19.③

外に出て少しすると悟と警官が雅紀を連れてきた


智樹 「よぉ」

智樹は雅紀の顔を覗き込む

雅紀は智樹の顔を睨むが憔悴し、覇気がない


智樹 「荒川美乃里さんは意識も戻ってさっき釈放された」

雅紀の表情が変わった…

それは嬉しさと悲しみが混ざったような顔だった

智樹 「次はお前の番だろ、ちゃんと前向け」

智樹はバシッと雅紀の背中を叩く


雅紀 「ちぇっ、あいつと話すことなんかねぇよ」

智樹 「お前はなくても父親は話しがしてぇんだよ」


悟 「智樹さんは…」

智樹 「俺はいいや、お前着いてくれ」

悟 「分かりました」


智樹はそのまま警察署の駐車場へ向かう


前から歩いてくる守の姿が見える

守 「あ、智樹さん」

智樹 「おお、彼女送ってやったか?」

守 「何言ってるんすかって、彼女じゃないですから」

智樹 「ええ?お似合いだったぞ?」

ニヤける智樹に呆れ顔の守

守 「智樹さん、美乃里さんのこと知ってるんすか?

あの後、美乃里さんの様子ちょっと変っていうか

ぎこちない感じで心ここに在らずって感じで…」

智樹 「お前のトークがつまらなかったんだろ」

守 「あ!ちょっと智さん

また俺をからかって…本当に…そうだったらどうしよう」

拗ねたかと思えば落ち込む守を見て

智樹は 「あはははっははっ」と大笑いした


智樹 「お前は救ってやれ、あの子を」

守 「え?なんすか?」

智樹 「なんでもねぇ…

今、中根親子を合わせて悟が聴取してる

お前も行くか?」

守 「いや、俺は資料まとめるんで」

智樹 「ああ俺はちょっと休憩してから戻るわ」

守 「分かりました」


悟 「時間は15分だ」

和弘 「はい、ありがとうございます」

雅紀は手錠を付け、ロープで繋がれている

そんな姿を父親は寂しそうな顔で見る


雅紀 「なんだよ」

雅紀は椅子に座りながら父親に問う


和弘は頭を下げた

和弘 「雅紀、俺はお前を苦しめた…

お前の人生をどん底に追いやってしまった

本当にすまなかった…雅紀…」


雅紀 「お前が謝ったって母さんは帰ってこねえだろ

お前がいる事になんの意味があんだよっ」

雅紀は声を張り上げた


静かな時間が流れる


和弘 「雅紀、俺は確かに大きな過ちを犯してしまった

雅紀がどれだけ俺を憎んでも

お前が俺の息子で、雅紀の父親って事は変えられない

俺は残りの人生をお前の父親で居たいと思ってる

お前には必要な存在じゃ無かったかもしれん…

それは昔の話しで…これからはお前に必要とされる父親に必ずなっていくから、お前を待ってるから

俺が待ってるから…雅紀、必ず待っててやるから

お前が出てくる頃には料理だって、洗濯だって

なんだって出来るようになってるから

雅紀には俺が着いてるから…な?」

和弘は言葉に詰まりながらもゆっくりと雅紀に気持ちが伝わるように話した


雅紀は俯きながら静かに涙を流していた


和弘 「雅紀…頼むから自分を責めないでやってくれ…

母さんはお前の笑った顔、好きだっただろ?

俺のせいだ…確かに全部俺のせいだ

だからそれで良いんだ…お前が自分自信を責める必要なんかない

お前はお前のままでいいんだ

どんな過ちを犯したとしても父さんはずっと雅紀の味方で…何度だってお前を許し続ける

例えお前が父さんを殺したって許す

どんなにどん底だと思っても

いつだってそのどん底から俺が救い出してみせる」


悟 「そろそろ時間です」


和弘 「雅紀、必ず待ってるからな

俺は覚悟決めたんだ

お前を必ず幸せにしてやるって

早苗と俺の大事な息子だ

…また来るな」

和弘は雅紀の頭をグシャッと撫でてそのままドアへと向かう

和弘 「わがまま聞いてもらってありがとうございました」

和弘は警察官に頭を下げて部屋を出る


その後ろ姿に雅紀は涙を流しながら頭を下げていた