大山誠一郎「時計屋探偵と一族のアリバイ」☆一見シンプル。実は凝りに凝った新展開本格ミステリの秀作 | 書物と音盤 批評耽奇漫録

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大山誠一郎氏の、あの人気ドラマにもなった『アリバイ崩し承ります』第2シーズンの新作、第3作目「時計屋探偵と一族のアリバイ」を読みました。

 

Webジェイ・ノベルサイトにて無料で読めます。

https://j-nbooks.jp/sp/novel/original.php?oKey=173

 

 

 

 

 

ある日、株取引で生活しているという男が殺され、容疑者は3人の親族に絞られます。

 

親族の3人は、有名美人女優と、元フレンチの腕利きシェフと、元プロバスケットボール選手で現在バスケチームのコーチをやっている男。

 

3人には全員確固たるアリバイがあり、新人刑事の"僕"は自分なりにアリバイを崩そうとするも、敢え無く白旗を上げることに。

 

そこでいつものように、美谷時計店の美谷時乃にアリバイ崩しを依頼すると、あっさりアリバイは崩れるが…

 

 

 

さて今回、最初に美谷時乃が依頼されたアリバイ崩しは、実にあっさり崩れてしまいます。

 

そして容疑者を問い詰めると、これまたあっさり自供し、今回は随分とシンプルにカタがつくな、と一瞬思わせるのですが、実はそれで終わりでは全くありませんでして、ここからがこの作品の真骨頂となります。

 

容疑者はそこで、認めるところは認めますが、肝心なことは否認するわけです。

 

そこから新たな殺人事件が巻き起こり、またさらにひねりの効いた展開となります。

 

ここでほとんど、ふりだしに戻ったかのような状況となりますが、これはこのシリーズでは今までになかった新展開ですね。

 

なにしろ今作は、今までなかった、時乃に二度のアリバイ崩しを依頼する展開となっておりますから。

 

その上、そこからさらなる逆説的などんでん返しとなり、今まで以上に凝った本格ミステリになっています。

 

偽装工作として暴かれたはずのものが、実はさらなるその裏があるという、この逆説展開がなんとも秀逸です。

 

そんな凝りに凝った本格ミステリが、今作も実に読みやすく、簡潔な筆致で描かれていて、一気に読めるリーダビリティの高さなのは、さすがですね。

 

軽いトリックのユーモアミステリではなく、これだけ捻りの効いた、逆説的どんでん返しの堂々たる本格ミステリが、この読みやすさという、なんとも見事な秀作です。