「テア―――」と、声が聞こえる。

聞いたことのある、低く湿った声だ。

ウマのひづめの音とともに、それが駆け抜ける。

胸の中で、ある温度が思い出される。

懐かしい、金髪の――。

タッタカタッタカと。

周期的な足音と共に、こちらに。

と、思いきや、過ぎていくウマ。

途端、眉毛の高度が、上下で不揃いになる少年。

「げ」という低い声のみを発して、一緒に流れていく少女。

金髪が、海風で舞う。

それを気に求めず、駆けていくウマ。

このままだと、海へ。

それを見て、即座に走り出す少年。

が、当然、ウマの方が速い。

に、追われれば、なおさら逃げる。

 

それに気づいて、走るのを止める少年。

入水する体になろうとしている少女を見て、一息付く。

少女はまたしても「テア―――」と叫んでいる。

金色の歓声は、当然、少年まで。

それを見ながら、一人、弁当箱を取り出す少年。

中からは、香ばしい匂いが。

涎を垂らしながら、開けたそこに、ハエも寄り付く。

少女の遠くなる声を背に、よりつくハエをそこに留めながら、それを端でとる少年。

「旨そうだ」と、遠ざかる背を横目にそれを掲げる。

「こんなに、美味しいの、もう食べられないなんて、残念だなぁ」といって天高く。

それを見ながら、二重の目を血走らせる少女。

彼女の少年の名を叫ぶ声が、鋭くなる。

構わず、光らせる少年。

すでに、小躍りしている。

右手に赤い人参を握り、左の端で、一口サイズに調理されたそれを掲げて、腿を上げている。

どこかで見たことのありそうな踊りだが、とりあえず、人参は人参。

少女の眼中にはない。

むしろ、その鋭峰が少年本人を突き刺そうと、ターンして。

亡霊のように、迫る。

少年の名を叫ぶ、声と共に。

目の下にクマをつくり。

スラリとした頬を、三角にそげさせて。

普段は赤い唇を、青紫にまで染め抜いて。

生霊のように、猛進していく。

「人でなし」と掌を返し。

風を切って、突っ込む。

少年の抱える、人参の元に。

もう一つの口をおっぴろげて。

化物のように大きく。

パクリと。

 

これには、ひとたまりもない少年。

その指先の先は、なめ取られ。

もう片方で握るものまで、ナメナメされている。

これではアラレもない。

少年の面もそれに合わせて、崩れる。

平素の、割と整った相貌が、跡形もなく。

これは残酷でもなんでもなく、生き物には当然のこと。

ましてや、飼っていたペットなら――。

横で、上目遣いの角度を急にする少女を裏腹に。

後ろから、にじり寄る足音を他所に。

可愛可愛している。

真っ黒なウマを。

いや、黒んぼ自身も、「ニンジン、おいちいにぁ」と目を細めている。

引き続き、頭を撫でられて「バブーっ」とまで。

それに釣られて少年も「バブーっ」と。

背中合わせの毒まみれを背に、歓声を上げあっている。

さすがに気づいたのか「よかった、よかった、ニンジン効果っ」と白い歯を見せる少年。

その照り返しが、できたての暗黒づらへ。