何度目かのNさんの入院で、

いつもは感情の起伏のないNさんが

感情をあらわに主治医に訴えている場面が

ありました。


その内容は

"いじめの加害者たちを訴えたい"

というものでした。



娘さんの自殺からは

もうすでに何十年も経過しています。


主治医はNさんにどうして急に

訴訟を起こしたいと思ったのか尋ねました。





その理由は

いじめの被害者であった私の心も

強く掻き乱すものでした。





Nさんは入院の準備をするために

買い物をしていたところ、

見掛けてしまったのです。






何十年経っても

Nさんは加害者たちの顔を

忘れることはありませんでした。

見掛けた瞬間、すぐに分かったそうです。


自分の娘を死に追い込んだ

加害者たちが、

自責の念に苦しむこともなく

幸せになっている姿に

Nさんは激しい怒りを募らせていました。




しかし訴訟には、

辛い過去を掘り返すことでの

フラッシュバックによる心の負担、

金銭面での現実から

主治医とご家族は賛成しませんでした。




ご家族も仕事の後でも

毎日面会に来られ、

担当看護師と共にNさんを説得し、

苦しみに寄り添い続けていました。



Nさんはそんな家族の姿を見て、

訴訟を諦めました。