秦早穂子さんの「影の部分」を読む。
かつて、「映画の友」「スクリーン」をむさぼるように読んでいた幼少時代~青春時代ーー
あの雑誌に登場する映画評論家の方々はまさに「先生」といった立派なお人ばかりで、
映画に詳しいだけでなく、知性も教養もすぐれた、実に“大人”な方々だった。
(以下敬称略で)
淀川長治、荻昌弘、双葉十三郎、植草甚一、津村秀夫、南部圭之助、
古波蔵保好、登川直樹、飯島正、清水千代太、品田雄吉、佐藤忠男、山田宏一、
山本恭子、南俊子、林冬子、小森和子、秦早穂子。。。。。。
なんか、もう、キラ星のごとき、私の中では憧れの方々ばっかり!
(ここに書ききれない方々、今ちょっとど忘れしちゃった方々もいますが。。。(・・;))
後年、えてして自分だけの世界で自己陶酔しているような映画評論家、
あるいは映画ライターが出没するようになって、嘆かわしいけど、
あの60年代、70年代を中心とした、映画雑誌全盛の頃って、
この先生がこう語っているのだから、と、こっちも素直に賛同できちゃうような、
映画をしっかり捉えた、奥の深い評論が多かったのよ。。。
多くの先生方が戦前に育ち、高等教育をきちんと受けていたことも、映画の見方に大いに影響してたんだろうと思う。
そんな中、秦早穂子さんは、妥協しない審美眼をお持ちの方で、彼女の映画批評、
それと、とりわけ、カンヌ映画祭レポートとか、俳優インタビューなどが、
私はとても好きで、いつも必ず読んでいた記憶がある。
その秦さんが小説を出した、と読売新聞で初めて知って、即、アマゾンに注文。
それが、この「影の部分」よ。

秦さんの著作は、映画雑誌以外でも、岸恵子さんとの往復書簡集「パリ・東京井戸端会議」も読んでいる。
でも、ここ十年以上、秦さんが書いたものを意識して読む、ということがなくなっていたので、
新聞で小説を出したことを知ったときは、かなりビックリだった。
だって、もうかなりのお年じゃないか、というのが、まずすぐ頭に浮かんだわけで。。。
でも、実際に届いた本は、もう、ほんとに面白くて、一気に読んでしまいました!
いやあ、今までご自分のことはあまり書かないけど、それでも見え隠れしてた部分から察するに、いい家のお生まれなんじゃないかしら?って思っていた。
それが、やっぱり、そうだったのね。
かなりな深窓のご令嬢。
父が懇意にしていた佐藤春夫の家に出入りしていた頃の想い出ーーそこには檀一雄や吉行淳之介、安岡章太郎などなど、文壇の錚々たる人々もやってきていたーーは、特に印象深い。
谷崎潤一郎夫人が佐藤春夫の妻となった、スキャンダルな文壇事件が、ヒロイン舟子の目を通して語られる。
いつも大人たちを冷静に観察し、貿易商の2代目ながら戦後ほとんど働けなかった父や、お嬢様ながらそんな父に代わって仕事をし、父より早くに逝った母の想い出。
舟子をとりまく、人生のさまざまな断片が、彼女がパリで仕事をするようになってからの日々と交互に書かれて、ほんとに興味深い。
いつも大人に反抗し、大人になっても、内に怒りを秘めて生きているヒロイン、舟子。
なんか、良家のご令嬢で、そこに取り巻いている空気感というかね、世界観は、
犬養道子さんの「花々と星々と」を彷彿させるの。
というか、あの犬養さんの本に出てくる“道ちゃんの世界”が
より明るく、透明感にあふれているとしたら、
秦さんが綴る“舟子の世界”は、
より暗くて、それこそ人間の「影の部分」に斬り込んでいる、
そんな感じです。
まさに「花々と星々と」の裏版?って。。。。
たとえは悪いかもしれないけど、私はどちらの世界もとても好きだし、
人間の真実を描いていることでは全く変わらない。
そして、それが読み手の魂に触れてくる、っていうことでも共通してます。。。
ただ、この本がちょっと違うのは、
彼女がパリで仕事をしていた頃の話をそのまま盛り込んでいて、
それが、映画ファンには見逃せない部分になっているのね。
秦さんは、実際にゴダールの「勝手にしやがれ」や、まだ日本で無名だったアラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」を買い付けた張本人!
何と、このタイトルを編み出したのも、秦さんなのよ!すごいセンス!
まさに、戦後のフランス映画、特にヌーベルバーグ期からの日本での業績は、
彼女の存在抜きには語れない、そんなすごいお人なのよ!
そんな彼女が生きたヨーロッパ映画の時代史が、そのまま書かれていて、もう、興味がつきない。
ゴダールの人となりや、妻だったアンナ・カリーナのこと、
彼らが住んでいた一軒家に訪ねていったときのこととかね。
ドロンとの会見記を、三島由紀夫が褒めていたことも、ちょっとだけ紹介されてます。
もう、ね、面白いったらないの!
彼女は今年81歳になられるが、2003年まで毎年、カンヌ映画祭に通っていたとか。
確かな映画を視る目で、日本に素晴らしい名作を輸入し続けた方ーー
そういえば、若い頃のジャック・ペランを秦さんがインタビューした記事、私、まだ覚えてる!
映画の友に掲載されてたの、何と、当時、コピー機などなかったから、
私、大学ノートに手書きで書き取って、ペランの写真を切り抜き、
自分なりにレイアウトして、とってましたよ!
多分、押入の奥とかに締まってある筈だけど。。。。
ペランが身につけていたシャツの襟が少し皺がよっているのに気づいて、彼が自分でアイロンをかけたのであろう、と推測している文章、妙に印象に残ってる。
ペランの真摯なたたずまいや、映画に懸ける真面目な情熱を、実に鮮やかに切りとった、深い洞察にもとづくルポルタージュだった。
(ペランに会ったことも、この本に少し紹介されてる、まさに私が読んだあの記事のときのこと)
そんなわけで、夢中で読んだ「影の部分」。
本の最後に(第一部 了)となっているので、まだ続きがあるんじゃないかな。
次が待ちきれない!
でも、あまりに早足で読んでしまったので、もう1度、ゆっくりと味わいたいと思います。
あの雑誌に登場する映画評論家の方々はまさに「先生」といった立派なお人ばかりで、
映画に詳しいだけでなく、知性も教養もすぐれた、実に“大人”な方々だった。
(以下敬称略で)
淀川長治、荻昌弘、双葉十三郎、植草甚一、津村秀夫、南部圭之助、
古波蔵保好、登川直樹、飯島正、清水千代太、品田雄吉、佐藤忠男、山田宏一、
山本恭子、南俊子、林冬子、小森和子、秦早穂子。。。。。。
なんか、もう、キラ星のごとき、私の中では憧れの方々ばっかり!
(ここに書ききれない方々、今ちょっとど忘れしちゃった方々もいますが。。。(・・;))
後年、えてして自分だけの世界で自己陶酔しているような映画評論家、
あるいは映画ライターが出没するようになって、嘆かわしいけど、
あの60年代、70年代を中心とした、映画雑誌全盛の頃って、
この先生がこう語っているのだから、と、こっちも素直に賛同できちゃうような、
映画をしっかり捉えた、奥の深い評論が多かったのよ。。。
多くの先生方が戦前に育ち、高等教育をきちんと受けていたことも、映画の見方に大いに影響してたんだろうと思う。
そんな中、秦早穂子さんは、妥協しない審美眼をお持ちの方で、彼女の映画批評、
それと、とりわけ、カンヌ映画祭レポートとか、俳優インタビューなどが、
私はとても好きで、いつも必ず読んでいた記憶がある。
その秦さんが小説を出した、と読売新聞で初めて知って、即、アマゾンに注文。
それが、この「影の部分」よ。

秦さんの著作は、映画雑誌以外でも、岸恵子さんとの往復書簡集「パリ・東京井戸端会議」も読んでいる。
でも、ここ十年以上、秦さんが書いたものを意識して読む、ということがなくなっていたので、
新聞で小説を出したことを知ったときは、かなりビックリだった。
だって、もうかなりのお年じゃないか、というのが、まずすぐ頭に浮かんだわけで。。。
でも、実際に届いた本は、もう、ほんとに面白くて、一気に読んでしまいました!
いやあ、今までご自分のことはあまり書かないけど、それでも見え隠れしてた部分から察するに、いい家のお生まれなんじゃないかしら?って思っていた。
それが、やっぱり、そうだったのね。
かなりな深窓のご令嬢。
父が懇意にしていた佐藤春夫の家に出入りしていた頃の想い出ーーそこには檀一雄や吉行淳之介、安岡章太郎などなど、文壇の錚々たる人々もやってきていたーーは、特に印象深い。
谷崎潤一郎夫人が佐藤春夫の妻となった、スキャンダルな文壇事件が、ヒロイン舟子の目を通して語られる。
いつも大人たちを冷静に観察し、貿易商の2代目ながら戦後ほとんど働けなかった父や、お嬢様ながらそんな父に代わって仕事をし、父より早くに逝った母の想い出。
舟子をとりまく、人生のさまざまな断片が、彼女がパリで仕事をするようになってからの日々と交互に書かれて、ほんとに興味深い。
いつも大人に反抗し、大人になっても、内に怒りを秘めて生きているヒロイン、舟子。
なんか、良家のご令嬢で、そこに取り巻いている空気感というかね、世界観は、
犬養道子さんの「花々と星々と」を彷彿させるの。
というか、あの犬養さんの本に出てくる“道ちゃんの世界”が
より明るく、透明感にあふれているとしたら、
秦さんが綴る“舟子の世界”は、
より暗くて、それこそ人間の「影の部分」に斬り込んでいる、
そんな感じです。
まさに「花々と星々と」の裏版?って。。。。
たとえは悪いかもしれないけど、私はどちらの世界もとても好きだし、
人間の真実を描いていることでは全く変わらない。
そして、それが読み手の魂に触れてくる、っていうことでも共通してます。。。
ただ、この本がちょっと違うのは、
彼女がパリで仕事をしていた頃の話をそのまま盛り込んでいて、
それが、映画ファンには見逃せない部分になっているのね。
秦さんは、実際にゴダールの「勝手にしやがれ」や、まだ日本で無名だったアラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」を買い付けた張本人!
何と、このタイトルを編み出したのも、秦さんなのよ!すごいセンス!
まさに、戦後のフランス映画、特にヌーベルバーグ期からの日本での業績は、
彼女の存在抜きには語れない、そんなすごいお人なのよ!
そんな彼女が生きたヨーロッパ映画の時代史が、そのまま書かれていて、もう、興味がつきない。
ゴダールの人となりや、妻だったアンナ・カリーナのこと、
彼らが住んでいた一軒家に訪ねていったときのこととかね。
ドロンとの会見記を、三島由紀夫が褒めていたことも、ちょっとだけ紹介されてます。
もう、ね、面白いったらないの!
彼女は今年81歳になられるが、2003年まで毎年、カンヌ映画祭に通っていたとか。
確かな映画を視る目で、日本に素晴らしい名作を輸入し続けた方ーー
そういえば、若い頃のジャック・ペランを秦さんがインタビューした記事、私、まだ覚えてる!
映画の友に掲載されてたの、何と、当時、コピー機などなかったから、
私、大学ノートに手書きで書き取って、ペランの写真を切り抜き、
自分なりにレイアウトして、とってましたよ!
多分、押入の奥とかに締まってある筈だけど。。。。
ペランが身につけていたシャツの襟が少し皺がよっているのに気づいて、彼が自分でアイロンをかけたのであろう、と推測している文章、妙に印象に残ってる。
ペランの真摯なたたずまいや、映画に懸ける真面目な情熱を、実に鮮やかに切りとった、深い洞察にもとづくルポルタージュだった。
(ペランに会ったことも、この本に少し紹介されてる、まさに私が読んだあの記事のときのこと)
そんなわけで、夢中で読んだ「影の部分」。
本の最後に(第一部 了)となっているので、まだ続きがあるんじゃないかな。
次が待ちきれない!
でも、あまりに早足で読んでしまったので、もう1度、ゆっくりと味わいたいと思います。