ピットウォールに注ぐ太陽。

赤きテント、赤きコンピュータ類、赤きチームウェア、それらが黄金色をまだらに写す。

高温直下で見える陽炎、ゆれる景色。めいめいの赤さが、赤と黄金の間で揺れ動く。

ホームストレ―トを前にして、めいめいのディスプレイにかじりつくの表情が、そこで揺れ動く様が見て取れる。

片方の口角を上げる柔和な表情、量の口角を上げて、苦虫を奥歯に噛みしめる姿が交錯する。

各々の赤さの間から、覗ける顔色は様々。

黄金のスポットライトを受けて、多少表情を黄色気味にしている。

赤きチームウェアの間に紺碧と、緑白のアンダーを覗かせながら。

一人だけ異色のアンダーを帯び、ディスプレイを見ている少女もいるが。

とりどりの表情の中で、一際白く。

黄金が染める南天直下においても、一際白く。

染まらない色彩を顔色に表し、展開に見入っている。

赤いチームウェアとその白さが好対照に見える。

陽が照らせば、ともに光を得て、紅白のコントラストが浮かび上がっている。

新調された赤き襟元から覗ける、きめ細やかな素肌が香る。

一際白い。

日にも染まらぬ色をそのままに、一輪の茎を首元から伸ばして。

辺りの蒸気が灼けて、蒸発していくときの白さが、茎の肌合いと同調する。

醸し出されている白い雰囲気は、サーキットのものか、少女の肌色からくるものか。

いずれにせよ、色が香る。

渋い顔をしている者にすら、柔和なものを差し込ませてしまうほど。

渋い顔のシワの一つ一つに、香りを差し込ませて。

自然に、次第次第に、シワの深みが薄まっていく。

どことなく通ってくる、白さにほだされては。

ディスプレイで散る火花が見える度に、ほぞを噛む動作をゆるめていく。

辺りの景色に擦れきっていない、白さにより。

ドライバーの滑らかでないコーナリングにも、深刻なシワは白さのなかで、和らげて。

なかには、柔和な表情で受け取る者も、チラホラ。

中心で香る、純な色香のせいで。

いや、おかげで。

とくに言い合うこともなく、ディスプレイを見ている。

少女を、中心に据えて。

辺りをそばだてる白き光子が、どことなく漂う中で、基調を中心の純色に合わせていく。

 

そこからは、相変わらずの白茎。

みずみずしさとさえ、含ませて、しなやかに、おとがいにまで、添えられていく一筋。

それが、やわらかく、すっきりしたおとがいの先に、スラリと繋がっていって。

赤い胸元から伸びてくる、色香の最前線を、そこに伝えていく。

果肉の研ぎ澄まされよう、そのままに。

すっきりした顎のラインをもって、おとがいに届けられる色香の数々。

涼やかなおとがいにて、そよぐそれらのニュアンス。

風がそよげば、涼しさがさらに。

南天直下の熱風が、爽やかに感じられるほど。

たとえ、風が吹きすさんでいても、爽快さが余計に届くばかり。

熱さを増す中でも、尚更、皆の表情は緩んで。

ディスプレイに見入っている、少女のおとがいが、艶めかしい。

ディスプレイに映るステアリングが乱れ、火花散るときでも、その艶やかさの方が先で、こちらに飛び火することもなく。

ほぐれた表情で、それを眺めることができる。

 

皆が一体の表情を浮かべている中で、おとがいの先を刻みに動かしている少女。

ディスプレイの左の枠に、ドライバーのオンボード映像を見ながら、右枠の白いディスプレイに目を映しながら、どちらかというと、右枠のディスプレイに寄りながら、顔を二転三転させている。

目端に、オンボード映像を見据えながら、碧字と赤字で図形が表示されている、右枠のホワイトボード。

その中央やや上にはマシンのポリゴンが乗っており、それを取り囲む風の流れ、陽射しの向き等が記載されている。

左の画像でステリングが揺れれば、風も揺れ、陽射しを表すはずのラインも、なぜか一緒に揺れている。

乱れた風は乱流を起こし、マシンの周囲の流線を荒れさせており、陽射しと言うか、その反射光が乱れている。

風の乱流とマシンの間にはマシンを取り囲む碧き流線があり、反射光は表面上、マシンのボディから赤く発せられている。

乱流が増すとマシンを取り囲む流線が強くなり、ボディから放射される赤き光も多くなっている。

その間、少女は画面をみながら、右手を動かしている。

手元の5つのマボロバが白く瞬く。

サラリとした白さが醸し出されるほど、画面上の向きや数字が入れ替わる。

マシンの前後左右、上下、くまなく方向が入れ替わり、数字も入れ替わり。

5つの舞が、興じられることで、変容していく目の前の景色。

どことなく、5つの踊りに合わせて、ディスプレイが白く発光する。

南天直下で黄金の光子が立ち込める中、そまらぬ色が眩しい。

そまらぬどころか、小さなそれは、こちらも照らしてしまうよう。

そのためか、皆々の目の輝きにも艶めいた白さが。

少女の手の動きに合わせて、増す瞳の光。

ふんだんに注がれる黄金をも、軽快なまぼろばで紛らわして。

辺りの景色を、お色直ししていく。

軽妙に展開される5つの色香に、ディスプレイも一緒に。

皆々が見つめる中、様相を変えていく。

 

右枠のディスプレイにはシンプルに、「予想」と。

一際の輝きを含んだ色彩で。

眩しすぎて、誰もが目を輝かしてしまうほど。

「おーっ」と、声を上げる者まで。

5つの軽やかで、即妙な舞台が幕を上げて。

そこに浮かび上がるものに、舞を負えた少女ですら、瞳を輝かせて。

横に長い、つぶらな瞳に湛えられた光が、白く。

茶色い虹彩を照らし出し、数多の光彩を瞳の筋に、きめ細やかに反射させて。

いつつもの微細な光子に、瞳を塗れさせて、有り余るほど。

細い瞳を珍しく、大きくして。

体積の増した瞳には余計に多くの光が拡大表示されて。

光が広がる分、余計に隅々まで光子が行き渡って。

やはり、有り余る程の細やかな光が、どこかしこ。

瞳から溢れて、止まらない。

こぼれても、いざ知らず。

諸手まで、上げて。

「やったー」と。

白く細い声が、辺りに舞う。

それが皆の鼓膜を明るくし、表情にも。

緑白のアンダーウェアを着る者たちは、組体操までしている。

紺碧のアンダーウェアの者は、沈黙を維持したままだけれど、抱える淡さを光らせて。

めいめいが、少女の声色や表情に、涼やかになる余り。

左のディスプレイでは果敢に舵取りを繰り返し、速攻で迫りくる障害を避けるオンボード。映像。

右のディスプレイには、白き発光体の数々。

白い画面なのに、その文字の数だけ、印象的に映っているのは、なぜだろう。

終いには、黄金と赤で満たされている左のディスプレイにも、その光を添えている模様。

明るいビジョンが、珠玉のそれを彩り。

色移り、甚だしく。

白粉で満たされていく、左側の映像。

そこは、幾多の紆余曲折を経て、南天を抜ける一本道。

坂道を駆け上がり、行き着くサーキットの頂上。

遥かなる映像が、眩しい。

 

 

 

さぁ、全50周中38周地点の終盤を控えた状態において、意外な色彩を浮かべる南天チーム。

トレードカラーの赤はそのままに、光り輝く色は、黄金ではなく、白。

コース上のマシンが赤と黄金の光を発している中、それに染まらぬピットは異彩。

南天の伝説の大半は赤と黄金で彩られているが、同調しないのは戦略あってのことか。

古代より続く流れ、南天を高めてきた二つのトレードカラーは、先程の3Dエキシビジョンに投影されてきた光景。

そこにあったのは、白ではなく、赤が王冠を帯びた光景だ。

南天の地はこれにて、趨勢を決めてきた。

白の入りこむ余地は、かつてはなかった。

その証拠に、南天チームのマシンは二つの象徴色を放ち、コースアウト以降の順位を盛り返してきている。

そのような追い上げの色彩と異にするピットの色彩。

見た目、色違いに見えて仕方ないが、彼らのディスプレイ上は南天の二色を照らしてあまりある後光。

コース上はともあれ、ピットの映像上は、スポットライトとして成立しております。

 

問題は、それがコース上でも成立するか。

知ってのとおり、このコース上には膨大なる陽光が注いでおります。

南天においては、それは黄金色。

人類が掌にもつには希少過ぎる色だが、太陽をもって、地上に放射されれば数百億年以上にも渡り、生きとし生けるものを輝かせる存在。

その光量は、豊富の一言。

あまりあるその光量でもって、南天における思い出の数々を、潤沢に形容してきた色彩。

それがゆえに、至高の色とさえ、崇められ、現在においてもキトル・レア南部においては、日々仰がれている光。

この流れで考えれば、今後も南天チームが南天に地盤を置く限りは、黄金の光を全面に受けて駆け続けたい所。

元々の光の量・質が至高なのは元より、大変親和性が高く、実績に満ちている。

あえて、白き光で満たさなくとも、すべてを黄金で照らしていけば、一方のチームカラーである赤も生きるはず。

ただでさえ、黄金と赤は玉座を締めてきた色であるのだから。

今まで使ってこなかった白色光を採る理由は、どこにあるのか。

歴史的経緯からは先述のとおり、皆無であるが、彼らもトップへ挑もうとする集団。

現在、四位にて再び、三位争いに挑もうと言う次第。

ピットの色彩の一つ一つが旗色に影響するレースでは、勝算なき光を灯そうとはしないはず。

ましてや、あそこまでピットが沸いたりはしない。

赤き炎の一点の、白一点のために、ピットが1色に染まるということは、可能性を見出したと見ていいのか。

 

どうも、そのど真ん中にいる少女の存在を追っていきたいところだ。

資料によれば、名は、キーア・ミハレン。

異大陸・エザーヌの中枢を担う一族の直系にて、キトル・レアでは、かの高名なる将軍の末裔の一族ではないかと言われている、いわば、歴史の嫡流に近い存在。

かの将軍の出身が中央部における南側であるとすれば、南部ともゆかりがないわけでもない少女とはなる。

それも、あくまで中央部の南側というだけで、純粋な南部へのゆかりを持つわけではないが、遠くはないと言ってもおかしくない少女。

疑問な点は、そのくせに、ヘイゼルの光ではなく、白き光であるという点だ。

これからを生きる立場として、自ら出自の色も新たな光で照らし出して行こうという存在なのか。

確かに、天下のヘイゼル色を照らせるなら、南部を照らすことはわけないかもしれない。

そして、彼女は南部に近いゆかりであることも考慮すれば、十分に可能性は見えてくる。

後光となってうまくサポートすることができるかもしれない、ということだ。

そういう意味で、鍵となるキーア少女。

彼女はエザーヌで生まれ、父は一大陸のリーダー、兄も同様という、指導者の家系。

かの高名なる血筋からすれば、そこまでは呑み込めるが、さらにキーア少女自身の特質として、彼女はエザーヌのエリート学校の数学、物理、情報処理において目覚ましい成績をおさめて、半ば主席で卒業しているほどの才女中の才女。

その処理能力は高く、コンピュータでしなければならない計算を、自身の指さばきでいなしてしまうほど。

 

いわば、エザーヌが誇る秀才である彼女。

そんな彼女が、ドライバーのセイン少年に伴われて、このソールフォーミュラへ出場した。

自然、ピットではその頭脳と処理能力を活かし、様々な方策を立てる中心人物へと、即座に抜擢される。

その後も、マシンのシステムの調整を、セイン少年向けにカスタマイズして、送り出してと、ドライバーであるセイン少年以上に、マシンの特性について詳しい印象がある少女。

ソールフォーミュラへの初エントリながら、天下の血筋が影響したか。

大河の知悉は、キーア少女のなかに流れているのかもしれない。

そのような世界レベルの才媛である彼女の眼差しをもってすれば、レースの今後に彼女独自の光明を見出していてもおかしくはないところ。

光の創出は、天雄のゆかりであれば難しくはないのだ。

そのような輝かしい彼女ならば、既に光を発しており、その光に真っ先に魅せられた者たちがピットのスタッフたちと言ってもよいのではないだろうか。

ただ、その光がヘイゼル色をしていないというだけで、なんの問題もなく受け入れられた。

天媛のもつ目覚ましい色香には、つきものな現象だ。

それに、現時点の太陽光が黄金に見えても、それはいつ白き輝きに見えてもおかしくない。

南天でなければ、太陽光が白いというのは、最も尊い事実であるからだ。

南天においても、時として、そう見る者も、かつてはいたかもしれない。

歴史上にそれは昇っていないというだけで、歴史家たちが南天の発掘されていない文献等を漁れば出てきてもおかしくはないことだ。

太陽の光は黄金にも見え、白くも見えるのだから。

そのようなもう一つの至高の光がそばにあって、誰が感化されないだろうか。

その眩しさが焼き付き、脳裏を染めたものならば、反応してしまうがひとではないだろうか。

しかもそれが、才媛の姿をしており、涼やかな素振りをしていれば引き込まれて当然である。

 

ようやく、終盤戦を迎えるに当たり、見初められた少女の光。

その淡さは、キトル・レアの歴史に通ずるのだ。

サーキットはこれより、一周一周が今までの総括、つまり、持てる輝きの集大成により彩られることになる。

彼らが目指す当面は三位争いだが、それにしても、ステージは頂上へ向けて、確実に傾斜を強め始めている。

そこは、数々の天下の名場面を引き起こしてきた、源泉の地。

最先端のテクノロジーが、しのぎを削り合ってきた伝説の地。

キトル・レアの歴史の全ては、かの追憶の上に形成されており、常に大河のど真ん中であり続けてきた聖地。

最果てと人は呼びはすれど、史上の英雄たちは、すべてかの地を巡ってきた。

汗と涙が流れ、昇華して。

そばだつストリームが。

祠サーキットにおいても、その事実は変わらない。

南天チームといえど、例外なく。

彼らは、これから北西部に突入する。

人類を照らす至高の光たちが、この上なく集まる、遥かなる地へ。

淡き光が、また一つ、投入される、というだけで。