左:ファベッラさんとトレーナーの右:アレマウさん


 サンパウロに到着してすぐの9月11
日系クラブがあるイタケラという場所で、今年の12月にトヨタカップで来日するサッカーチーム、コリンチャスの養成学校の責任者のファベッラさんにお会いし、スラム街を案内してもらうという約束をした。
昨日はその約束の日だった。

 朝早くにイタケラにあるグランド施設で待ち合わせをした。
ファベッラさんは、少し遅れて到着し、挨拶を終えると残念そうな表情を浮かべて話始めた。
『先週からファベッラ(スラム街)で、PCCPrimero Comando de Capital{首都第一コマンド})と警察との間で争いが起きて、すでに19人もの警察官が殺されている。僕はさっきまで現場にいたけど、今日は行かない方がいい』

 朝のニュースで何気なく見ていたのはまさにその場所だった。
ファベッラさんは、スラム街に住むドラッグ常用者達が健全な生活を送れるように支援をしたり、子供達が麻薬に手を染めないようにするためにサッカーができる場所を提供し、運営をしている。
海外から来る有名人などがスラム街を訪問する際の多くは、彼がアテンドをしており、ジルマ大統領からも厚い信頼を注がれている人である。
有名サッカー選手を始め、多くのサッカー関係者が彼とコンタクトがあるほど有名なのだが、彼自身はとても謙虚で気取らない人である。
『ファベッラへは当分立ち入るのは難しいから、その代わりに明日コリンチャスの施設を案内するよ!』
と言うわけで、今朝早起きをし、コリンチャスのスタジアムがあるZona Leste(ゾーナ・レスチ)へ向かった。

 Penha
(ペーニャ)の駅に着くと、私と同じTシャツを着たファベッラさんが迎えにきてくれた。
車で施設へ向かう途中、ファベッラさんにある質問をした。
『どうして人を助ける支援を始めたんですか?』
バッグミラー越しに、後ろに座る私と前方を交互に見ながらこう言った。『僕のお父さんは警察官だった。ある日、お父さんはお母さんのこめかみをピストルで撃った。それから僕は兄弟と自分の面倒を見なければならなくなった。その時、周りの人達がたくさん助けてくれたんだ。人に助けられた僕ができることは、人を助けることだと思っている』
ファベッラさんは何も隠さない。取り繕わないから、彼が話す言葉は心に響く。何もかも経験し尽くしたような視線は、まっすぐで、躊躇しない。そして彼はいつでもどこでも感謝の種を見つけてありがとうを口にする。
『これから行く場所は、多くの人達から、お金を払うから連れて行ってくれと頼まれる場所なんだ。だけど、僕は駆け引きのない、心から通じ合える何かを持っている人を、お金とかそういうものは一切なしで招待したいと思っている』
私はファベッラに会えたことの価値をしみじみと感じていた。






 施設へ入ると、トレーナーやコックさん、清掃の人にいたるまで、それぞれの持ち場で働く人達を紹介してもらいながら、グランド、選手達が寝泊まりする部屋まで、全ての場所を案内してもらった。
レストランやサウナ、ビリヤードなどをする部屋はもちろんだが、施設内に教会があったのには驚いた。
全ての場所において、色は白と黒、紫で統一されており、ベッドの布団までもがコリンチャス柄だった。



              電気治療をする選手達


ファベッラさんは今年の12月、トヨタカップで選手と共に来日する。
『イタケラの養成学校の壁に、ファベッラの仲間の写真を貼りたいんだけど、エリコの写真も貼っていいかな?』
ファベッラさんは最後の最後まで謙虚だった。
ファベッラさんとクラブコリンチャスの日本での滞在が素晴らしいものになることを願いクラブをあとにした。



         イタケラの養成クラブの子供達と


ERIKO

※コリンチャス施設訪問の写真はFecebookにて公開しています。動画は後日UPします!お楽しみに!