今回は サマセットモームの<人間の絆>です
中野好夫訳 新潮文庫
内容は ↓ Amazon から引用💦
幼くして両親を失い、牧師である叔父に育てられたフィリップは、不自由な足のために、
常に劣等感にさいなまれて育つ。いつか信仰心も失い、聖職者への道を棄てた彼は、
芸術に魅了され、絵を学びにパリに渡る。しかし、若き芸術家仲間との交流の中で、
己の才能の限界を知った時、彼の自信は再び崩れ去り、やむなくイギリスに戻り、
医学を志すことに。誠実な魂の遍歴を描く自伝的長編。
※モームの自伝的作品と呼ばれる小説。
生涯を綴るというより精神の覚醒、それに至る境地を主人公に託し
<生>の意味への問いかけを読者にもたらして行く。
読み終えて、一種の哲学をも感じとれた大作だと思いました。
前回記事にした<月と6ペンス>もぐいぐい引き込まれましたが
<人間の絆>も上下2巻で割と内容多めにもかかわらず、ストーリー運びの上手さから、
次へ次へとページをめくりたくなり、目が左の字面を追いかけてしまうので
見えないように片側のページを隠して読んだりする事も有りました
情景描写も心情描写も細かく、作中、生き生きと人物たちが動き始めます。
上巻の前半は自伝的要素が強く、幼い頃両親に先立たれ叔父の家に引き取られた
主人公が目にしたこと感じたことは正にモームの実体験から来たと感じさせられます。
さて、作品に目をやると、主人公のフィリップ。まあ、どうしようもない💦
叔父は牧師だったため、フィリップも成長すると聖職者の道を進むために
牧師の学校へ行くのですが、やがて行き詰まり、信仰を捨てます。
次は自立のために会計士になろうと努めますが、そこも続かず、
次にパリに行き画家を志ざすのですが、そこでも自分の才能の限界を感じ挫折
次は父の職業であった医師に自分もなろうと学校に入り…
その間に、厄介な女性に掴まったり離れたりまた掴まったりで、
彼女のために色々なチャンスを棒に振りまくる。この辺りは
人間としてどうにもならない男フィリップの独壇場
彼の葛藤や挫折や思い付きの行動はおつむが悪すぎるのか情動だけで生きているのか?
と思わせるようなヘタレぶり。
そして最後 彼の得た教訓は
人生の意味など、そんなものは、なにもない。
そして人間の一生もまた、なんの役にも立たないのだ――。
でした
自己中心的で、周りを巻き込み、巻き込まれながら、地に足をつけて生きることは無く
先へ、先へと膨らむ明るい未来への妄想は、目の前の現実によってあっさり
崩れ去る。
愚かさゆえに、兆した煌びやかな可能性を見事なまでにどぶに捨てて行く人生。
にもかかわらず結末に用意されたものは彼の穏やかな、そしてささやかな日常で…。
◎中野良夫の訳が上手くて、本当に面白く読み終わりました。
若ければ感想はまた違っているでしょうが
自分が高齢なため、振り返れば人生ってまあそんなものだよね…と思えて…💦
◎そしてまた解説も素晴らしいのです。
小説を読む以上の知力を使いましたが、数ページにわたるモームの人生への
向き合い方に対する考察は人間の一生と言う物を客観的に見、解読するための
大いなる知見と感じました。
<人間の絆>と言う題名は、スピノザの<エチカ>から。
<エチカ>は太刀打ちできず途中挫折だったけれど、これもまた再読の意欲を
掻き立てられました。
ちなみに、今日7/26はマヤ暦で言う所の1/1.新年の始まりです。
新年に
人生の意味など、そんなものは、なにもない。
そして人間の一生もまた、なんの役にも立たないのだ――。
こんな記事を書いてる自分がおかしくてたまりません
もうこれからは、好きな事しかしない。好きな物しか食べない。
栄養の事なんか考えない(あ、無添加とかそう言うのはきちんと守ります)
マヤ暦の13月の手帳の最初にそう記しました
生きててなんぼです。今を生きましょう。今日を生きましょう。
たくさん笑って過ごしましょう。<人間の絆>を読んでそんな事を思いました。
さて次は何を読もうかな。