やりきれないなぁ。
これじゃ、じっと立ってられないよ。
後ずさりしそうだよ。
だって、オレ、ものすごい照れ屋なんだよ。
ハートだって、そんなに大きくないし。
むしろ、チキンだし。
口から飛び出てしまいそうなほど。
そのせいで、声も詰まっちゃうほど。
ああ、ここに白と緑の英雄がいたら、こういうとき勇気出して、声掛けられるのかなぁ。
振り向く暖色に、大好きだよって言ってあげられるのかなぁ。
いいなぁ。そういう男。
オレも、そうなりたいなぁ。
大好きって、言ってやりたいなぁ
後ろから不意打ちで言われたら、驚いちゃうかも知れないけど。
それくらい大胆になってみたいなぁ。
ああ、そんなことができないから、息がこぼれちゃう。
生暖かさを通り越した、温度が駄々漏れしちゃう。
抑えられないよ。
こみ上げるものが詰まっても、隙間から、漏れてしまうよ。
男らしく、声かけられればいいんだけど、その前に締りもなく、とりとめもなく。
こぼれた蒸気が、目にまで及んで、色まみれの目がつられて、涙腺を溶かしちゃって。
こともあろうに、お湯が目の端々から決壊していくよ。
なんでなんだろう?
声も詰まってるのに、こういうモノが次から次にこみ上げてしまうのは。
なんでなんだろう?
お前に大好きだよって、手紙だと言えて、面と向かうと言えなくなるのは。
こんなバカさ加減で、滴ってしまうのかな。
それとも、お前に会えた懐かしさが、溢れてるだけなのかな。
どっちでもいいけど、抑えきれないよ。
目でも、口でも、形にならないものばかりが、こぼれ出てきて。
大好きなんだよ。
ここ一年、ずっと詰めてきたんだよ。
会いたくって、仕方なかったけど、ずっと溜めてきたんだよ。
氾濫しちゃうほど、いっぱい。
それなのに、出てくるのは、別の洪水。
これじゃ、アラレもないよ。
まず先に、ビシっと言ってあげないと、いけないと思うのに。
ああ、ダメだ。
こんな状態で、振り向いちゃダメだよ。
後で、洗面器で、洗ってくるから。
で、風呂入って洗って清潔にしてくるから。
服もシミとアカだけのボロじゃなくて、綺麗な服を来てくるから。
ちょっと、待ってよ。
まだ、こっちに来ちゃダメだよ。
そんなに輝かせて来ちゃダメだよ。
そんなに黄金色いっぱいにさせられたら、取り繕う余裕もなくなっちゃうじゃないか。
意識もどこかにすっ飛んでしまうじゃないか。
満開の華を前にして、なす術がなくなっちゃうじゃないか。
もっと、格好良くしたかったのに。
色々な凝った台詞、考えてきたのに。
お前は黄金の飛沫を上げながら、駆け寄ってくるんだね。
オレと違って、体裁を取り繕わなくても、華を随所にまとって。
ただの鼻水からできた水たまりも、それがクチャっとくっついた服の辺りも、黄金に染めて。
低く湿り気のある声にも、黄色い色彩を染み込ませて。
瞳から、最大光量を放って。
吐息にばかりで、「ちょっと待って」とも言えないオレを、構うことなく包んでくるんだね。
オレの埃やアカも一緒くたに、黄金まみれにしてしまうんだね。
入り乱れて、咲き乱れて、貴重な色を惜しげなく。
四方から、隙間なく、擦りつけてくるんだね。
これじゃボロいエンジ色のTシャツも、値上がりしちゃうよ。
もったいないくらい、擦りつけられたら、昇るところまでいっちゃうよ。
制御できる限界まで。
そしたら、このまま倒れこんじゃうよ?
いいのかい?
お前を抱きしめたまま、暗黒の麓まで共連れだよ。
それでも、擦りつけあってしまうから、お前も熱くて、ただれていっちゃうよ。
今の比ではないよ。
至るところをふやかして、一年間分の黄金をもらいにいってしまうからね。
いいのかい?
ロマンチックのムードのカケラもないし、英雄業とも程遠い、地に堕ちた姿を見せ合うことになるよ。
オレが考えてきた名文句も、すっ飛ばしちゃってね。
バカ。
こんな時にも「会いたかった」とか言わずに、抱きしめるだけで。
前置きを飛び越えて、行き着くボロさの中に埋めるのみで。
それでいて、目の前に眩しさを突きつけて。
これじゃ、いきなり過ぎて、吹っ飛んじゃうよ。
ねぇ、もう手遅れだよ。
バカ、バカ。
朝っぱらから、刺激が強すぎるけど、もう知らない。
抑えてきた、こらえきれないものも、お前の中にクベてしまえ。
おれを燃やす黄金も、オレの熱で燃やしてしまえ。
どうせ、それでも、完全燃焼なんてするはずもないんだから。
黒ンボ以上に、ドロドロにグチャグチャにしてやる。
ずっと考えてきた再会シーンも、蒸発させて。
止められない業火で、黄金のフレアを起こして。
誰を責めることもなく。
そもそも、言葉すらなく。
ノエリアの陽が、戻ってくる最中で―――。