帰りの始発駅から急行が出る。
通勤客は列を作って、席を狙って待っていた。
上りの客を下してからっぽになった車両に客がなだれ込む。
時々、7人がけのイスに6人しか座っていなかったり、なにかのタイミングで8人座れてしまうことがある。
今日は6人しか座っていなかったケースだった。
あと一人というには少々窮屈な空間だったので、誰も座らなかった。
空いた空間の横には、ガテン系のおじさんが足を投げ出して座っている。
無理してキュウキュウになる位なら、立っていったほうがマシ。
私も含めて手すりに掴っている人は全員そう思っていたに違いない。
やがて、発車のチャイムが鳴り、「危ないですから駆け込み乗車はお止めください」とアナウンスが流れ終ると同時におばちゃんが一人、滑り込んできた。
やった!と言わんばかりの達成感のある顔だ。
やがて、車両が動き出す前に、その7人目の空間を見つけた。
やった!!再び笑みがこぼれる。
そして、無言でその空間に大きなお尻を落した。
ドサッと音がするくらい。
「やっ!?おい?」
足を投げ出していたおじさんが声を上げておばさんを目で咎める。
「ふんっ」おばさんは、お尻をねじりこむ。
「もっとずれなさいよ!」おばさん恐るべし。一声めがこれだ。
「狭いんだよ。みんな迷惑だ」おじさんが応酬。
おばさんが左右を見て、
「ここは7人がけでしょう?座ってどこが悪いのよ」と全員に言う。
まー。正論かもしれんが、7人がけは体格の良い人が4人いたら、残りはもう2人がいいところ。
7人といいながら、本当は座れなくなるのが現状だ。
「もっと、ほら、ずれなさいよ」
「いかれねぇよ。こっちにも人が居るんだし」おばさんも十分に体格が良い部類だ。
ちょっとやそっとじゃ、その大きいお尻をいれる空間は作れまい。
あ。でも強引に座っちゃった。
「わたくしはね。疲れてるのよ。座ってどこが悪いのよ」全員に聞こえるように言う。
「ぉオレだって、疲れてるよ。仕事してきて」おじさんも負けない。
「わたくしはね、今日は横浜まで行ったの。遠いのよ。それにずっと先まで帰るの」
「あ?ずっと先までだって?どこまでだ」
「○○。30分はかかるの」
これには車両の全員が口をあんぐり開けた。
これは急行電車だ。ほぼ全員が最初の30分は降りない。私も含めて1時間だ、80分だという遠方への通勤客ばかりが乗る。
だから、皆、並んでまで座りたいのだ。
「どこだって?ババァ、電車間違えたか?そんな近くなら並ばねぇで座れるよ」おじさんが、さらに足を伸ばす。
「まぁ!ババァですって??そんな風に呼ぶなんて」
「ババァだから、ババァって呼ぶんだよ。狭いところに無理無理座りやがって!」おじさん、がんばるが、口元が笑っている。声だけ聴くと喧嘩のようだが、このおじさんは、喜んでいるようだ。
「あーたが、この足を伸ばすから、狭いんじゃないですか!」おばさんは怒気に満ちていた。
この足が!!とおじさんの足を平手で叩く。
おじさんは満面の笑みでたっぷり溜めて・・・・(みのもんたがこんな顔をするなーと思った)言い返した。
「やゃぁりやがったな!叩いたな!ババァ!」
「ババァ!ババァって呼ばないで」
「じゃぁ、なんて呼べばいいんだ。 バ・・バ・・ァ!言ってみろよ」
ダメだこりゃ、おじさん、完全に遊んでいる。
「まぁ!まぁ!!ふん!ふん!」おばさんは顔を真っ赤にして、上を向いている。
「言うけどなー、お前が先に手を出したんだぜ。俺は被害者だし。」ニヤニヤして足をパタパタさせるおじさん。
「あたくしは・・・」
「俺はどれだけかかったっていいんだぜ、。退屈しのぎにならぁ。どうしてくれるんだよぉ?足、痛いんだけどさぁ!??なぁ?」そう笑いながら周りを見回して、立ち上がった。
「ほら、もっと広く座れよ。○○なんざ、すぐじゃないか。アンタが下りた後、俺はもう1時間乗ってるわけだ」
結果的に席を譲ってもらったおばさんは、プンと横を向いたまま。
「こういう時はどう言うんだ?ありがとうございますじゃねーのか?言ってもらえないと、俺、足痛くなっちゃうかもなー。え?」
おばさんはまだむくれている。
「そんなに強く叩いたわけじゃありませんから」
「あーあー。謝らない、礼を言わない。どーゆー育ちをしてんだか。ババァ」おじさんがまた刺激する。
「ババァじゃありません!」おばさんがまた真っ赤になる。大人げないなー。
「名前は、△ぁです」はっきり聞き取れない声でおばさんが名乗った。あれ。進歩じゃないか。
「は?」
「あたくしは・・・・馬場です」
その名前をきいたとき、車両中が笑いをこらえるのに必死だったかもしれない。
確かに、その苗字だと言い出せないわなー。
いや、偶然か?ギャグか?おもろい話だぁ!ブログねたに・・・。
と思っていると真っ赤になったおばさんが、荷物を持ってがばっと立った。
○○駅についてしまった。
おばさんが電車を下りると、おじさんが、ッチと言いながら、空いた席にまた足を投げ出して座った。
私もこれから30分乗り続ける。