豪傑奇譚 | 働きアリのブログ

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働いても働いても遊べません

電車内で化粧する人は今や大して珍しくないようだ。


まして、朝の「女性専用車」ともなれば、アイシャドー、口紅はもとより、ファンデーション、眉描き、剛の者ともなれば、乳液、下地クリームから始める女性もおられる。


小一時間電車に揺られるので、基礎化粧品からマスカラ、リップグロスの最終工程までの余裕は十分にある。

だからと言って、スッピンで電車に乗込み、下りるときにはフルメイクってのも騙されたようで気分が悪い。


もちろん、隣に人が居るなんてお構いなく、ひどいのになると、ヘアスプレーまで振り撒いてくださる。


お陰で鼻孔には、おばさん臭さがいっぱいに拡がる。車両全体も田舎の美容院の匂いが充満する。



まー。これ位じゃ驚かなくなった自分の神経もすごいのだが、今朝はもっとすごいのを見かけた。

今まで見た中ではダントツにすごいと思う。
こうなると、もう、「恥って何?」って感じだ。



今朝、私が乗込んだ電車で優先席にその人は座っていた。
ちょっと疲れた30代のようにも見えた。


スポーツバッグのような横長の荷物を床に置き、グレイの上下ジャージだった。


髪はぼさぼさであったが、私が見かけたときには既に髪にセットローションか何かを塗りたくっていた。


車内にはそのローションの匂いが充満しており、何だか薬品臭い匂いに、むせたりもした。
当然、中年のおばちゃんが咳をしてもお構いなしにその豪傑は作業を進めた。


フェーズ1:髪。何やら全体に均一に塗布し終えた。作業完了。軽くクリップで束ねる。


フェーズ2:土台。念入りに化粧水をコットンでパタパタ叩き込み、最後に白塗りよろしく顔一面に白いコットンを置く。
これは・・・パックじゃないか?電車の中でパックをする奴は初めて見た。
恐るおそるの想像をして見たが、ややすると、白塗りを剥がしたので、間違いがないようだ。
豪傑が元の肌色に戻ってほっとしたのは、何でだろう?
どんだけ「ゲゲゲの鬼太郎」好きでも、やはり、リアルに白塗り妖怪を見ると怖いらしい。


フェーズ3:下地。下地クリームにファンデーション。ご丁寧にパウダーもはたく。


フェーズ4:色物。A5サイズの鏡を膝の間に挟み、覗き込んでチークを塗りたくる。そんなに塗らなくっても。っとつい、止めたくなるところで止めた。


眉。眉間から、角度70度の立ち上がりで描く。太さは5mmから始って、終端は0.5mm程度。ほぼ迷わずに描くが、左に比べて右が少し下がってる。


目。これはもう。何ていうか。職人業。20色位あるパレットから少しずつ色を取ってまぶたに乗せ、指で広げる。両目に色を少しずつ乗せては、鏡で確認。


かくしてまぶたは20色のグラデーションができあがった。かのルノアールにも見せてやりたいくらいだ。


そして。アイライン。なんと。マッキー極細。うちにもありますが、主に・・というか、絶対に化粧以外の用途で使うあれです。油性マーカーです。


なんで分かったか?とおっしゃいますか?


だって、マッキー極細って書いてありますもん。

何か名前でも書くのかと思いましたよ。


じゃなきゃ、なんちゃってタトゥーでも書き出すのかなーなんて。


豪傑はマッキーでアイラインを描くですよ。慣れた手つきです。
滲みないのか?痛くないのか?落すときはどうするのか?なんて考えちゃいかんのです。


本当にもう。びっくりです。隣に座ってたお姉さんが思いっ切り引いて見て、あわてて携帯電話でメール打っていました。
もしもし。優先席で携帯電話は電源オフですよ。なんて言う暇もなく。


さて。ビューラーでカールさせて終るかと思ったんですが、それから、付けまつ毛を取出しました。付けまつ毛の根元に白い液を付けて、多分ノリでしょう。これが乾くまで、丹念にフーフーと息を吹いていました。
両目にまつ毛をのせたので、もういいかと思うと、豪傑はもう1セット取出し同じ作業をしました。付けまつ毛、二段活用です。


フェーズ5:口。もう口なんて何でもいいはずなのですが、豪傑は違います。なんと、これだけ盛りメイクをしていて、メンタムリップを取出し、キュキュっと塗ると・・・・・・・はい。御終いです。


あまりのあっけなさに次は?え?次は?と期待したのですが、それで完了しました。



ふぅーという溜め息は、私がもらしたのか、周囲がもらしたのか、豪傑自身が小休止のために吐いたのか。


すっかり別人28号の豪傑ですが、ここからが、見た事のない光景でした。


ずっと、足元にあったバッグから、やおら白いシャツを出して、頭から被りました。


何?クーラー寒かっただろうか?


すると彼女はするするとその下のジャージを脱ぎました。え?ひょっとして着換え??ですか?
隣のお姉さんは我慢できなかったのか、たまたまなのか、席を立ち、下ります。
と、空いた場所に脱いだジャージを置き、今度は腰にジャージの袖をしばり、腰をうかせて巻き付けます。


バッグから次に出たのはショートパンツ。


あり得ません。


絶対に。


女子学生の更衣風景を知ってる方はわかりますよね?


人前でどうしても・・のときは、スカートから短パンですよ。
または短パンからスカートですよ。


ジャージのズボンからショートパンツは御法度。禁断の組み合わせです。周囲の人はカボチャに見えるのでしょうか?


え?

え?


巻き付けたジャージの上着からするするとズボンを脱ぎます。ウソだろ?


すると次に、生足にアーガイル柄のスパッツをはく。何事もないように短パンをはく。腰を浮かせながら、前かがみに淡々と着換えていきます。


まったくわかりません。さっきのジャージのムサイ姉さんは、すっかりイケイケ姉さんに変身!
ここまでやるとさすがというか。豪傑も英雄になれそうです。



さて。電車が終着駅に着き、すっかり姿の変わった姉ちゃんと私はたまたま同じ方向に歩きました。


ちょっと。。電車、クーラーきつかったんで、トイレ。


え?姉ちゃんも??


じゃぁ、着換えはトイレでやれば良かったじゃん!な

どと思った私はまだ、豪傑の豪傑たる所以を知りませんでした。


トイレから出てくると手洗い場に豪傑が居ます。


鏡を見ているので、てっきり仕上がりを確認しているのかと思っていました。


すると!


水道におもむろに頭を突っ込みました。


手洗いボウルが見る見る赤色に染まっていきます。



えーーー?怪我してたの??うそ?


と。


すっかり色を流し終えて、姉さんがタオルで髪を拭きます。


もう、トイレの中じゅうにあの匂いが・・・・・・。


あ?これって。


タオルドライが終ると、掃除用のコンセントにドライヤーをつなげて髪を乾かしているではないですか。


あ?ってことは??



電車の中で髪に塗りたくっていたのは、ヘアカラーでした。


毛を染めていたのです。


えーーーーーー。これって、「ブレードランナー」のレプリカントがやったやつと同じじゃん!
なんてバカな感心やら、驚嘆やらをして、豪傑の側を離れました。


女性の恥はどこへいった?


いいもの見たかも。

いや、悪いものを見たかも。


あー。遅刻するかも。



明日はどっちだ?