ローマ法王の休日 追記 | えりっき脳内議事録(えり丸)

えりっき脳内議事録(えり丸)

Diary and memo written by a pathologist.

ローマ法王の休日(Habemus Papam)

脚本:★★☆☆☆ Nanni Moretti
音楽:★★☆☆☆ 
映像:★★★☆☆ 美術:Paola Bizzarri
音響:★★★☆☆ TOHOシネマズ名古屋ベイシティ PREMIER 1(デジタル5.1)
ある種のメッセージ性:★★★★☆
総合:★★★☆☆ 監督:Nanni Moretti


イタリアの映画監督ナンニ・モレッティの作品で、原語もイタリア語です。原題を訳すと、We have a popeという感じでしょうか。後述しますが、新教皇誕生、くらいの邦題が相応しいかな? 監督自身も精神科医として出演していまして、2人の精神科医がキー人物かと思われます。この2人の言動や行動に、おそらく監督のメッセージがちりばめられていると思われます。

監督のナンニ・モレッティはね、無神論者なんだと思う。これからの時代、人々を救済できるのは精神医学である、と言わんとしているのか。いや、違うね。おそらく、目に見えないものを信ずるよりも、目に見えるものを大切にしましょう、って言いたいのかな。目に見えないものっていうのは、つまり宗教。目に見えるものっていうのは、家族であったり、友達であったり、人間関係であったり。更に言うと、自分の心なんかも感じることができるよね。その一例として精神科医とのやり取りがあったんだと思う。

あらすじは、http://romahouou.gaga.ne.jp/をどうぞ。新法王に選ばれたメルヴィルは、法王という重圧に耐えられず、精神科医のカウンセリングを受けるも意が固まらず、バチカンを脱出するという話です。「ローマ法王の休日」なんて洒落た邦題が付いていますが、オードリー・ヘップバーンのローマの休日のような可愛らしさは微塵もないです(笑) いい年した爺さんが、一文無しで、カフェでくつろいでいる女性に携帯電話を貸してもらったり、パン屋さんで乞食よろしくパンにかぶり付いたり、かと思いきや、結構お高いホテルに泊まったり、オペラ座に行ったりと、一文無しじゃなかったんかよー、というような矛盾は多々散見されます(笑) しかも人々を救済する側の人間が、逃げ出すなんて、幼稚でもみっともないし。

宗教というと、私はどうしてもスタンダールの『赤と黒』のイメージがあって、聖職者というと高潔で身分も高く、それ故、権力やお金と結びつきやすいものだと思っております。そこそこの地位を得た聖職者、ましてやCardinal(枢機卿)クラスともなると、権力欲の権化が勢ぞろいしていると思います。こういったイメージがありますので、法王になりたくないCardialっているの?法王がこんな形で任務放棄する映画って…?この設定からして、どうもしっくり来ないです。(ちなみに、『赤と黒』の中で、赤は軍服を、黒は聖職者の色を表しているそうですが、聖職者といっても、コンクラーヴェを行うCardinalは、赤い服を纏っております)

法王に選出されたメルヴィルは、バチカンを脱走し、街の精神科女医のカウンセリングを受けて、「自分は保育障害でしてね」なんて言っちゃってる。挙句の果て、バチカンに連れ戻されたメルヴィルは、公衆の面前での挨拶で、「自分は法王に相応しくない」という結論に達する…。いやいやいや!相応しくないと思うなら、辞退しましょうよ!法王やりますって御自分で言った以上、形だけでも法王でいないと。宗教にすがる人もいるわけでしょ?新法王の演説を聞きに来ていた修道女の、あのすがる様な視線と期待を、踏み躙るのですか!街を放浪して、何を思ったのか知らないけど、メルヴィル自身の宗教の自由で、他者を失望させてはいけないと思いました。

メルヴィルという一個人の精神面の動きを描こうとしたのは分かりましたが、描きたいことが映画で100%表現できたのかどうか、監督本人に聞いてみたい。敢えて主題をぼかしたり、最後は必ずしもハッピーエンドで終わらないというのが、ヨーロッパ映画というか、カンヌに相応しき映画といえばそうなんでしょうけれど、アメリカ映画とは違うんですという変なプライドばかりが目立っているような。アバンギャルド過ぎて意味不明なことも多いし、今回のように説明不足な時もあるし、B級映画になり果てないかと、不安です。なーんて厳しいこと書いてみましたが、私自身は、そういうヨーロッパ映画が好きだったりするんですけど(笑)