~チャンミンside~
───ハァ、ハァ、……、…ユノさん!!
事務所の、そんなに広くない廊下を思い切り走るから。
「…っわ!…す、すみませんっ!」
何度も事務所のタレントやスタッフさんにぶつかって。
───「えっ、!!…怪我?」
「…ああ、…大したことないけど、今、医務室に行かせたから。」
「あのストーカーの可能性が高いから、おまえも勝手に事務所出るなよ!」
ドンジュさんからの電話。
僕がボイストレーニングの間に!
詳しいことは分からないけど、…ただ、顔を見て安心したくて。
走っても走っても、…砂地を走るような、…足元がおぼつかない感覚に。
心臓が締め付けられるほど痛いのは、走ってるからなのか、…あの人が怪我をしたって聞いたからなのか。
────バタンッ!!
勢いよく開けた扉の向こう。
あまりの僕の様子に、目を丸くしてビックリしてるユノさん。
誰もいない医務室にひとり、窓際の椅子に腰かけて。
───あれ?
怪我って?…どこを?
「…びっくりしたぁ!なんだよ?腹でも痛ぇの?」
呑気に言ってくる人をよく見ると、…頬に、…絆創膏?
「…あ、あの、……怪我って、……それ?」
肩で息をしながら一歩ずつあなたに近づく。
「…は?……ああ、ドンジュさんに聞いたな?」
「事務所でたところを、エアガンで撃たれた。最後だけ避けきれずに顔をかすってさ。」
「…ごめんな。逆光で、よく見えなかった。弾の角度から、すぐ探したけど、…見つけられなかった。」
────────ああ、……………。
力が一気に抜けて、……あなたの座った椅子のまえにひざまずいた。
「な、なに?…どうした?」
「…良かった。どんな怪我かと、…。」
ドンジュさんも人が悪い。
最初からちゃんと言ってくれれば、こんなに慌てることないのに…。
本当にビックリして、…本当に焦って、…本当に苦しくて、…。
──────言葉がでない。
椅子の前でうずくまったまま腰が抜けたように動けない僕。
思わず潤んだ目を見られないよう、俯いて。
「…ばかだな。」
くいっと、…きれいな長い指が僕の顎を持ち上げる。
目の前には切なげに細めた切れ長のアーモンドアイ。
「……ほんと、…ばかだ。」
両頬を、ぐいっと掴まれて、……コツンと合わせた額。
「────チャンミン。」
あなたの両手に包まれた頬が熱くて。
「────チャンミン?」
目線のやり場に困って、ギュッと目を瞑った。
「─────好きだ。」
ゆっくりと、……静かに重なった唇は、ただ優しくて。
─────ぼくも、…。
そう心の中で何度もつぶやいた。