~チャンミンside~
─────ユノに似ている。
それが僕の第一印象。
そろそろ出席日数も気にしなきゃいけない時期になって。
ちょこちょこ通うようになったけど、…やっぱりつまらない。
親の会社に入ることを義務づけられてるから、出来るだけ引き延ばしたくて大学院に入ったものの、……僕は何をしたいんだろう。
世間体ばかり気にして、跳ねっ返りの僕を檻の中に囲みたい両親と、僕のことを恥だといって憚らない兄たち。
うんざりする事から逃げるように家を出ても、やっぱりうんざりする事だらけ。
幼い頃はいつもひとりで、いつもどこかに閉じこめられてた。
近所の子どもと遊ぶな、と、おもちゃだらけの部屋だったり、…小中高エスカレーター式の学校だったり、その送り迎えの車だったり。
そんな僕にいろいろ教えてくれたのはユノだった。
本人は、多分、何も気づいてないけど。
ユノの後についてくだけで、明るい世界が目の前にあったんだ。
その日はゼミの飲み会らしく。
まったく参加するつもりなんてなかったのに、ゼミの教室でたまたま隣になった、やたら愛想のいい奴に無理やり連れていかれて。
「お?…初めて見る顔だな。」
ひとつ先輩になるけど、…って、ニッコリ笑った顔が。
やっぱり、…ユノに似てる?
人付き合いの苦手な僕に、スルッと入ってくる人なつこさ。
恥ずかしくて生意気になる態度にも、余裕たっぷりに、よしよし、…とかしてきて。
飲み会が始まってから、ずっーと僕から離れないのは、…たぶん、初顔の僕に気を使ってくれてるからで。
────きっと、それだけで。
「…ユノ!…好きな人が出来た!」
「…は?」
実は僕はまだユノのマンションにいた。
明日出よう、…明日、って、気づいたら一週間も泊まっていて。
ポロッと口からポテトをおとすユノ。
「なんだよ?…きったないなぁ。」
「あ、…ああ。…で、なに?」
「だから、今日から自分ちに帰るからさ。」
ユノんちに置きっぱなしにしてた服も参考書も、すべて旅行用のバッグにばたばたとつめはじめた。
「…おまえんち、…で、一緒に住むの?」
「…まさか!…あそこは誰も入れないよ。」
「……それに、つき合ってるわけじゃないし。」
「……勝手に僕が好きなだけだし。」
呆気にとられて動かないユノ。
僕もすごく居心地が悪くなってきた。
なんか、べつの話題、…って考えながら。
「あ、そうそう。モデルの彼女さぁ、ユノと連絡とれない、って、すっげ僕んとこ電話してくるんだけど?」
「…まったくさ、あり得ないよな?一応元カレにそんな事相談するか?」
ハハ、…って、笑ってユノを見るけど、ユノはまったく笑っていない。
なんだよ?
そんな顔で僕を見るなよ。
~♪♪~♪♪~~♪~~
重い沈黙を破った着信音は、噂の彼女。
「あー、ちょっと、待って。ちょうどユノいるから。…ん、替わるよ。」
無理やり押しつけたスマホ。
「ん。…ごめんな?…そう。今日?…ああ、いいよ。」
聞くつもりなんてまったくないのに。
嫌でも耳に入ってきてしまう。
「よかったら、…俺んち、…来る?」
「…イテッ!!」
「あ、…ごめっ。」
無意識にユノの腕に爪をたててしまったみたいで。
パッ、と離した先には、小さなひっかき傷。
────俺んちくる?…なんて、…だって、ここ?
この一週間、何度も何度も身体を重ねたこの部屋に、…つき合ってもいない女を呼んじゃうわけ?
それで…その女を、抱いちゃうの?
毎日一緒に寝た、…あのベッドで?