~ユノside~
「抱くよ、………悪い?」
そう言うと、キュッと唇を噛んで、もの言いたげにうつむくチャンミン。
───なに?
…おまえには何も言う資格なんてないよな?
とにかく今は、チャンミンとの一週間を消したい気分なんだよ。
気配も、…匂いも、…出来れば、記憶さえ─────。
「…べつに。ユノの勝手にしたらいい。」
「ああ、言われなくても勝手にするね。…おまえさぁ、今度振られても、もう来るな!」
吐き捨てるように言ったら。
ピクッと揺れる瞳。
ズルいよ、…チャンミン。
「────もう、来るな!」
ゆっくりと、まるで自分に言い聞かせるように。
チャンミン。
もう、うんざりなんだ。
もう、おまえなんて、…いらない。
「ユノの馬鹿!…もう、ぜーったい、頼まれても来ないからな!」
最後まで可愛くない捨てぜりふを吐いて去っていく、その背中を見送って。
「…クソッ!!」
「…クソッ!!」
何度もソファーのクッション相手にイライラを吐き出した。
「…ユノに似てねーか?」
「は?」
「…ほら、チャンミンが土日に働き始めてから、やたら来るアイツ。」
顎で指した先には、トレイ片手に楽しそうに話すチャンミンとそいつ。
「あれ、チャンミンのゼミの先輩らしいな。」
「…ふーん。」
チャンミンの好きなやつ、…だよな?
マジで分かりやすいっつの。
「…見た感じとか、雰囲気とか、喋り方とか、…おまえに似てね?」
「自分じゃわかんねぇよ。」
俺に似たやつを好きとか。
逆にムカつく。
どうしてオリジナルじゃ駄目なんだ?
結局あの日も彼女を部屋によぶことはなかった。
急に仕事が入ったと。
後日、食事に誘ったけど、…期待に満ちた瞳で見られても、どうしてもその気にはなれなくて。
チャンミンもこの娘にキスしたのかな、とか。
チャンミンもこの娘を優しく抱いたのかな、とか。
それとも激しく抱いた?とか、そんな事ばかり考えてしまう俺はかなり重症かもしれない。
視線の先ではチャンミンと俺に似てるっていう男が未だに楽しそうに喋ってて。
「あれ?先週までチャンミンっておまえんちに泊まってるって言ってなかった?また喧嘩したのかよ?…懲りないねぇ。」
なんて、ドンへが呆れ顔でぼやいてるけど。
捕まえた、と思った先から、指の隙間を滴る雫のように、あっという間にすり抜けていくチャンミンを。
───もうこの手の中に収めることは無理なのかもしれない、…そう諦めにも似た気持ちで、大きくため息をついた。