19.②

近くの自販機に向かい缶コーヒーを買う

(はぁ…俺も分かんねぇ…これでいいのか…)

智樹の警察官としての想いも

和弘の親としての想いもどちらも間違いでは無いからこそ悩んでしまう智樹


ガチャ


奥の扉が開き、中から守と美乃里が出てきた


守 「あ、智樹さん、荒川美乃里さんの聴取終わりました」

智樹 「ああ」

智樹は守に返事をし、美乃里に頭を下げた

美乃里も智樹に向かって頭を下げる


守 「では、荒川美乃里さんはこのまま釈放いたします」

智樹に声を掛ける守だが、その問いには答えず

智樹は美乃里の前に立ち頭をポンポンと撫でる


智樹 「大きくなったな…辛かっただろ?

あの時、何もしてやれなくてごめんな

辛い時は頼れる奴にとことん甘えろ

分かったな?高橋みのり…さん…だよな?」

智樹は美乃里の顔を覗く


美乃里は驚いて目を見開く


守 「え?智樹さん…荒川美乃里さんですよ」


智樹 「おっ!そうか、ごめんごめん

間違えたよ

荒川さん、辛い時はいつでもこいつ貸してやるから頼ってな!ありがとな、2人とも」

ニッコリ笑う智樹に

守 「ちょっ、智さん何言ってるんすか…っ

すみません美乃里さん、気にしないでください」

焦る守を背に手を振って部屋に入っていく智樹


智樹は部屋に戻ると憔悴しきってる和弘の前に缶コーヒーを置く

智樹 「すみません、お待たせしてしまい

これ一緒に飲みましょう」

和弘 「すみません、ありがとうございます」

智樹 「そんな疲れた顔、亡くなった奥さんに見せれますか?息子さんにも見せれますか?」

和弘 「え?」


智樹 「会いたいんでしょ、息子さんに

待ってるぞと伝えたいんでしょ?

そんな自信もなくて、疲れてる顔じゃ息子さん、頼れないですよ」

智樹は優しく微笑む

和弘 「すみません、分からなくて…どうしていいか分からなくて…息子を救いたいのに

何の力も、いい所も何も無くて…本当に情けない…」


智樹は気付いた…

(あぁ、どん底に落ちてしまった時に必要なのは

そばに居てくれる誰かで、頼れる誰かなんだ

1人で這い上がろうとしても

自分を許して這い上がる奴と

自分を責め続けて這い上がる奴がいる

自分を許してやれないやつはずっとどん底だ

中根雅紀だって、そうだ

きっと父親が母親を殺した日から自分を責め続けてる

どん底から這い上がって来れてないんだ…

こいつにも頼れる誰かが必要だよな…)


と美乃里の顔を見て、智樹は思った

それと同時に

美乃里もそうなのではないかと思ってしまった


智樹 「昨日、部下から聞きました

前を向くには自分が自分自身を許してあげることだと」


和弘 「はい、その通りです

今でもその気持ちは変わりません」


智樹 「雅紀さんの罪を貴方は許しますか?」

和弘 「申し訳ありません…

私は、私は…私だけは息子を許してやりたいです」

頭を下げる和弘はまた涙を流していた


智樹 「分かりました」

智樹は席を立ち電話を掛けた


智樹 「いいぞ」

一言だけ話すと電話切った


智樹 「今から雅紀さんが来ます

和弘さん、貴方の思いはきっと届きますよ」

智樹は和弘の肩を叩くと部屋から出て行った


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