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働きアリのブログ

働いても働いても遊べません

やれやれやれだ。


やっぱり、いい加減、迷惑被ってるんだから、「ごめん」や「ありがとう」の一言が欲しい・・・・。


そんなかんなを口々に言いながら、その日は退社しました。


次の日から、会社の同じシマに居て・居ないブ太郎はなにやらおとなしくなりました。
客との打ち合わせは全部私がやってしまいます。
プロジェクトのメンバーはそれぞれが、それぞれの仕事をしており、ブ太郎に物をたずねる事はありません。
挨拶程度の言葉は交わしますが、基本、会話はしていません。

なんだか、一見すると『社内いじめ』みたいで、気が引けたのですが、とにかくブ太郎自身が、熱心にPCに向かってコーディングをしているので、他のメンバーはなんとなく、声をかけそびれていました。


それとなく、編集画面を見ると、我々の仕事の内容とそれほど遠くはないもののようでした。

ブ太郎に外されましたよって誰か言った?」

メンバーに聞きましたが、誰も言っていないそうです。

だとすると、社内の他の人か、お偉いさんが引導を渡したのかもしれません。

とにかく見直しもしなければいけないので、孤立するブ太郎に注意がいっていませんでした。


そのまま、静かな日は客先テストの日まで続きました。


ブ太郎は実はこのプロジェクト開始からほとんど仕事をしていませんでした。
ネットサーフィンをしているか、客先へ行っては寄り道をして遊んでいたかです。

5人で3ヶ月の繋ぎ仕事とは言え、体裁を整えるのもしていませんでした。
ブ太郎の成果物といえば唯一、コーディング規約だけは厳格にできていました。

CORBAは仕組みだけ客との間で決めてしまえば、そんなに大層なことではなかったし、仕事自体はPOS端なんで、たいした負担でもありませんでした。


普通にやれば、確かに1人位、新人や使えない奴が居てもなんとかなる仕事です。


ブ太郎にプロジェクトリーダをやらせてみたかった。

ただ、それだけのために取った仕事と言ってもらえれば、納得します。


一度だけ、ブ太郎を外してから、COMの置き場所とソースの置き場所に変更はないか、聞かれましたが、特にブ太郎に教えないという理由もないので、仕事の成果物の置き場所はきちんと示しました。


まー、外れたとは言え、気になるんだろう・・・位な気持ちで。




客先でのテストは5末になりました。
書類も整っていたので、ほぼ納品完了です。


本番稼働後は、1人片足を張り付いてもらって、プロジェクトは解散でした。

もうメンバーはブ太郎を除いて全員が次の予定が決まっていました。



客先へは、せっかくなので、メンバー全員でお邪魔しました。
営業部長と営業担当が来たので、6人と、ちょっと大げさな訪問団になりました。


「じゃぁ、早速」
火入れです。絶対大丈夫と分かっていても、やっぱり緊張します。


画面立ち上げ・・・・・・・。


立ち上がりません。


「え?」


まさかのバグ??


「え?」


持参したCDのCOMの日時を確認します。
「何?」


COMを作った日と違う。


念のため、社内の開発環境へリモートでつなぐ。


「え?」


ソースの更新日付が新しいので、リビルドがかかっていく・・・・。


いや、コンパイルが・・・・・。


開発環境画面には、次々に

syntax error
syntax error
syntax error
syntax error

・・・・・・・・・・・・・。


なんじゃ?こりゃ??


「エラーが1000行を超えました・・・・」

何が起きているか?


試しにソースファイルの1つを開くと。。


やっぱり!


私達がゴリゴリ書いていたソースファイルの中身には、見事に書き換えられていました。

ブ太郎に違いありません。

アスキーアートがエディターに広がります。

『ばぁかぁ!にしやがって』と書かれています。


ばかにしやがったのはどっちだ。


さすがに、客先でこんな画面見せられません。

どうやって、今日、納品だったCDをすり替えたんだろう。
MちゃんがCDにラベルまで印刷してくれたのに。

ソースが代わっていたり、COMを置き換えられたのは、まぁ、こっちの注意不足だったかもしれないんですが。


いくつもファイルを開いてもらいましたが、どれも私達の実名とくだらない言葉を吐く、ギコ猫が並びます。
(時代を感じるね。もうギコ猫なんて言わないのかも)


リモートアクセス用のノートPCを持ってた男子の手が震えています。

怒るのも無理ない。


私達が言葉を失っていたので、営業がお客さんと別室に消えていきました。


「あー。これはブ太郎氏作??」営業部長がへぇと感心したようにノートPCをのぞき込みます。


「たぶん」私はずいぶん低い声で答えたかもしれません。


「アリさん、私が帰るまでに、なんとかなる?」


「たぶん」画面を見据えたまま、ぶっきらぼうに答えました。


なんとかしなきゃ。



リモートで探しても、社内の開発環境にはソースは残っていません。
こちらに持ってきたものも全て書き換えられています。


会社に電話して、よそのプロジェクトの人に私達の机の周りを探してもらいました。


鍵がかかっていたはずのMちゃんの机の中のCDさえ書き換えられています。


ブ太郎はそこに居るの?」
「居ないみたい」

居たら、殴りにいってやる。


納品用のFTPはどう?


見たけれど、やっぱりブ太郎作のお絵かきソースのみでした。


んんんーーーーーーー。



社内のシス管は何やってる?


「サーバのバックアップはいつとったの?シス管につないで」


まだやっと会社支給の携帯電話が普及しはじめた時代のことです。


私は客先でブツブツ切れる電話を握りしめて、どこかにあるはずの『私達の成果物』を探していました。



「あったって!」



社内からの電話で、朗報が届きました。


30分経っています。


たかが30分ですが、みんな緊張していました。



本物はご丁寧に、ブ太郎のPCから出てきました。
どうして削除しておかなかったんでしょう?


私達が泣きついたら、身代金かなにかと交換するつもりだったのでしょうか?


ブ太郎のPCのパスワードは「Mちゃん」でした。Mちゃん、かわいそうに。


COM部分もソースもそのままあったので、納品CD類はその後ということで、客先テスト再開。
手違い分は謝って、OKをもらって、無事、営業陣営とともに会社へ戻ることとなりました。


信じられない。

確かにね。

私達には、外で恥をかくのが一番効くってのをよく知ってる。


ブ太郎の作戦にまんまとかかって、冷や汗、プール一杯分かかされました。


。。。続く。。


あー今日は、もうこれで帰るぞっ時に・・・・。



「アリ!!元気?」


専務がお得意の肩タッチをしようとにじりよってきます。
「元気っすよ。当たり前じゃないですか」


その手をかわしながらも、あ、こいつも日焼けしてるなーって思いました。

「なんか、用ですか?」
「話がある」


あーーーーーーー。絶対、ヤバイ話しだ。

「ちょっとつきあえ」あーーーー。もう。


専務が指で上を指し、上の役員フロアをしめす。

私は、抱えだしたバッグを机に放り投げ、仕方ないので上着をはおりました。
私一人が、動いて、専務と一緒に行こうとしたのですが、専務は、振り向きました。


「ぜ・ん・い・ん だ」


仕方ないので、全員で役員フロアに上がると、会議室の扉が開いてました。
ここで『密談』??せよってことね。

会議室では、営業部長と総務部長が座っています。

私達が座り終えると、専務が話しを切り出しました。


「今回のブ太郎の事だけどさ」

「はいはい。もう、うちらでリカバリしましたけど?」


お小言だろうか。文句あるのか?


「志気下がったでしょ」総務部長が私に聞きます。


「仕事ですから」私に聞いてどーするさ。私はメンバーを庇うつもりでおりこうさんの答えを用意しました。


社員100人程度の小さいソフトハウスだから、実は総務部長=人事の責任者でもある。


「残業してがんばった?」総務部長が今度は、Mちゃんに聞きます。


Mちゃんは明るく、
「いーえ。全然」にっこり微笑んだ。


ブ太郎さんの分の仕事量ってあんまり無かったんですよ」ベテランさんが援護射撃してくれました。
「そうそう」全員の感想は一致しています。

「ってことはさ、ブ太郎は、仕事抱えていなかったってこと?それともほとんど完成していたってこと?」
専務がみんなの顔を見て確認します。


「仕事なんて大してありませんでしたよ。元々。打ち合わせが忙しかったんじゃないですか?」


私がそう答えると、ずっと黙っていた営業部長が、「アリさんだよね?」と確認した後に、私に尋ねます。


「アリが出た打ち合わせって4月末からですよね?」
「そうです」


「実はね。お客さんから、打ち合わせの進行がずっと止まっていたと言われていたんですよ」
「え?ちゃんと打ち合わせやりましたよ?電話も含めると3回位だけど」


「いや、あなたが打ち合わせしてからはきっと大丈夫だったんでしょうけれど、その前。担当者の理解不足だと言われて、ずっと止まっていたんですよ」
「え?だって」


・・・それって。ブ太郎が出ていた打ち合わせ会議のこと?と私は心の中で続けてみました。

みんながそれぞれ顔を見合わせま

す。ブ太郎が持ってきた仕様は確かになんか変でした。今作っている仕様と何かがズレていました。
私達はブ太郎リーダに何度か『本当に?』と詰寄って確認したことがあります。


そんなとき、ブ太郎リーダは決まって『客がそう言うんだから』と答えていました。




っをい。ぉぃ。もしもし??



まさかの仕様違いですか????

え??


専務が頭をポリポリしながら、すまなそうに言いました。


「なんかさ、念のためでいいから、もう一度、サラッと見直ししてくれないか?」

「え?やり直し??」


「いやいや、多分、4月末まではほとんど進んでいないから、たいした負担じゃないはずだ。お客さんも必要な事はアリさんと話がついていると言っているし」


営業部長が顔色を失ったみんなにフォローするように言い訳をしました。


「まじっすか」若い子が露骨に嫌な顔をします。


ブ太郎も戻ったし、もう仕舞行程に入ったから、そろそろ残り4人も休みたいころです。
「全員でですか?」この仕事の後に認証局の仕事が入っている人がそう付け加えます。


「全員で頼むよ。5末で終えるように。ダメなら援護も入れる」
専務に泣きが入ります。



「なら」


私が少し大きな声を出しました。

「やりますから。その代わり、条件として1つだけ出します」


「ありがたいなー。アリ、条件はなんだ?」


ブ太郎を外してください。いいでしょう?みんな?」


みんなは黙ってうなづきます。


「私からも、それはお願いします。客との残りの詰めはアリさんにお願いします」
営業部長が専務にお願いをしています。


総務部長はうーーーーんと腕組みをして、うなったままです。


「わかった。それは呑もう。ただ、やりにくいかもしれないけれど、ブ太郎の机は今のままにしておいてくれ。一応だけれど、彼も工程の人月に数えられているから」
専務はそう言っても、なおも総務部長は難しい顔をして、うーーーーーーーーーーんと言うままです。


「じゃぁ、頼むわ」
その言葉を背に私達は会議室を出ました。

ブ太郎外し、決定です。


。。。つづく。


「後、よろしく」

って言って目の前から消えたブ太郎

結局、何にもやっていません。
まー、今更、何かやろうったって、私達はもう、ブ太郎の分のコーディングに
手を付けてしまっていました。


案外、少ない。


奴は、メンバーになんだかんだ押しつけていて、自分はほとんど、打ち合わせにしか行っていないようでした。

後は、、、、コーディング規約作りだけだったようで、作業のロスはほとんどありません。


幸いしたんだかなんだか。ちょっとGW中は気が抜けました。

ブ太郎分のコーディングを仕上げてしまうと、すぐにテストを行いました。
なんたって、私達のチームワークはばっちり。


お互いに、休みたいのを我慢して、ブ太郎の尻ぬぐいをしているわけですから、当然です。

「悪口が出る日があってもバグの出る日はない」


そんな、滅多にない好環境で、作業は進みました。


結局、客先とのまとめ役は私になり、Mちゃんが半分セクレタリアンをやってくれました。
残りの2人もベテラン。


仕事は捗り、最後には書類整理だけが残りました。


あんまりやってしまうと、本当にブ太郎が帰ってきたときに仕事が無くなってしまうので、途中、人並みにGWも楽しむ余裕も出ました。

「3連休、できるね。どこへ行くの?」
「グアム!行って、奴の頭、叩いてくるわ」なんて冗談も出てきました。

さて。
仕事はおおかた終わり、メンバーは3連休をつつがなく過ごし、ついにブ太郎ご帰還の日がやってまいりました。



朝。
9時からの職場に、10時になってからブ太郎はやってきました。


信じられないことですが、あの大きなスーツケースに、胸に『I ドキドキ GUAM』
と描かれたTシャツを着て、ビーチサンダルでやってきました。
顔も少し浅黒いです。無精ひげもあります。
考えたら29日から、10日までの間、リゾート地に居たのだから、無理もありません。


「HELLO!」
この場合の発音はドイツ語よろしく
「ハッロォー」です。


当然、うちのプロジェクトの連中は「あぁ」とか「うん」とか曖昧な返事だけを返して、顔も上げません。

そんなのお構いなしに、ブ太郎だけ派手な音をたてて、お土産物屋の袋から、小袋を出して、各人の机の上に置いていきます。


「おみやげのスニッカーズ」そう口添えて。


おみやげ・・・。そんなもの要らないよ。


ありがとうとは言ってみたものの、カラフルな包装のスニッカーズは、なんだか少しよれていました。

「ちょっと、上↑、行ってくるから」
上を指さし、ブ太郎はそのまんま、役員室のあるフロアを指し、退室してしまいました。


「スニッカーズ。だよね?」
「うん」
「そこのコンビニでも買えるよね」
「コンビニじゃ、この表示じゃないだろうけど、秋葉か上野のデパートでは間違いなく、同じものが買えるよ」
「お疲れ様でもなきゃ、すまんでもないのな」


私達はそのまま、ブ太郎悪口大会をしばらくやっていましたが、そのうち、お昼になってしまいました。


「遅いなブ太郎
「旅の自慢でもしてるか?」
「まさか」

多分、上の役員さんの誰かと『日本食』でも食べに行ってるんでしょう。
あのなりは、今朝、成田空港から仕事場に直行。オレって忙しいんでね。って感じでしたもん。


昼を済ませて帰ってくると、ブ太郎の荷物がありません。


Mちゃんによると、「帰るわ」と一言残して帰ってしまったそうです。

「なんで?」
「さぁ?」
「格好を注意されたんだろうか?」
「さぁ?」
「帰るつもりだったんだろうか?」
「さぁ?」
私の問いにいちいちMちゃんは両手を上にして肩をすくめてみせています。

「まー、関係ないけどね」


ブ太郎の机の上にはヌチャヌチャしたスニッカーズが居心地悪そうに5・6個置いてありました。

どーでもいいんで、その日もゴリゴリ仕事をしていきました。