紅-クレナイ-の人(21) | えりんぎのブログ




~チャンミンside~






───ハァ、ハァ、……、…ユノさん!!



事務所の、そんなに広くない廊下を思い切り走るから。


「…っわ!…す、すみませんっ!」


何度も事務所のタレントやスタッフさんにぶつかって。



───「えっ、!!…怪我?」


「…ああ、…大したことないけど、今、医務室に行かせたから。」


「あのストーカーの可能性が高いから、おまえも勝手に事務所出るなよ!」




ドンジュさんからの電話。


僕がボイストレーニングの間に!


詳しいことは分からないけど、…ただ、顔を見て安心したくて。


走っても走っても、…砂地を走るような、…足元がおぼつかない感覚に。


心臓が締め付けられるほど痛いのは、走ってるからなのか、…あの人が怪我をしたって聞いたからなのか。



────バタンッ!!



勢いよく開けた扉の向こう。


あまりの僕の様子に、目を丸くしてビックリしてるユノさん。


誰もいない医務室にひとり、窓際の椅子に腰かけて。


───あれ?

怪我って?…どこを?


「…びっくりしたぁ!なんだよ?腹でも痛ぇの?」


呑気に言ってくる人をよく見ると、…頬に、…絆創膏?


「…あ、あの、……怪我って、……それ?」


肩で息をしながら一歩ずつあなたに近づく。


「…は?……ああ、ドンジュさんに聞いたな?」


「事務所でたところを、エアガンで撃たれた。最後だけ避けきれずに顔をかすってさ。」


「…ごめんな。逆光で、よく見えなかった。弾の角度から、すぐ探したけど、…見つけられなかった。」




────────ああ、……………。


力が一気に抜けて、……あなたの座った椅子のまえにひざまずいた。


「な、なに?…どうした?」


「…良かった。どんな怪我かと、…。」


ドンジュさんも人が悪い。

最初からちゃんと言ってくれれば、こんなに慌てることないのに…。


本当にビックリして、…本当に焦って、…本当に苦しくて、…。


──────言葉がでない。



椅子の前でうずくまったまま腰が抜けたように動けない僕。


思わず潤んだ目を見られないよう、俯いて。


「…ばかだな。」



くいっと、…きれいな長い指が僕の顎を持ち上げる。



目の前には切なげに細めた切れ長のアーモンドアイ。



「……ほんと、…ばかだ。」



両頬を、ぐいっと掴まれて、……コツンと合わせた額。



「────チャンミン。」


あなたの両手に包まれた頬が熱くて。


「────チャンミン?」


目線のやり場に困って、ギュッと目を瞑った。


「─────好きだ。」


ゆっくりと、……静かに重なった唇は、ただ優しくて。


─────ぼくも、…。


そう心の中で何度もつぶやいた。