差し向けられる光以上に、目を光らせ、ワナワナとふるえる少女。
その少女を、下から伺う少年と黒ウマ。
「バブー?」とウマを合わせるも、二つの眼光は和らぐこともなく。
日陰になった面の中で、走っている。
震わせながら。
薄紫に染められてた紅も、開くこともなく。
むしろ、結んだまま。
二人に背を向け、歩き出す。
故郷の街道筋へと。
顔を見合わせながら、それを見つめる一人と一匹。
それを振り返ることなく、去っていく少女。
金髪が残照さえ帯びている。
その間に見えるうなじの筋に残影を宿して。
後ろ髪に斜光を滲ませて、距離を開いていく。
小さな肩を落として。
トボトボと。
何一つ、言葉も吐けず、身を震わせるのみで、静かに引いていていく。
一人と一匹の間の、隙間風が冷たい。
海からの冷たさが、そのまま入ってくる。
陽はあんなにあるようで、いつしか沈む準備までしている。
慣れ親しんだ、輝くばかりの光景が、引いていく。
海の満潮以上に、早く。
あまりに急に忍び寄る暗さと冷たさに、身震いする一人と一匹。
戻らない暖かさとの間で、いてもたってもいられなくなったのか、急に立ち上がり、互いの身を重ねあう。
一匹の上に、一人を載せるカタチで。
硬直する体を温め合いながら、走り出す。
初速は、風に飛ばされないように、乗ってからはまっしぐらに。
遠ざかる背中に追いかけようと。
今度はこっちが風を切って。
ニンジンでもない、黄金の懐かしさを宿した姫のもとへ。
わざわざ、追いかけてまで来てくれた少女のもとへ。
汗を滾らせ、二つの口から気をほとばしらせて。
「ごめん、アリア、ごめん、行かないで」と。
「行かないで」と。
遊んだわけでもなく、本気なわけではなかったが、思いやりがたりなかったと、言いたいかのように。
ただ、その言葉のみを連呼する。
その証拠に出てくる「オレが悪かった。だから、だから」と声を上げる少年。
いつも見守ってくれていた存在へ。
行かないでと。
ごめんと。
オレには、アリアが、アリアがと。
いつしか、声を上ずらせながら。
オレ、いつもお前のことばかり、見てた。
お前がいつもどうしてるのか、見てた。
お前の大人なところとか、憧れてた。
あ、オレもこんな風になりたいなと、憧れてた。
そりゃ、さっき、黒んぼで来ておいて、止まれないお前を、からかっちゃったけれど。
本気なワケないだろう。
お前が手綱に慣れてないところを、わざわざ来てくれたことくらい知ってるよ。
それを押して、わざわざ来てくれたんだろう。
見てればわかるよ。
オレ、そんなにひどくないよ。
今回、基悼の高みに挑もうっていうのも、お前のためなんだよ。
お前から離れようなんて、思ってないんだよ。
このノエリアを、お前のいる場所をもっと良くしたくて。
今の今まで、こんな大事なことが言えてなかったけど。
何度も言うから。
言わないと気が済まないから。
行かないで。
できれば、これから先も、ずっといて欲しいと思ってるんだから。
ごめん、ごめんよ。
流れる大粒の涙。
もう、目まで赤い。
目の前に映るものが涙にまみれて、よく映らない。
切れ長にいっぱいにまで溜めて、決壊させて。
平素の綺麗なそれも、グジャグジャになっていて。
それを囲う長いまつ毛もグジュグジュで。
高い鼻筋に似合わない、浸されよう。
アリアという名の洪水が、そこ一面に溢れていて。
鼻水まで、ぶら下げて。
そこから、鼻毛や鼻クソが出ていることも構わないで。
ボロボロと、ダラダラと、不潔まみれで。
しょっぱさで、溶けてしまっている。
さみしさとは、どんな酸よりも強力らしい。
声まで、形をなしていない。
もう、何を言っているのかさっぱりわからない。
口角は垂れ下がるのみで。
咽いでしまう声なき声。
ただ、倒壊する間際かのように、震えるのみ。
黒ウマの背中で、支えてもらいながら。
黒ウマも「バブー・・・」と声無き声を重ねて。
その場でへたり込む。
振り返らない目前の少女のそばで、さらに倒壊していく。
咽ぶ二つの声、震える二つの肩。
その場に汚物を撒き散らして、彼女の傍で泣き崩れる。
大好きだ。
大好きだ。
行かないで。
行かないで。
と、声なき声を、洗えもない様に込めて。
堪えることもできず。
肩を引くこともできず、号泣のアンサンブルを、場をわきまえることもなく。
それだけ泣けば、気づいて暮れるんだろう。
どれだけ泣けば、振り返ってくれるんだろう。
どれだけ泣けば、ハンカチ暮れるんだろう。
どれだけ泣けば、拭ってくれるんだろう。
どれだけ泣けば、流してくれるんだろう。
どれだけ泣けば、どれだけ泣けば――。