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『恋 歌』(れんか) 朝井まかて
 
「君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもおしえよ」
 
(恋することを教えたのはあなたなのだから、どうかお願いです。
忘れ方も教えてください。)
 
この歌は、晩年、中島歌子が亡夫へ向けて詠んだものです。
夫への恋情は今も尽きることはなく、想いは募り続けていたのです。。
 
『恋歌』は、幕末の時勢事件を織り込んだ宿屋の娘と水戸天狗党の志士との恋物語です。
 
けれど、恋愛物語とも歴史物語とも、、ひと括りできない物語。
深い感慨が残ります。
特に、終盤に明らかになった事実には驚嘆し、心打たれました。
 
主人公の中島歌子(本名・登世)は明治の歌塾『萩の舎』(はぎのや)の主宰者で、
「たけくらべ」の樋口一葉、三宅花圃(みやけかほ)に和歌を教えたことで知られています。
 
三宅花圃(本名・龍子)は、10歳の時、「萩の舎」に入舎し、後に小説家となりますが、門下生の
樋口一葉は花圃の後輩にあたります。
 
(余談ですが、樋口一葉は本名樋口夏子といい、当時「萩の舎」には伊藤夏子の二人の夏子がいたので、樋口一葉は「ヒ夏」と呼ばれていました。
花圃に刺激を受けて小説を書くようになった一葉ですが。。そこには深い事情がありました。)
 
本書は、三宅花圃の目を通して歌子の人生が語られてゆきます。
 
花圃は病に臥せった歌子の依頼で見舞いの礼状代筆と書類の整理に、かつて萩の舎の奉公人だった中川澄と二人で歌子の家へ向かいます。
 
書簡等が山のように積まれた文箱。
その内縁がようやっと見えてきたところ、布紐で括られた厚みのある重い奉書包が出てきます。
 
包みを開くと半紙の束が現れ。。。
 花圃は紙面に目を凝らし、思わず拾い読みをしてしまいます。
 
そこには、歌子の壮絶な半生記がありました。。
 
登世(歌子)は水戸藩出入りの宿屋「池田屋」の娘で、ある日、林忠左衛門以徳(はやしちゅうざえもんもちのり)という天狗党の美男の志士と出会い、恋におちます。
結婚を反対していた母親を説得し登世は池田屋に長年奉公していた爺や、清六を連れて水戸へ嫁ぎます。
(*第四章 「草雲雀」での清六の書置きの件は涙なしでは読めません。。)
 
その頃、尊皇攘夷なる考えの水戸藩は一枚岩とはいかず、天狗党と諸生党が対立し一触即発の状態でした。
 
元治元年、藤田小四郎が中心となった天狗党の乱が起こり、天狗党の一党は弾圧され、登世、以徳も引き離され、囚われの身となります。
 
まるで悲劇的な結末が宿命づけられているように。。
  
中島歌子の生涯とともにそこに関わった人々のそれぞれの人生も語られ、後半はミステリー小説のようにぐいぐいと引きこまれました。 
 
読書の途中、心打たれ、しばし涙。。。
そして作家、朝井まかての言葉の静謐さと筆力に感じ入りました。