牧村憲一『「ヒットソング」の作り方 大滝詠一と日本ポップスの開拓者たち 』☆歴史的大名著☆ | 書物と音盤 批評耽奇漫録

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「ヒットソング」の作りかた―大滝詠一と日本ポップスの開拓者たち (NHK出版新書 506)/NHK出版
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牧村憲一『「ヒットソング」の作り方   大滝詠一と日本ポップスの開拓者たち 』☆

正直この本には個人的に驚いた☆

だって結局、自分はリスナーとして、牧村さんの作った音楽を中心に聴いて育ち、そして生きてきたんだなということが、もう完全にわかったから☆

確かに最初のかぐや姫とかフォーク系の辺りはあまり好みではないけど、牧村さんがはっぴいえんどや大滝詠一さんと出会ってから、シュガー・ベイブに関わり、山下達郎さんや大貫妙子さん、竹内まりやさんのソロの方向性を示し、80年代後半以降にはフリッパーズ・ギターやTRATTORIAレーベルのエグゼクティブ・プロデューサーとして尽力されるに至るまで、ほとんどど真ん中で自分が聴いてきた邦楽は、これが完全にこの牧村さんが作った音楽なのである☆

今までプロデューサーとか音楽関係者が書いた本は幾つか読んできたけど、ここまでリスナーとして縁深い本はなかったな☆

自分は結局、牧村さんという人に音楽を教えてもらった、謂わば”牧村ムーブメント”を生きてきたリスナーなんだなと思う☆

もちろん牧村さんが関わっていない色んなジャンルの音楽もかなり好きだけど、でもなんと言っても達郎さんのファースト「サーカスタウン」を作った人であり、アメリカ録音を企画した人である☆

シュガー・ベイブにも関わり、解散後、達郎さんや大貫妙子さんのソロに尽力された方☆

またソロになってから、名盤を出しているのにイマイチ売れなかった大貫妙子さんを成功に導いたのもこの方らしい☆

YMOには直接は関わっていないらしいけど、でもその周辺で活躍されていたし、それに80年代の清水靖晃さんのマネージャーだった生田朗さんはYMOの初代マネージャーだけど、実は生田さんは牧村さんの会社の社員だったとはね☆

ミュージシャン以外にもこうした才人がちゃんと牧村さんと繋がっているのである☆

はっぴいえんどの話、大滝詠一さんの凄さを語る逸話、シュガー・ベイブの話、それから達郎さんの「サーカスタウン」制作に至る経緯などの秘話、シュガー・ベイブと泉谷しげる氏が間接的に関係あった話、シュガー・ベイブを牧村氏に教えたのが山本コータローさん、とか、オファーされたものとは言え企画やアイデア立案、交渉、レコーディングに至るまでほとんどリーダーとなって取り仕切られた「い・け・な・いルージュマジック」制作の経緯秘話、フリッパーズ・ギターを発見からブレイクまでの経緯や、TRATTORIAレーベルでの様々に斬新な宣伝・販促戦略などなど、なんとも興味深すぎる話が超満載☆

竹内まりやさんはデビューした時からファンだったけど、このまりやさんを発見しプロデビューさせ、育てたのもほとんど牧村さんなようで、その辺りの経緯も書かれている☆

あの80年代のYMOや達郎さんや大滝さん、まりやさんに大貫さん、はっぴいえんどやはちみつぱい、ムーンライダースの人たちなどなどの才人たちが豊かにコラボして、実に素晴らしい名演、名盤がたくさん生まれていた時代の、あの才人と才人同士の繋がりはすごく好きだった☆

その繋ぎ手というか、素晴らしきオーガナイザーが牧村さんだったのだろう☆

アルバムを聴く度に、バックメンバーが誰かを見るのは毎回楽しみだったし、竹内まりやさんについて書かれた箇所にあるけど、まりやさんを売るだけじゃなく、そのバックメンバーや曲を作ってる人たちも何とか売り出そう、知名度上げて日の目を見させようと牧村さんが奮闘されていた話なんて本当に素晴らしい☆

つまりタイトル通り、この本は、日本のポップスの音楽レベルを上げながら、いかにそれを歌謡曲、演歌が圧倒的優勢の70年〜80年代の売れ線メジャー市場でちゃんとヒットさせるかという、ほとんど離れ業に近いことをやってのけた開拓者の回想録ということ☆

”1978年の世代”を自称する自分にとっては、あの時代の独特の胎動については前に何度か書いたけど、その胎動を巻き起こしていた(牧村)ムーブメントの中心人物であり開拓者のリアルな回想が聞けて、本当に感無量☆

その後の、80年代後半に日本の音楽レベルが下がった、という認識も同感☆

その時期、よく聴いていたのも、牧村さんが関わったノンスタンダードレーベルから出たピチカートファイヴとか、牧村氏がエグゼクティブ・プロデューサーのフリッパーズ・ギターやTRATTORIAレーベルの音から拡がった渋谷系の音だった☆

確かに自分は達郎さんとかYMOとか、ミュージシャンさんのファンだけど、でもその道筋というか音楽ムーブメントを作っていたのは、やはり牧村さんだったわけである☆

この本は音楽史に大きく残るべき、ものすごい大名著だと思う☆