試用期間中(満了後)の外国人社員を解雇するときの注意点
テーマ:日本で働く外国人のこと先日、関与先社長のAさんより、新しく採用したばかりの外国人社員Bさんについて、
「試用期間中なんだけど職務怠慢なので解雇したいんだよね。たしか試用期間中の解雇って簡単にできるってきいたけど、本当?本当ならすぐにでも解雇したいから手続きを教えて。」
というご相談をお受けしました。
今回、解雇されそうになっているヨーロッパ出身の新入社員Bさん、まだ大学を卒業したばかりの若者です。
自社の通訳・翻訳者を探していたA社長が、ビジネス系の有名SNSに出した求人に応募してきて採用が決定・A社長がスポンサーとなった日本で働くための就労ビザの許可もスムーズにおりて、とんとん拍子に来日・入社をされた方でした。
まず、私はA社長の会社については、顧問業務をさせていただいている訳ではないので、A社の労務管理状況については何もわかりません。
ですので、A社長が説明してくださる、「職務怠慢云々」については、なんとも言えません。
ただ、Bさんの採用課程についてお聞きしてみると、採用決定して就労ビザなど様々な手続きを済ませ、来日するまでの間、A社長や会社の人事担当者は、Bさんと直接の面談はもちろん、電話・ウェブでの面接を1回も行った事がなかったとのこと。
履歴書の審査とメール数回のやりとりで採用を決めたのだそうなのです。
最近のベンチャー企業というのは、そういった採用をされているところも多いのでしょうか?
ちなみに私がまだ会社員だった頃、転職時の面接は、最低2回、多いところになると5回(面接だけでヘトヘトになります。)くらい呼ばれていたなぁ...と、ちょっと驚きました。
まぁ、それはそれとして、今日は、このいただいたご質問に関して、本日のブログで回答してみたいと思います。
...今日も長文なので覚悟してくださいね!
適当に飛ばし読みしていただくか、ハイライトした部分を読んでいただければよいかと思います。なお、実際に、現在解雇問題に直面されている企業様には申し訳ありませんが全部お読みください。
さて、先ずは、「試用期間」とは何ぞや?
試用期間は、御社が社員の能力や適正に関して、「本採用」が可能かどうかを見極める期間のことで、多くの会社がこの制度を導入しておられることと思います。
また、「解雇」というのは、試用期間中(期間満了後)の解雇も含め、解雇される社員にはもちろん、やり方を間違えれば、訴訟等を起こされる可能性をはらんだ、会社にとっても最大限、慎重に行うべき最終手段といえます。
また、「試用期間中(満了後)の解雇」は、A社長がおっしゃるように、確かに、これまでの裁判例や慣習では、「本採用期間中の解雇」よりも、法律的に、(解雇の)正当性が認められやすいといわれています。
つまり、解雇された社員が、解雇を不服として裁判を起こした場合、会社が主張する解雇理由の正当性が、本採用中の社員の解雇に対するそれよりも、認められやすいということです。(=本採用中の社員を解雇するよりも試用期間(試用期間満了後)の社員を解雇するよりもより簡単。)
ただ、いくら試用期間中(満了後)の社員だからといって、客観的な、誰もが納得できるような理由もなしに簡単に安易な解雇ができるわけではありません。
その事をご理解いただき、それでもどうしても解雇する(=本採用を行わない)というのであれば、下記の注意点を参考にしてください。
■ 外国人社員の試用期間中(完了後)の解雇に関する大原則
社員の採用に際して、試用期間を適用するか適用しないか、または試用期間中(又は満了後)に解雇する場合は、解雇時の手続きについて、社員が日本人・外国人に拘わらず、双方に対して、同様の手順を踏まなければなりません。例えば、外国人なので、試用期間を他の日本人社員に比べて長くする、また、解雇後の解雇手当の支払いを行わないなどの差別は一切できません。
その上で、外国人社員を試用期間中(完了後)に解雇する場合に、気をつけるべき重要なポイントをいくつか挙げてみたいと思います。
■ 外国人社員に「解雇予告」を行う、または「解雇予告手当」を支払う。
社員を会社側の判断で一方的に解雇する場合は、(解雇日以前)30日前に「解雇予告」(社員に対して解雇を通知すること)を行うか、または、30日分の賃金を支払うことが、法律上義務付けらています。
これをせずに解雇をすると労働基準法第20条違反となり、会社に対して罰則が課されます。
ちなみにこの、「解雇予告」と「解雇予告手当」は併用することができます。例えば解雇日の15日前に解雇予告を行う場合、同時に残り15日分の賃金を支払えば、この15日前の解雇予告は適法となります。
【※】
30日の計算については、解雇予告をした日は”30日”に計算されず、実際に解雇予告をした日の翌日から30日をカウントして解雇予告・解雇予告手当の計算をします。
■ 解雇予告をしなくてもいい、解雇予告手当を支払わなくてもいい外国人社員がいる?
ただし、この、「解雇予告」 や「解雇予告手当の支払いをしなくてもよい社員」というのが、やはり労働基準法で明示されています。試用期間中の社員についても下記の方がそれに該当するのです。
【雇用されて14日以内の社員】
14日を越えて(=雇用開始後15日以降)雇用が継続している外国人社員については上記、「解雇予告」か「解雇予告手当の支払い」(又は併用)を行わなければ労働基準法違反となります。
しかし、雇用開始後14日以内の社員に対しては、それを行わなくても少なくとも労働基準法違反には問われるないのです。
ただし、これについてはあくまでも労働基準法違反には該当しない、というだけの話しで、外国人社員の場合、たとえば会社の判断によって採用を決定し、はるばる海外から日本に呼び寄せて、雇用を開始したというケースも多いでしょう。
そのような場合、解雇後の帰国旅費などの本人負担を考慮せずに予告手当などの支払いを一切拒否すると、 後々、民事訴訟などの労使トラブルに発展する可能性はあります。
そのような、海外からわざわざ会社によって招へいされた外国人社員に対しては特に配慮と注意が必要です。
■ 外国人社員の試用期間中(満了後)の解雇について次のことに注意する
① 解雇した外国人社員の帰国手配と入国管理局への届出
在留資格認定証明書(会社が自らスポンサーとなり、就労ビザを取得し海外にいる外国人を呼び寄せて社員として採用した場合)を取得して入社した外国人社員を試用期間中(試用期間満了後)に解雇するときには、会社は社員に対して速やかな帰国を促し、帰国手配を行う義務があります。
その上で、管轄の入国管理局に対して、本採用を行わずに解雇した旨・その理由などを、書面で届けておくことも重要です。
一方、在留資格認定証明書ではなく、もともと日本に滞在していた外国人を新卒・中途入社で雇用し、その社員を解雇する場合については、帰国を促す必要はありませんが、この場合も、入国管理局への退職(解雇)に関する報告を行っておくことは重要です。
ちなみに、「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」のビザを持っている社員に関しては、入国管理局への届出も不要です。
その際に、解雇した外国人社員の氏名や就労許可番号などの基本情報と一緒に、「なぜ、雇用期間中(雇用期間満了後)にその社員を解雇したのか。」について、簡単に、冷静な記述方法で、その解雇理由を記載しておけばベストです。
【※】
ただし、解雇された社員が、新しい就職先を見つけ、引き続き日本国内で働いていく場合、彼らは、その後も継続して入国管理局に対し、ビザの更新や転職許可の申請をしていかなければなりません。
そのため、前述の、会社側から届け出る解雇理由の記載について、会社側があまりに一方的な申告を行ってしまうと、結果的に、その方の将来のビザ取得に大きく影響を与えてしまう事も十分考慮していただき、その上で、入国管理局への冷静な報告を行ってください。
なお、入国管理局への届出の書面については、当事務所でも使用している書式を公開していますのでよろしければこちらも参考にしてください。
【外国人社員に関する退職の連絡/入国管理局あて】 ※ pdf
↑ クリックしていただくとPDFファイルが開きます。
② 「試用期間」という制度について、採用時に十分説明し、社員の理解を深めておく。
そもそも、「試用期間」という制度そのものを知らない外国人も多いです。
その事を、会社が十分に認識していただいた上で、オファーレター(採用を決定する前に雇用条件などを明記して社員に渡し、確認してもらう書面)や雇用契約書を配布・締結するときに、制度について、外国人社員によく説明し、本人の理解を深めておくことが必要です。
本人にきちんと口頭で、試用期間について、下記のことを説明し、更に、オファーレターや雇用契約書に記載することによって、本人の了解を得ておく事が、将来のトラブル防止につながるはずです。
・ 試用期間/Traial Periodがあること
・ 試用期間の期間、その間の取扱(社会保険や労働保険、賃金など)
・ 試用期間中、満了後の解雇がありうる事
・ 解雇する場合はその理由(職務怠慢、能力の著しい不足など)
当事務所では、解雇時のトラブルを最小限にする「雇用契約書」の作成などについてご相談をお受けしております。こちらの、「お問い合わせ方法について」のページをご覧ください。
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