~チャンミンside~
「出張の報告に行こうとしたら、おまえ、・・あんなだし。その後それどころじゃなかったからさ、夕食がてら報告するよ。」
「ん、・・僕はみんなと一緒に食べるから。」
ジヒョンさんに返事をしようとベッドからおりて歩きだした僕の腰をぎゅう、っと抱き寄せるユノ。
正直、一緒に食おうと言われてもヨンジンおじさんとユノと僕、なんて絶対無理だから助かった。
おじさんだって僕には会いにくいだろう。
なぜ僕を近くに置こうとしたのか?
僕に何を望んでいるのか?
気になるけど、知りたくない。
今はユノの側にいたいから。
首筋にツーッと唇の感触。
こそばゆくて身体を捩ったら今度は耳朶を甘噛みしてくる。
「ちょっ、///・・や、やめ・・ジヒョンさんが、・・。」
「ん、分かってる、・・少しだけ。」
なんて言って、なかなか腰に巻きつけた腕を解こうとはしないし。
「────あんなに冷たかったのに勝手だなぁ。」
ついボソッと言っちゃって。
────え?って聞き返してくるけど知らんぷり。
こんな事なら僕の涙を返せ!と言いたい。
「・・チャンミンさん?ユンホ坊ちゃまもそこにいらっしゃるのですね?」
再度ジヒョンさんからの声かけに慌てて返事をしてすぐに食堂まで行くと告げた。
「じゃ、───後から部屋来いよ?バイトするだろ?」
出張前に庭師のジョンさんを手伝うようにと、そう言って僕を突き放したくせに。
そんなことまるで忘れたかのようにぬけぬけと言ってくるのが信じられない。
───でも、まぁ、・・行っちゃうな、多分、・・や、絶対。
ユノを送りだした後、ため息混じりでまだ火照った顔を引き締めるべく洗面所に向かった。
「遅い!」
ユノの部屋をノックした途端かけられた言葉。
────僕?・・に言ってる?
そのままドアを開けるのを躊躇してたら、──ガンッ、と乱暴に開いたそれ。
びっくりして固まった僕を構わず乱暴に引っ張り込む。
「あの、・・え、と。遅かった、ですか?」
出張先から直帰したようだったから、仕事があるかもしれないと気を使ってゆっくり来たのに。
「もういい。」
って、怒ってるじゃん。
スッとスマホをかざして、「おまえの番号知らないし。」と憮然と呟く。
「そうですね、・・僕もユノの番号知りたいです。あ、あとアドレスも。」
同じ屋敷内に住んで、バイトと称しては時間を共有していたのに、お互いの携帯番号さえ知らない僕ら。
教えあうその行為さえ胸が高鳴るほどに嬉しいなんて。
ポンッとソファに投げたスマホがクッションに跳ねるさまを眺めていたら、・・ふわっと背中から抱きしめられて。
「いいけど、・・おまえの部屋に内線電話を置くよう、言っておいたから。」とか。
今日を境になんだか世界が変わったようなユノに怖じ気づきそうな僕で。
「あ、あの、・・あまりジヒョンさん達に不審がられる行動は避けた方がいいかと、・・。」
遠慮がちに言ってみたけどまるで通じてないのかポカンとしてる。
「ユノ?」
「・・恋人、・・になったんじゃねぇの?俺ら。」
「・・・/////。」
─────そう、・・だけど、・・確かに、・・そうなんだろうけど、・・何もそんなに真顔で言わなくても・・・。
あまりの恥ずかしさに言葉もでない僕を不思議そうに見てくるから、・・まったく通じてないね。
「チャンミン。」
無表情なのはいつも通りなのに、僕の名を呼ぶ声が今までにないほど甘いとか、・・それは僕の思いこみだろうか?
「な、・・もう遅い。ベッド、行こ?」
「は?///」
何言ってんの?この人は。
バイトするだろ?って呼びだしたくせに。
「バ、バイトですよね?///ユノはどうぞベッドでゆっくりしてください。僕はいつもの椅子でお願いします。」
「いいよ、今日は。・・・バイトなんて。」
「バイトなんてしなくても、何でも買ってやるのに。」
─────ムギュゥッッ、・・・
「っ!!・・痛ってぇ!!!」
思いきり抓られた両頬を撫でながら睨んでくるユノに。
「僕は女じゃないから、そんなこと言われても嬉しくも何ともありません!」
「それにっ、・・庭師の手伝いしろとか、こっちやれとか、やるなとか、・・振り回すのもいいかげんにしろ!」
ああ、──せっかくいい雰囲気だったのに、思わず言ってしまった。
ユノはまだ頬をさすりながら完全に斜めを見ちゃってるし。
謝らなきゃ、・・と思ったところで、
─────「悪かった。」とポツリ。
「・・・女なんて思ってねぇし、・・バイトも、今日は小難しい話じゃなくて、・・その、・・もっと、・・」
そう言い淀んでるユノがなんだか無性に愛おしくなってきて。
この人は。
ただ感情を表すのが下手なだけなんだ。
「ユノ。ジョンさんのお手伝いのバイトは本当に人手を探してるんですか?」
「いや、・・俺の方から使ってもらえるように頼んだ。おまえ、・・俺なんかの相手してるより植物相手の方がいいだろう?」
─────ユノ。
「・・・今日は、お互いのこと、・・たくさん喋りませんか?」
「──もっとユノが知りたいんです。」
ちょっと困ったように眉を寄せたユノが、・・それでも、──仕方ないな、と頷いてくれて。
お互いの大学のことや、友達のこと、───知ってるようで知らなかった今の生活について、・・それは喋り疲れて寝てしまうまで続いた。