演している世界的に評価の高そうな仲代さんの演技も素晴らしいと思うんですが、個人的には他に最初期の「火の鳥」や、「殺人狂時代」、外国映画「野獣暁に死す」での悪役、「天国と地獄」「女が階段を上る時」「白と黒」「みな殺しの歌より 拳銃よさらば!」、46歳にして学生役(回想場面)までご自分でおやりになった「女王蜂」、かなりのハマり役だった「雲霧仁左衛門」の主役、「闇の狩人」「熱海殺人事件」「助太刀屋助六」、TVの「海は甦る」「十三人の刺客」などなどの仲代さんの好演も好きですね。



伊藤彰彦氏の『「ゴッドファーザー」と「仁義なき戦い」』は、同時代に作られた裏社会映画の名作の比較で、似ているようで実は正反対でもあるという分析が面白かったです。



筆坂秀世氏の「宮本顕治と不破哲三」は、「日本左翼100年の総括」というメイン特集テーマの中の一文ですが、この特集は別に日本共産党礼賛特集ではなく、池上彰氏と佐藤優氏の対談すらも基本的には日本共産党に批判的なものだったりしますので、筆坂氏は元日本共産党員ですが、離脱してからは共産党に批判的な立場の方ですから、この特集に登場するのも必然性がありますね。


故にか、日本共産党の内々のお家事情的なことを暴露されております。


安倍政権に独裁、独裁言ってたくせに、自分とこはどこよりも独裁極まりない日本共産党ですけど、やはり宮本顕治と不破哲三がカリスマ的存在で、今や宮本氏が故人なので、不破氏が独裁者のような立場らしく、表向きの共産党の顔のような志位委員長は、裏で不破氏にかなり理不尽なパワハラを受けてるようで。


やっぱ独裁が成立してる世界ではそうなるわなという感じですかね。



これ以外にもまだまだ興味深い論考や特集が一杯載ってまして、この最新号は実に読み応えありますな。