碧。

歴史の頂点を染め続ける色。

幾星霜と、人々が見上げ続けた頂上。

そこは常に風が循環しており、見渡す限り澄み渡っている。

そのため、想像を絶する奥行きと幅を維持していながら、どこまでも透明度が高い。

風が常に磨き上げるそこは、洗練されており、濁りがない。

清廉なまでの天上の先々を人々は視力の続く限り、見続けてきた。

地上よりも遥かに広大な天界を。

そのような人々へ向けて、こぼれていく天凛の数々。

あまりに人々の上がれて振り下ろされたという、碧き息吹。

それはまず、最高峰の山々を吹き抜け、人々を吹き染める。

 

大いに天分を秘めた風に吹かれ、人々は目を目を細めて、嘆息をつく。

土足で土煙に覆われた地上を、掃き清めていくかのような天の再来に向けて。

風が吹いた後の地上は開け放たれ、見たこともない絶景と化すからだ。

これからの行き先が地平線の先々まで見通せるから、歩みも加速する。

自分たちだけではふさがっていた先が、透明度の高い碧さを通すことで、たちまちに拓かれていく。

混沌と迷走から解き放たれ、明らかになっていく歩む先に、両手を合わせながら、進んでいく人々。

風は、そんな人々の追い風となって、背中を押してくれる。

それにより、一層軽くなる足取り。

加速されていく人々のペースが、文明を促進し、さらに見渡しがよくなる先々。

広大な空に投影されている頂きが、また一つ明らかになる喜び。

開化していくさなかで、さらに研ぎ澄まされる人々のメガネが、それを可能とする。

そんな彼らをまた一歩先へ押し続け、メガネの先にも透明度の高い空気を送り続ける風。

天分を秘めた息吹が、高度なものを吹かせ続けることで、触発される人々。

天の全てには視力は続かなくとも、風の中にその一旦、また一旦と見ることができるから。

数多のヒントに吹かれ、開明せざるえない。

 

ますます、次第にメガネの度を高めるすべにも見え始め、ますます遠くにまで、視線が向かっていく。

そこに速く届きたくて、加速するペース。

歩が、いつのまにか走りに変わっていく。

疾走感により、さらに天分を含む風に触れる回数も多くなり、度を越して磨かれていくメガネ。

遥かなる先が、見えれば見えるほど、止められない。

早くなりすぎて、空気の壁を突き抜ける事になろうとも。

その衝撃で一瞬で、目が閉じていってしまっても。

その間、瞼の裏に暗闇が広がってしまっても。

勢いづきすぎたペースを止めれば、崩れかねないから。

朦朧とする意識を引きずって、走り続ける人々。

視界が閉ざされることで、互いの位置がつかめず、ぶつかることがあっても。

そのことで、血がしぶき、数多の人々が倒れてしまおうとも。

ここまで、進んだものを後退させるわけにはいかないから、是が非でも前に進もうとする。

そのことで、周囲と摩擦が激しくなろうとも。

あまつさえ、風とぶつかる事になっても。

そのことで、風に赤黒さが交じることになっても、閉ざされがちな視界の中で、駆けずり回る。

 

あまりに凄惨な勢いに、周囲との摩擦がこうじ、黒煙さえあがる地上。

透明だった空がどんよりとし始め、風すらもそれに染まっていく。

地上で起こる摩擦の数々が戦火を残し、空さえ焦がしていく。

これでは、天分を含んだ風も影にやり込められていくが、戻ることができない人々。

あとに多くの死傷者を残してでも、進み続ける。

追い風に、死臭が混じっても、その死臭と背中がこすれあい、つんのめりそうな黒煙を上げても、そこから逃げるように走っていく。

後を振り返れば、沈んでしまいかねないから。

いつしか、風を受けて心地よかった時が終わり、風からも逃れるように進み続けるようになる人々。

背中の風とも、辺りの風ともこすれあってしまうから。

天分も、今は黒ずんで見えないから。

風の隙間へむけて、目を尖らせて、突き進もうとする。

こちらが血眼になって猛突進しているため、辺りの風も勢いを増しているように感じる。

吹き荒れ、風が空間とこすれあう音が聞こえる。

尖った風の先が、時折、こちらに当たってくるからわかる。

何度も何度も、一定の周期で、こちらに向けてくる。

そのたびに、進行方向を迂回させるも、向こうにも渦中があり、風穴がわずか。

それでも、止まることはできない。

渦が激しくなればなるほど、後方の死臭も吹き付けてくるから。

隙間を縫い、進み続ける。

吹き飛ばされないように、隣の人々と肩組み合いながら。

皮肉にも、天分が見えなくなり、逆風となった時のほうが、協力し合えることに苦笑いさえ浮かべてしまうが、それは皆同じ。

つながりあい、体重を相乗し合うことで、黒き猛風を退けようと。

あまつさえ、それが瞬間最大風速で、体当たりしてこようとも、つながりあった手だけは離すまいと。

 

この手を離せば、自分も、相手も、吹き飛んでしまうから。

ようやく芽生えた連帯意識を、もろとも、吹き飛ばされたくなくて。

自分だけ手を離して助かろうとしても、目の前の人との手をとけば、折角の和も途絶えて、散ってしまいかねないから。

ただ、見捨てるということが、道義的にも実利的にも難しくなっていく。

昔は、倒れた人を振り返らず、自分だけで進んでこれたのに。

そのほうが、身軽で良かったのに。

そのほうが、速く先へ進めたのに。

今では、創りだされた和の一員となって、空気に浸っている自分がいる。

自分を握る人々の手が、暖かい。

他人の温もりが暖かいということに、ようやくにして気づき始める最中。

あろうことか、それにより、自身が暖まっていることにも。

一人で走るよりも何倍も、暖かくなっている手が感じられる。

また、一人になれば、きっと冷たい。

そう思うと、手放す行為そのものが億劫になってくる。

もちろん、それでも、一人で走ったら、爽快だとも思ったが、今は、今まで感じることのなかった、このぬくもりに浸っているのも悪くないと。

また、相棒たちの存在により、蒸しあうこともできる。

「嵐の野郎のおかげで、暖っけぇぜ」とかなんとか言って。

隣との打ち解けた会話も、嵐の功名というべきか。

これが、嵐が過ぎたと、消えるのかと思えば、ちょっと惜しい。

もう少し、このままでいてもいいかも知れない。

嵐が高まり、瞬間最大風速を更新し続けているけれど、その分、仲間たちとのつながりが最大速度で磨かれるから。

嵐の圧力のおかげで、人の和も圧縮されてムダがないし。

このまま、濃密に走れるなら、それがいい。

それでいい。

晴れている時よりも、今のほうが、遥かに暖かいし、満たされている。

 

嵐よ、過ぎないで。

このまま、癒やしの快走を続けさせて。

このまま、団結と、ぬくもりと、そして、そんな美辞麗句を鼻で笑っていた日々を吹き飛ばし続けてくれ。

風は天分をくれ、次に暖かくつながる日々を運んでくれた。

これなら、誰かが倒れても起こしあえるし、自分への保険にも繋がる。

利己的だけれど、それが回りに回って周囲にも循環している。

ただ、一人で走るだけでは見えなかった景色が、すぐそばにある。

お願い、嵐よ、このままで。

このまま、僕らを見捨てないで。

どうせなら、ずっとそばにいて。

あなたに打たれている時が、もっとも結束力が磨かれている時なんだ。

あなたみたいな強大な圧力がなければ、こんな結合力は生まれないよ。

ああ、ダメ、

離れちゃダメ。

そんでもって、いつもの澄み渡った風なんか吹かして、快晴をかまされた日には別の形になってしまうだろうから。

ねぇ、お願いだから、遠ざからないで。

もう少し、このままでいさせて。

そうじゃないと、なまじ結束を知ってしまった僕らはあらぬことをしでかしてしまうよ。

ほら、あそこに変な奴らが。

 

あなたが上から押し付けたり、横に振って崩したりしないから。

妙に、ハイになってしまっているよ。

ほら、あんなに、幅を利かせて。

面積まで、とって、増長しているよ。

あなたが、いないから、隙間でひしめくことを忘れてしまったんだよ、彼らは。

地平線からもあんなにはみ出して、勝手にのぼせ上がろうとしている。

人が、空に近づこうとしても、所詮、人間ピラミッドだよ。

そりゃ、今まであんな組体操する連中はいなかったけど。

あれも、結束が高じた結果だけれど。

あれも、濃密なひと時だろうけれど。

競いあうだけよりも、遥かに楽しそうだけれど。

どっちかって言うと、混じりたくなってくるけれど。

あの頂きからは、空の景色がより遠くまで見渡せそうだけど。

おまけに、空からの真新しい風が気持ちよさそうで、嵐が開けたまっただ中を満喫できそうだけれど。

これでは、逆説のあともいつのまにか、淡くなってしまって。

 

思い返せば、風に吹かれてはじまり、高まっていった人々。

加速して嵐まで作ってしまった人々。

それでかえって、絆が高まっていった人々。

組み上がった先では、新鮮な地平線が見える人々。

とりどりの風の様で、変わっていった後、久しぶりのスカイラインにほだされて。

これでは、言いたいことも碧く塗り替わってしまう。

別にため息が溢れるわけもなく、それすら、透明度の高い景色の中に、まぎれていって。

遥かなる高みの下で、つながりあいながら。