飛べないオウム | 米国のにほんじん。

米国のにほんじん。

2004年に渡米。
米国の冷蔵庫の通称を持つひえひえのミネソタ州にひんやりと在住。
2 marriage, 3 kids, one full time job and 1 divorce laterの日々のことを、
つれづれなるままに日暮らしてきにメモ。

『で、二人で何して遊んでるの?』


土曜の昼下がり、夫バニーの古い友人夫婦の新居を訪ねた。

バニーは夫婦ともに友達だが、私はもちろん初対面。

自己紹介などしたあと、

友人夫婦に尋ねられ、思わずバニーと顔を見合わせた。


これ、日本語だと↑になるのだけれど、

実際には

『So, What you guys doing for FUN

であった。


『ところで、二人は何をすることを楽しみとしているのですか?』(中学英語教科書風)


ここでの楽しい答えは、


『二人でテニスをしたり、週末はしばしばドライブに行くことが楽しみと言えるでしょう』(教科書風)


である。しかし、私達がしばらく考えたのち出てきた答えは、


『スーパーに買い物に行くこと』

『ごはんを食べること』

であった。思いっきり日常生活である。


ファン★というとなんだか太陽の下で思いっきり汗を流したり

海岸を追いかけっこしたりするのがファン★なことな気がして友人夫婦に申し訳なく思っていると、


『そうよねえ、私達も特に何もしてないもの。しいていえばたまにカジノに行くくらいかなあ』

と奥様はタバコをくゆらせた。

『もっぱら子供を追い掛け回してるわ』


友人夫婦のおたくはいかにもアメリカのファミリー映画に出てきそうな

郊外の住宅地にあった。

開け放たれた車庫からは子供用の自転車、おもちゃ、ぬいぐるみが山のように

重なっていて、どこから見ても幸せな若い家族である。


庭のポールにはまだ引っ越してきたばかりだからこそ何も掲げられていなかったけれど、

すぐにアメリカ国旗がはためくようになると思われる。

レンガ色に塗り分けられた窓からはコーヒーの香ばしい香りがした。

部屋に入ると数段階段を上がったところにリビングルームが広がった。

大きくとられた窓の向こう側には大きなしいの木が風に葉を躍らせている、、、、

と、


『クエエエエエエエエエエエエエ!』


地獄の底から響いてくるような泣き声が!

振り返るとそこには

天井から吊り下げられた止まり木につかまった三歳児ほどの大きさのオウムが!!!

北米の地にいるかと思ったらいつのまにやら私達はジャングルに迷い込んでいたらしい。


オウムは黄金のくちばしから黒い舌を出して相変わらず


『クエエエエエエエエ』と叫んでいる。


怖い。


『ヒューイっていうのよ。かわいいでしょう?時々笑うのよ。』


かわいくない。むしろ怖い。ヒューイ、というか何かが憑依しているとしか考えられない。

しかし私は人の輪を大事にするジャパニーズであるからして、

タテマエとホンネを使い分けるのであります!


『とってもかわいいオウムだねえ★でも、家の中を飛び回ったりしたら大変なんじゃない?』


こんな大きな野鳥が家の中を飛び回ったら地獄絵図のようになるのは必死である。


『大丈夫よ。ヒューイには申し訳ないけど、飛べないように羽が切られているのよ』


なるほど。言われてみればさっきからその巨体をゆるがせてはいるが、羽をばたばたさせることもなく、

足をよちよちさせている。そう思うと憑依君に同情の気持ちが沸いた。


話は戻り、ファン★であるが、

聞かれて本当に呆然としてしまった。

今楽しいのは家でぼーっとすることなのである。


小さい頃は寝る時間がもったいないと思っていた。寝る時間があったら外で遊んでいたかった。

中学高校大学時代は演劇に明け暮れ、母親に

『家はホテルじゃないのよ!』と言われるほどであった。

就職してからは仕事ばかりで、少しの時間があれば

映画を見に行ったり、江戸川まで自転車を飛ばしたり、

ディズニーランドの花火を眺めに行ったり、

友達と連れ立って飲み歩いたりした。

いつもいつも時間が足りなくて、もう少し余裕ができたらしたいことばかりだった。


それが今はできるだけ家にいたい。

コーヒーが沸く音を聞きながら駄犬を抱き上げ寝かしつける。

ソファに埋まって買えるわけのないバカ高い家具やのカタログをめくりながら

バニーと値段当てクイズをする。

ポプリの匂いをかぎ、

家中を磨き上げる。

泡風呂に漬かってワインを飲む。


家の中が、喫茶店であり、レストランであり、映画館であり、スパであり、

図書館になっていた。

必死で外を見つけ歩いたものの多くはここにあり、

外で起こったより多くのドラマが家の中で起こっている。


家でごろごろテレビを見る両親を、冷ややかな目で見つめていたころがあったが、

二人はきっと幸せだったんだ。


友人夫婦の家で昔話に花を咲かせていると、

上階から

『ハハハハハ』とオウムが笑った。

それを聞いて友人夫婦がそっくり同じ笑い方で笑う。

『ハハハハハハ』

『ハハハハハ』オウムが返す。


案外このオウムもジャングルよりここが好きになっているのかもしれない。


てなことを思う一日