ニューヨークで人生に行き詰まっていた時――
ある衝撃的な体験をしました。
日中、スーパーでカートを押しながら歩いていた時、
突然、両側の陳列棚がザーーッと前に移動して、
自分が逆にザーーッと下がるような感覚に、一瞬で襲われたのです。

ものすごい速さでそれが起こりました。
そして咄嗟に、「私、いま夢を見ている」と思ったのです。
何が起きたのか分からない――でもはっきりわかっていたのは、
「いま、私は夢を見ている」という感覚だけ。
そしてだんだんと、周りの人たちもみんな
「夢を見ている」ことに気づいていくような感覚が広がっていきました。
みんな、同じ現実を観ているわけではなく、
それぞれが“自分が選んだゴーグル”をつけて、
自分だけの世界を観て生きている――。
衝撃的なその感覚の中で、私は、
もう二度とその“ゴーグル”をかけたくないと思いました。
――これが生きるということだったの?
――みんなこうして生きているの?
――生きるってゴーグルをかけることなの?
猛烈な孤独感に襲われました。
誰一人、同じものを共有していなかった。
もし生きるということが“ゴーグルをかけること”だとしたら、
私はもう生きることを諦めてしまうかもしれない。
自分のゴーグルの“賞味期限”は終わったように感じたし、
そしてもう二度とかけたくなかった。
誰かのドラマに巻き込まれるのも懲り懲りだった。
たくさんの人がいるのに、
お互いを見ているわけではなく、
“それぞれのゴーグルの世界”を生きていたのです。
(のちに“VR”というものが世の中に出たとき、
私が見ていたあのゴーグルだ!と思いました。)
そして私は、あてどころのない旅へ出ました。

ゴーグルをかけて楽しそうに生きている人たちを見かけると、
「あ~、楽しそうだな、いいな」と思うこともありました。
でも、もう一回ゴーグルをかけ直すことだけは、絶対にしたくなかった。
暗闇の中を、歩き続けました。
——このまま歩き続けるべき?
——大人しく新しいゴーグルをかけた方がいいんじゃない?
そんな葛藤がありつつ、
どこからともなく湧きあがる「ゴーグルの中だけの人生なんてもったいない」
という感覚を頼りに歩き続けました。
すると、うっすらと光が見えてきた。

よく見ると、その光はひとつじゃない。
こんなにたくさん…!
「見えていなかっただけで、実は、たくさんあったんだ!」
その時、初めて「人の意識とは何か」を掴みかけたのです。
心で求め、フォーカスしたものが
物質として結晶化して、現実に現れる。
私の場合は、同じ想いをもつ人たちとの出会いでした。
本当に求めれば現実になる。
——そう確信した出来事でした。
それから、12年の月日が流れました。

最近、理由もなく幸せで満ち足りた瞬間を感じることが増えてきました。
特にこれといった出来事があるわけでもないのに、
ふと「今、すごく満たされている」と感じる瞬間がやってくる。
そして、それが以前よりも長く続く。
かつては「不足」を埋めるために走り続けていた私が、
ようやくその生き方を卒業しつつあります。
これまでは「なぜ?」と理由を探していたり、
何かあるとすぐに分析するのが好きだったのに、
もうそれすら必要なくなってきました。
ただ、「今」を生きている。
——これが今、私の内側で起きている変化です。
過去から創る人生を終わらせる
私たちの人生は、無意識のうちに 「過去の記憶」によって形づくられています。
幼少期の経験、人との関わり、傷ついた記憶――
それらが知らず知らずのうちに、
「私はこういう人間だ」
「どうせこうなるに決まっている」
という思い込みや行動パターンを作り出してしまうのです。
それが積み重なることで、
「また同じことが起きた」
「やっぱり私はこうなんだ」と感じて、パターンを強化してしまう。
心理学者のカール・ユングはこう言っています。
「無意識を意識化しない限り、
それはあなたの人生を支配し、
あなたはそれを運命と呼ぶだろう。」
つまり、「過去の記憶」という無意識がリピート再生されて、
そのことに気づかずに生きてしまっていた、ということです。
「未来の記憶」から創る
では、どうすればその繰り返しから抜け出せるのか?
それが 「未来の記憶」から創るということです。
「過去 → 今 → 未来」という時間軸ではなく、
「未来(こう在りたい世界) → 今 → 現実(過去)」 という順番で生きる。
これはスピリチュアルで言う「引き寄せ」と似ていますが、
私は心理学・脳科学的にも説明がつくものだと考えています。
たとえば、脳には RAS(網様体賦活系) というフィルターがあり、
「自分が重要だと思っていること」に関する情報を優先的にキャッチするように働きます。
「黄色い車を探して」と言われると、
今まで気づかなかった黄色い車が目に入ってくる——
そんな経験、ありませんか?
これは、脳が「自分が意識している情報」にフォーカスして
活性化する性質をもっているからです。
つまり、 “未来(の感覚)”を先に選ぶことで、
それに沿った情報や出会いを自然と選び取るようになるわけです。
それが、内側が変われば世界が変わるということ。
私自身も、心理カウンセリングやネガティブな感情を癒すワークを通して、
過去の記憶に縛られていた心の部分を少しずつ整えてきました。
その積み重ねの先に、
「理由もなく満たされる感覚」が増えてきたのだと思います。
目に見える現実が変わったわけじゃない。
“世界をどう感じるか”が変わった。
これが 内なる豊かさ のはじまり。
自分の内側から世界を創っていく生き方が、
今、私の中で根を下ろし始めています。
これからの私、これからの世界
過去の記憶をリピート再生している方が、
慣れ親しんだことを繰り返すだけなので
一見ラクで安全に感じることもあります。
しかし、それでは
「なんとなく」のまま人生が終わってしまう。
私はやっと掴めたこの感覚を大切にして、
もっと育てていきたい。
そして同じように、
「理由もなく満たされる感覚」を取り戻したい人たちと、
分かち合っていきたいと思っています。
外側の条件が揃っていなくても、
「私は今ここにいて、十分に満たされている」と感じられる世界。
そんな世界が広がったら、
もっと優しくて、安心できる社会になる――
私はそう信じています。
最後に
「過去の延長線上」ではなく、
「未来を思い出す」生き方へ。
この生き方は、
誰でも今日から少しずつ始められます。
必要なのは、“思い出すこと”だけ。
あなたがあなた自身の内側にすでに持っている“未来”を
思い出していく旅を、心から応援しています。

次回へつづく →
