ジャングル大帝レオ。
オオカミ少年ケン。
ケニア。セレンゲティ。子どものころからの夢。ああ。なんて素敵な響き。
「ケニア・・・・・・・」
満員の地下鉄の中でその言葉は聞こえてきた。
シルバーシートに1.5人分づつの幅をとった、老女が二人。手にはたくさんの買い物袋を提げている。
「今更、ケニアじゃぁないわ。どこかもっと好いところを勧めてよ」不満顔の白い顔の真っ赤なくちびる婆さんが隣の婆さんをつつく。
つつかれたほうは、ふてくされて答える。
「そうは言うけれど、あなた行ったことないって言っていたじゃない。初めての国がいいって言うから」
「あーたに言っていなかった?うちの子はみんなケニアなのよ」
久し振りに定時に仕事があがったものの、連日の疲労で、吊革にぶら下がるのがやっとの私が意識を取り戻した。
うちの子はみんなケニア?
何だと言うんだ。ケニア育ちだとか、ケニアの子を養子にしてるとか?ケニア人と結婚したとか???
何事だ?
「あら、この前はパリだって言ったじゃない?」
え?パリだ?パリって花の都じゃないか。
「あれは娘。うちの息子はケニアにしてるの。だからお土産も写真ももう見飽きたわ」
息子って、もう40は過ぎた息子だろう??
「あら、ふん。そう」旅行のパンフレットを仕舞ながら、つつかれた婆さんは最初に見たときより、膨脹して荷物をぶんまきながら座り直した。
アンタ達がちょっと詰めたらもう一人座れるだろう。
「うちの子の卒業旅行はケニアって決めてるの。長男も次男も。言っていなかった?でももう、ケニアの話は聞き飽きたわ。あーあ、もっといいところないかしら。」
なんじゃ、自分が行ったわけではないんかい。
なんだよ。そんなんで、あこがれのケニアをクサすなよ。
「あ。」つつかれた婆さんがガバっと起き直した。
「あーたにいいところを教えてあげるわ。いいところ。」
「あら、?どーせオーロラとか言うんでしょ?つまんないわよ」
「ほら・・・・。あ・・・・・・・・。うん、やっぱり言うの止めるわ。あーた、何言っても貶すから。」
「言わないの?ケチね」
「○○○(くちを小さくして、あ。の。よ・・・・)」
そーだね、白婆さん、あんたにゃケニアには行って欲しくないよ。