13.⑤

洋平からメールが届く

もう着く、どこだ?


雅紀は直ぐに返信をしようとしたが視界の横を走って通っていく父親の姿が見えた

雅紀 「親父!」

雅紀は叫んだが父親は振り向きもせず、よろよろとおぼつかない足で走っていた

父親を追いかけようとした時、後ろから洋平の声がした

洋平 「雅紀!雅紀!」

洋平は息が上がるくらい走っていた

雅紀 「親父が走って行ったから追いかけ」

洋平 「追うな!」

雅紀の声は途中で遮られ、洋平は大声で雅紀を止める


雅紀は家の前にいる洋平の元へ行き声を掛ける

雅紀 「親父…体調が…」

洋平 「心配なのは分かる、先に母親の確認だ」

雅紀 「確認って…家にいるのは間違いないと思うけどな」

洋平 「その確認じゃねぇ、無事かどうかだ」


雅紀 「無事かどうかって…そんな怖いこと言うなよ」

張り詰めた表情の洋平とは違い

雅紀は大丈夫だよ、うちに限って…と少し軽い気持ちが見えていた

家の前に着いた2人、先に手を掛けたのは洋平だった


洋平 「先に俺に確認させてくれ」

雅紀 「何をお前そんな大袈裟な…」

洋平 「俺は薬物で狂った奴を何人も見た事がある」

雅紀 「俺ん家は」

洋平 「頼む」

雅紀 「分かったよ」


(そうだ、洋平は素行が悪い友達が多い

未成年で煙草、飲酒、犯罪…そんな事をする人達が周りにいる環境で遊んでいる…

だとしても、そこまで警戒しなくても…)


洋平は玄関を開け、中に入っていた

洋平 「雅紀」

中から洋平の低い声が聞こえた

ドアの前で洋平を待っていた雅紀はドアノブを握る

その手は微かに震えていた


雅紀 「洋平…母さんいるよな?出掛けてたか?」

洋平 「雅紀、お前は男だ。そして俺がいる


覚悟…決めろ」


洋平の目は真っ赤になり、今にも瞬きをしたら溢れそうなほど涙が溜まっている

洋平は雅紀の手を引きリビングに入る


雅紀 「クッ…ぅぅっ…ハアッハァッ…」

声にならない声が溢れる雅紀は膝から崩れ落ちる


雅紀 「かっ…か母さん、か母さん…きゅ、救急、きゅ…」

洋平 「雅紀、救急車はもう間に合わない」

雅紀 「洋平、洋平お願いだ助けてくれ、母さんを


母さん…を…洋平…頼むよ」

雅紀は洋平の足にしがみつき、激しく揺する


洋平 「雅紀、雅紀!しっかりしろ!」

洋平は震える声で叫ぶ


雅紀 「母さん、痛かったろ…ごめんな、俺がごめん

俺が残ってれば…俺が…俺だったら…

男のくせに…俺が俺が…

ああああああああぁぁぁああ…」


声にならない声で泣き叫ぶ雅紀


洋平 「雅紀!俺を見ろ!」

雅紀は虚ろな真っ赤な目で洋平を見つめる


洋平 「雅紀、よく聞け、お前が決めろ」

雅紀 「ん…」


洋平 「今からあのクソ親父を探して俺らで殺すか、

今からここに警察を呼んで事情聴取を受けるかだ

その二択しかない

あのクソ親父を殺せば俺らは逮捕だ

でもあの顔を一生見ることはない

今から警察を呼んで、あいつが逮捕されてもあいつは薬物依存で頭がおかしいやつだ

いつかは刑務所から出てきて何事も無かったように暮らすはずだ」


雅紀 「ぅっううう…あぁぁぁああ…」

洋平 「アイツが逃げちまう前に決めるんだよ!雅紀!」

泣き喚く雅紀を前に震える声で叫ぶ洋平


洋平の声で我に返った雅紀は嗚咽を含みながら答える

雅紀 「警察…呼ぶ…」


洋平 「分かった…俺が呼んでくるから

母親には触るなよ」


洋平は玄関に向かって歩いて行った


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