33.④

美乃里はあの日のことを思い出しながら震えた声で少しづつ話していく…


過去の真実を…


そうだ…あの日は土砂降りの雨だった

日曜日なのに、どこにも行けなくてつまんなくて私は不機嫌だった

夕方、お父さんが帰ってきてお酒を飲みだした…

怒らせないように気を付けなきゃと思うとそれにも腹が立ってきて不機嫌な私は、その不機嫌さを隠すことが出来ていなかったんだと思う…

夕飯を食べ、キッチンでお母さんと後片付けをしていたらリビングからお父さんが声を掛けてきた

「おい、酒買ってきてくれんか?」

お父さんがお母さんに言った

「はあーい、じゃあ、美乃里あと頼んでいい?」

父に大きく返事をした後、私に問いかける母親


私は母がいなくなるのが怖かった…

なんでか…何でか分かんないけど嫌だった

「こんな雨の中行くの?直ぐに帰ってくる?」


「大丈夫よ、昴の面倒お願いね」

お母さんは直ぐに帰ってくるわ、と出て行った


母親が出て直ぐに

「おい」

父親の低い声が聞こえてお皿を洗う私はゆっくりと振り向いた

父親は私を睨みつけて

また…あの、いつもの…質問をしてきた

「おい、美乃里…刺されたいか?脱ぎたいか?」


「お、父さん…私なにもしてないよ…」

(私…怒らせることしてない…なんで私が怒られるのよ)


「お前、なんだ?その態度は」


「え?あ…ごめんなさい…」

直ぐに、怒らせちゃダメだって思って謝った


「はぁ?思ってねーだろうが」

バンッ

父は思いっきりドアを叩いた


「ごめんなさいっ…お、お父さん、ごめんなさい」

私は謝りながら急いで自分から服を脱いだ

いつものように…


するとリビングでテレビを見ていた昴がキッチンに来て

下着姿の私と不機嫌なお父さんの顔を見て

「へへっ、お姉ちゃんお風呂入るの?」と聞いてきた


そう…お父さんと私のこの掛け合いはいつも2人の時だけだ…

「昴、なんのテレビ見てるの?続き、見ておいで?」

私は怖かった…

お父さんのターゲットが昴に向くのが…

私でいい…私が我慢したらいい…

「えーもう見たいテレビないもん」


「昴、痛いのと怖いのどっちが好きだ?」

お父さんの明るい声が響く

私の頭の中では警鐘が鳴る

「どっちもきらーい、ねぇ、お父さん遊ぼうよ」


「いいぞ、遊ぶか…」

笑ってるお父さんが怖かった…昴は…昴には気付かれたくない…


「す、昴?お姉ちゃんお風呂入らないからお姉ちゃんと遊ぼ?お父さん、昴と私の部屋でゲームして遊んでもいいかな?」

私は服を着ながらお父さんに問いかけた

お父さんはただただ私を見て微笑んでいた

私はその顔が何を伝えたいのか分からなかった…

だけど、私の回答が正解ではない事は分かった


服を着る私にお父さんは

「まだ終わってねぇだろ?」


私の生唾を飲み込む音が大音量で聞こえた気がした


「俺が酒を飲むと不満か?」

私はブンブンと首を横に振る


「じゃあ…今日のその態度はなんだ?」

微笑みながら聞いてくる父


ガチャ

「ただいまー、パパお待た…せ

ん?どうしたの?」

まだ服を着終わってない私を不思議に思った母


父は母が持っていたお酒を奪い取ると昴を連れてリビングへと戻って行った


「美乃里?どうしたの?ズボン汚れちゃった?」

床に落ちてるズボンを手に取る母


そう、私は今日、不機嫌なんだ…

(ムカつく、ムカつくいっつも、いっつも私ばっかり我慢ばっかりムカつく、なにあのクソ親父)


「お母さん、私、お父さん嫌い」

分かってた…これを言ってしまったら家族が壊れちゃうんじゃないかって事は頭のどこかで分かってた…

でも、もう言ってしまいたかった

全部吐き出してお父さんに止めて欲しかった

お母さんなら助けてくれるって思って…


「あら、どうしたの?なんか怒られちゃった?

お酒飲むと少し怒りっぽいけど

お父さんは美乃里も昴も大好きよ?」


「違う」

私はブンブン首を振って

「お父さん、お酒飲んで怒ると私に聞くんだよ

刺されるか服を脱ぐかどっちがいいんだ?って…」


お母さんの瞳は揺れていて…

「そ、それで?」

声は…手は…震えていた…


気付いてた…でも全部吐き出して楽になりたかったんだ


...