34.①

美乃里「アルコール依存症…お父さんはアルコール依存症で片付けられた

それからは、お父さんの方のおじいちゃんとおばあちゃんの所に引き取られて住んでたんだけどね、周りがうるさくて…

5年生だったから名前こそ出なかったけど

周りはみんな気付くし、分かるよね…あんな事件…

何日もニュースであることないこと言われて

記者が来たり、変な噂話流されたり…

もう、うんざりだった


私がここにいたらおじいちゃんもおばあちゃんも苦しめてしまうって思って…

お父さんの妹さん、私の叔母さんに頼んで

引っ越したの…少しだけ施設に入れてもらって

高校生になったらアルバイトして自分の事は自分でなんとかしてた…


あの日の夢をずっと、いつも、見る…

あの生々しい血の匂いとか…刺した感触もずっと消えない…

だから忘れちゃいけないんだって思ってる

私が…私が壊したから…

我慢できたはずなのに…お父さんがお酒飲んでる時は怒りやすいって分かってたのに

わざわざあの時に言わなくても良かった…

私が」


守「美乃里」


自分を責めたてる美乃里の言葉を遮る守

守の真剣な声と眼差しに、ハッとする美乃里


守「美乃里、そんなに自分を責めなくていい

もう、大丈夫だから

誰も責めてない、美乃里を追い込んでるのは美乃里自身だよ

もう、許してあげな?

美乃里は悪くない、頑張った、よく我慢したな

そんな辛いこと誰にも言わずによく耐えてきたね…」

守は美乃里を優しく抱き締め、背中をポンポンと叩く

まるで赤子をあやす様に優しく包み込む


静かに声を押し殺して泣く美乃里


守「美乃里、我慢しなくていい

俺が傍にいるから

我慢しなくていい…」


守の声で美乃里はワンワンと子どものように

声を出して泣いた

そんな美乃里の背中を優しくポンポンと叩きながら抱きしめる守もまた、静かに涙を流していた


美乃里の泣き声が小さくなり、守は水を渡す

それを飲んで落ち着いてきた美乃里

涙を拭いながら優しく微笑む

美乃里「守さん、ありがとう…」


守「ん」

守は優しい眼差しで美乃里の頭を撫でる


美乃里「お仕事で疲れてるのにこんな話し…

ごめんなさい」


守「大丈夫だよ、美乃里も話してくれてありがとね」

首を縦に振る美乃里


守「おいで」

守はベッドに入り、横になると美乃里の手を引いて

腕の中に包み込んだ


守「俺はさ、父さんがお前のせいだって言って死んだ時

少しほっとした

あの地獄の日々が終わるのか…って

それでも父さんが残した病院や、母さんを思うと

自分を責めてしまう時もあっけど

責めても気持ちは悪い方にしか向かなかった

だからやめた

物心ついた時から俺はずっと自分を大事にしたかった…

自分の気持ちとか、自分がしたいこと

ありのままの俺でいたかった…

だから父さんがいなくなって、自分がしたかったことしていかなきゃ、それこそ自分を責めてしまうって…

そんな思いでがむしゃらに俺の人生を歩んできた

そうしてると大事なものや人がどんどん見えてきて

ああ、俺って一人じゃないんだなって…

大事な人やものを自分が思うまま大事にするっていいなって…

俺が思ってたよりもずっとずっと良い世の中じゃんって」


クスッと笑い、美乃里の顔を覗き込む守


守「美乃里の辛さはさ、どんだけ俺が分かろうとしても

結局は分かったフリしかできないから…

美乃里にしか分からない辛さや苦しみは計り知れないと思う…

なのに俺はそんな美乃里の過去にさえ感謝してる

美乃里と出会えたことに、美乃里の人生に

美乃里の笑った顔も、困った顔も、怒った顔も

俺に向けられてるもの全てが愛おしくて…

少しづつ、少しづつでいいから

過去を背負ってる美乃里で俺を見るんじゃなくて

今の美乃里の本当の気持ちで俺を見て欲しい…」


美乃里「ん…ん…」

小さく頷きながら守の胸に顔を押し付ける美乃里


沈黙のあと、いつの間にか2人は眠りについていた